やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

↓投票ボタン押してね

blogram投票ボタン

幽霊だけど恋してる―30話

2013-07-19 07:37:24 | 小説
「そう。この鉄塔の・・・・」

透はあたりを見渡した。

何かを思い出そうとしている。

幸せだった時間。

生きているときの自分。

「確かあの辺りだと思うけど~記憶は薄らとあるんだけどね。どうやら建物も変わっているようで」

「確か以前に、家族は引っ越したと言わなかったっけ?」

時々透の話す内容には、信憑性を疑うことがある。

前に話したことと内容が違う。

「そうだよ」

「だったら建物が無くても、不思議ではないよ」

「わかってる」

「家族がいない家には戻りたくないって」

「わかってる。でも・・・・時折思うんだ。生きていた時の自分に会いたいって」

「生きているときの自分」

「そう・・・本当は・・・」

言いかけてやめる。

「どーしたの?」

彼の先が聞きたい。

「実は、、、本当はね。僕は死んでいないんだ」

「えっ?」

「身体はね。生きているというよりも生かされている」

「どーいうこと?」

「脳死状態なんだ。だからあっちの世界にも行けない」

「でもお墓に住んでいるって・・・」

「身体はね呼吸器で息はしているけど、本当は既に死んでいるんだ。だからさ・・・墓に住んでいるんだよ」

「家に帰ればいいじゃん。いや肉体に戻れば」

「身体には戻れない。もう長く・・・・離れてしまったからね」

「でもそれなら、せめて病室にいれば」

「僕が脳死になった病院は、この町にあるんだ。でも今は別の病院に身体は運ばれて、それもあって自分の身体がどこにあるかわからない」

「なんで?自分の肉体じゃん。理科準備室の勇作君なんて、いつも自分の眼と一緒だよ」

「それはたぶん。眼は肉の塊であって、生きていないからだよ」

「僕の場合は身体は生きているけど、身体と魂である僕とを繋ぐラインは切れているんだ」

「だから戻るに戻れない」


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする