少し軽くなった。
そうだ信じよう。
あの人のことだ、たぶん俺を守ろうとしたのだろう。
仲間や部下思いの人だった。
それはフリーになった今でも変わりないだろう。
「少し顔色がよくなったようじゃな」
住職の言葉に少し照れながら、頭前は頷いた。
「さて。道如、源興お主らに頼みがある」
二人の頑強な坊主が前に出る。
「この寺を出るということは、かなりの危険を伴う。その覚悟はできるかの」
「もちろん。仏に使える身です。仏のお側に近づけるのなら光栄」
「一人での行動は危険じゃ。二人で行動を共にするようにな。」
「心得ております」
「二人して四国の久万高原に行ってくれ。そこで平忠人の目撃情報がある。この寺の・・いやこの国の危機を伝えるのじゃ」
「はい」
二人は後ずさりをして、本堂を出て行った。
「いいんですか?死ぬ覚悟とは」
「坊主でもな。死にたいなんて本当は思わん。昔は即身仏になった住職も存在したが、現代の世では煩悩が多すぎてな。だからこそあの二人を行かせるのじゃ。あやつらには守るべきものがあるからの」
そうだ信じよう。
あの人のことだ、たぶん俺を守ろうとしたのだろう。
仲間や部下思いの人だった。
それはフリーになった今でも変わりないだろう。
「少し顔色がよくなったようじゃな」
住職の言葉に少し照れながら、頭前は頷いた。
「さて。道如、源興お主らに頼みがある」
二人の頑強な坊主が前に出る。
「この寺を出るということは、かなりの危険を伴う。その覚悟はできるかの」
「もちろん。仏に使える身です。仏のお側に近づけるのなら光栄」
「一人での行動は危険じゃ。二人で行動を共にするようにな。」
「心得ております」
「二人して四国の久万高原に行ってくれ。そこで平忠人の目撃情報がある。この寺の・・いやこの国の危機を伝えるのじゃ」
「はい」
二人は後ずさりをして、本堂を出て行った。
「いいんですか?死ぬ覚悟とは」
「坊主でもな。死にたいなんて本当は思わん。昔は即身仏になった住職も存在したが、現代の世では煩悩が多すぎてな。だからこそあの二人を行かせるのじゃ。あやつらには守るべきものがあるからの」
「・・・やはり。。。わしの力では未熟じゃの。どうしても奴の正体は掴めん。ここはやはり・・・平殿を探すしかない」
「たいら?」
「そうか、住田さんから聞いてはおらんか。たいらのただひと。。。平忠人じゃ」
「誰ですか?」
「そうじゃの。わしより位の高い。。。そう清浄師とやらがお主に伝えた最後の能力者じゃ」
「あぁ。。。その人はどこに?」
「浮浪者のように気の向くままじゃ。ただ・・・世の騒動は既に伝わっておる。そのうち我々の前にも姿を現すじゃろうて」
頭前は初めて聞く事実だ。
住田には伝えていた。
なのになぜ自分には言ってくれなかったのだろうか・・・。
住田の行動に疑問に感じることが、この2日で多すぎる。
あの人はなにを隠していたのだろうか。
頭前の感情を射抜いたように、亮寛住職は言う。
「仲間を信じれぬか。敵と戦う時に結束を固めた同士を信じられぬということは敗北を招く」
「いえ信じていないわけでは・・・」
「その迷いがならん。戦国時代では寝返るという事は頻繁に行われておった。昨日盃を交わした相手でもじゃ。争いが絶えなかったわけはそこにある。もちろん大義名分。世の安定。天下統一。領地を守る。。。いろいろと理由はあるがの。秀吉が天下を治めるまでは繰り返しあったことじゃ。そして秀吉の死後、忠義か裏切りかで大きな戦が起こる。そして徳川の政権が決まる。ここにも寝返りが勝敗を決めたが。。。勝利を手に入れることが出来ても、親友・友情を裏切ると二度とその絆は結べん。世が変わっても人との繋がりだけは変わらん。お主が住田さんを信じれないと思った瞬間に、すべては消えてなくなる」
「すみません。迷いがあります。私は信じていいのでしょうか」
「それはの。人の意見で左右されるのものではない。自分の気持ちと正直に向き合うことじゃ」
「これだけ秘密にされて裏切られてもですか?」
「裏切りと言うのはどういう判断基準じゃ?人の行為と言うのは、言葉と裏腹というものがある。お主を思っての嘘かも知れん。守るための行動かもしれん。相手の本心を知れ。そこから自分で下せばいいんじゃ」
住職の言葉に、頭前は悟った。
あの人が理由も無く自分に嘘をついたり騙したりするわけはない。
