牛歩で進む「人民元切り上げ」

2010-06-28 | 国際
牛歩で進む「人民元切り上げ」 年内利上げの観測は消えず
2010年6月28日 週刊ダイヤモンド
 12各国からのごうごうたる非難をかわし続けてきた中国が、ようやく人民元の切り上げに踏み出し、2008年夏以来の“事実上のドルペッグ”に終止符を打った。だが、事はあくまで中国当局のシナリオどおりに進む。小幅の動きが続くだろう。一方、国内のバブル不安は消えず、金利引き上げ観測は依然残っている。
 ようやく中国が動いた。6月19日、中国人民銀行(中央銀行)は、「人民元の弾力化」を宣言した。
 二つの人民元切り上げ圧力に、中国は長らくさらされてきた。国内のインフレ・不動産バブル懸念と、米国を筆頭とする先進国各国のたび重なる切り上げ要求──。
 1週間後にG20を控え、欧州発の金融混乱も小康状態の今、「外圧に先手を打つと同時に、国内を説得するにも好都合」(鈴木貴元・みずほ総合研究所中国室上席主任研究員)なタイミングだった。
 ドル買い人民元売りの介入は過剰流動性の一因だから、中央銀行はバブル不安解消に向けて一刻も早い“弾力化”を望んでいた。抵抗していたのは輸出への影響を懸念する商務部と、雇用悪化を危惧する政府上層部だった。
 だが、人民元切り上げと輸出税還付引き下げによって、脆弱な輸出企業を淘汰再編し高付加価値化を図ることは政府の既定路線だ。金融危機で一時棚上げされていたにすぎない。今回の弾力化声明は、「国内に対しても、構造改革を再開するという意思表明」(朱炎・拓殖大学教授)である。
 週明けの21日、人民元の対ドル相場は政府の制限幅に近い0.42%の上昇を見せた。市場は輸出や雇用への影響を吸収できると判断、また、人民元切り上げは金融引き締め効果を持つことから利上げは遠のいたとの観測も浮上し、同日の上海総合指数は前日比2.9%と大幅上昇した。中国関連銘柄の買いが進み、日経平均株価も2.43%上昇となった。
当面の影響は限定的だが“中国リスク”は依然残る
 だが、市場の期待は一瞬で剥落した。翌22日には早くも当局が介入、前日比0.23%安で対ドルレートは6.8元台に戻った。上海総合は23日に▲0.73%と反落、日経平均に至っては同日までの2日間で▲3.07%となった。
 もっとも、切り上げ再開後の人民元上昇幅は、年率3~5%程度というのがおおかたの予想であり、「連日0.4%の切り上げを認めることなどありえない」(朱教授)のは自明だった。当初の市場の反応は、少々“浮かれ過ぎ”だった。
 円相場についても、人民元切り上げの影響は過大に評価されていた感がある。市場では、切り上げによってドル安・円高が進むとの観測が根強くあったが、21日のドル円相場はむしろ円安気味に推移した。「人民元高が円高につながるという見方にはさしたる根拠がない。円相場のドライバーとしては、米国の金利動向のほうが大きい」(田中泰輔・野村證券外国為替ストラテジスト)。
 今のところ、日本企業も冷静だ。「ドル建て取引なので影響はない。取引工場側の手取りは目減りするが、中国での生産工程コストは商品価格の10%程度で、それが3%動いても十分吸収できる」(ユニクロ)、「完成車の欧州への輸出と日本からの部品の輸入が相殺されるため、影響は大きくない」(ホンダ)。
 むろん、中長期で見れば、中国にとっても世界にとっても、切り上げ自体は間違いなくプラスだ。消費者の購買力向上で内需が拡大し、産業構造の変革により経済の健全化につながる道となるからだ。「今後はよほどの外的ショックがない限り、ドルペッグには戻らない。中国経済が次のステップに進んだという意味で重要な一報」(肖敏捷・ファンネックス・アセット・マネジメント・チーフエコノミスト)だ。
 政府が為替を管理下に置く以上、よくも悪くも急激かつ大幅な変化はない。したがって、切り上げによる引き締め効果も限定的だ。中国経済が抱えるひずみは、依然解消していない。
 これまで次々とインフレ・不動産価格の抑制策が打ち出されたが、「その効果が出ているという明確な証拠はまだない。政府が年後半の政策を決める時期である、7月下旬までが正念場だ」(肖チーフエコノミスト)。
 年内利上げの可能性が消えたと判断するのは、早計である。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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