鎌倉由紀子のブログ

現代社会はストレス社会ですが、心がなごむ、ストレス緩和に役立つ記事を掲載したいと思います。

「罪」 劇団民藝稽古場公演を観劇して

2012-08-01 23:38:32 | 日記
 家族四人で信州の温泉宿に宿泊しています。母はジグゾーパズルに熱中していて、娘は携帯のメールを入力しています。父はせっかくの家族旅行だから歓談をしようとします。息子が一人でお土産を選んでいると知って、母と娘は心配します。そこへ、お土産を買い求めた息子が部屋へ戻ってきます。息子には障害があって、家族はそれを気遣っているのです。しかし、お互いの不安定な心配りが、いつの間にか崩壊して行きます。一人ずつ感情を爆発させていく様は、連発する打ち上げ花火のようです。効果音は、しかし、激しく降る雨の音です。サマセット・モームの「雨」を連想させますが、この雨音は人を狂わせるのではなく、抑圧していた感情を解放する響きなのです。

 蓬莱竜太作、杉本孝次演出の芝居は、稽古場公演なので、舞台と客席の距離がとても近いのです。名優たちの吐息が身近に感じられるのは、物理的な距離のせいだけではありません。それは、登場人物と観客の心理的な距離が限りなく近いからでしょう。家族の会話は、少しずつずれていて、真意は伝わりません。会話のすれ違いがいつの間にか増幅されて、感情の爆発を招くのです。それでも、家族の感情の激高は、まるで雨に消火されるかのように収束して、仲良くジグゾーパズルを考える光景に落ち着きます。父親役の境賢一は、いかにも父親らしい物言いをします。まるで、ジグゾーパズルの外枠のように。いつもの境さんとは一味違う役ですが、ある面で権威主義的で、ある面で妥協的な父親を実に見事に演じています。母親役の白石珠江は、家族の心情がパズルのピースのようにばらばらになっていることを熟知していて、それを何気なく組み立てようとしています。白石さんも若いときからの名女優です。息子と娘は、パズルのピースそのものです。息子役の岡山甫の演技は、とてもリアリティがあります。娘役の八木橋里沙は、冷静さと熱情を交互に、実に巧みに表現してくれます。舌を巻くほどの名優揃いの芝居を見逃さなくてよかったです。

 今日から5日まで、京王線若葉台駅近くの劇団民藝で公演しています。詳しくは、劇団民藝のホームページをご覧下さい。

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