住職の言うように、何かしら理由があるはず。
「たいら?」
「そうか、住田さんから聞いてはおらんか。たいらのただひと。。。平忠人じゃ」
「誰ですか?」
「そうじゃの。わしより位の高い。。。そう清浄師とやらがお主に伝えた最後の能力者じゃ」
「あぁ。。。その人はどこに?」
「浮浪者のように気の向くままじゃ。ただ・・・世の騒動は既に伝わっておる。そのうち我々の前にも姿を現すじゃろうて」
頭前は初めて聞く事実だ。
住田には伝えていた。
なのになぜ自分には言ってくれなかったのだろうか・・・。
住田の行動に疑問に感じることが、この2日で多すぎる。
あの人はなにを隠していたのだろうか。
頭前の感情を射抜いたように、亮寛住職は言う。
「仲間を信じれぬか。敵と戦う時に結束を固めた同士を信じられぬということは敗北を招く」
「いえ信じていないわけでは・・・」
「その迷いがならん。戦国時代では寝返るという事は頻繁に行われておった。昨日盃を交わした相手でもじゃ。争いが絶えなかったわけはそこにある。もちろん大義名分。世の安定。天下統一。領地を守る。。。いろいろと理由はあるがの。秀吉が天下を治めるまでは繰り返しあったことじゃ。そして秀吉の死後、忠義か裏切りかで大きな戦が起こる。そして徳川の政権が決まる。ここにも寝返りが勝敗を決めたが。。。勝利を手に入れることが出来ても、親友・友情を裏切ると二度とその絆は結べん。世が変わっても人との繋がりだけは変わらん。お主が住田さんを信じれないと思った瞬間に、すべては消えてなくなる」
「すみません。迷いがあります。私は信じていいのでしょうか」
「それはの。人の意見で左右されるのものではない。自分の気持ちと正直に向き合うことじゃ」
「これだけ秘密にされて裏切られてもですか?」
「裏切りと言うのはどういう判断基準じゃ?人の行為と言うのは、言葉と裏腹というものがある。お主を思っての嘘かも知れん。守るための行動かもしれん。相手の本心を知れ。そこから自分で下せばいいんじゃ」
住職の言葉に、頭前は悟った。
あの人が理由も無く自分に嘘をついたり騙したりするわけはない。
住職の言うように、何かしら理由があるはず。
関わりたくない。
逃げたい。
本心を言えばそうだ。
しかし既に、どっぷりと浸かっていた。
それがわかるからこそ、こうして寺に来ている。
死ぬ覚悟・・・はできていない。
生き続けたい。
だからこそ、立ち向かわなければならない。
「何をすればいいのでしょうか?」
頭前は住職に聞いた。
「敵はお主が逃げようとも、必ずや追いかけている。それが今の状態。ならば迎え撃つしかなかろう。前にも言ったが出入りできる場所というのは限られておる。そのひとつがお主じゃが、これは先日封じ込めた。しかし今まさにお主の側に新たな扉を作りこじ開けた」
「それはどこに?」
「住田さんと申したかの?あの御仁にじゃ」
「住田さん?!」
「お主の側におって一番明け易かったのかも知れんな。そこまでわしも気付かなかった。お主の祈祷を行ったさいに側に居たのにのう」
「それでその扉から・・・守口さんを・・」
「たぶん」
「住田さんはどうなるんでしょうか?」
「わしにもわからんが・・・その悪霊の力と死を与えられたものを調べると、どうも若い連中のみが狙われておる。住田と言う御仁はもう年配じゃ。それで命は助かったのではないのかのう」
頭前はは自分の知る限りの自殺者や事故死の人物を浮かべた。
確かにすべてが20代までの人間だ。
「なぜ若い世代を狙うのでしょう」
「悪霊にとって付け入り易いのか、それとも格別な恨みを抱いているのか。。。何か理由はあるはずじゃ」
「理由を調べればいいのでしょうか」
「それもあるが、、、悪霊の正体がいまひとつわからん。それを突き止めればのう」
そのまま住職は目を瞑った。
何かを考えているのか探っているのか。。。
身動きもしない。
逃げたい。
本心を言えばそうだ。
しかし既に、どっぷりと浸かっていた。
それがわかるからこそ、こうして寺に来ている。
死ぬ覚悟・・・はできていない。
生き続けたい。
だからこそ、立ち向かわなければならない。
「何をすればいいのでしょうか?」
頭前は住職に聞いた。
「敵はお主が逃げようとも、必ずや追いかけている。それが今の状態。ならば迎え撃つしかなかろう。前にも言ったが出入りできる場所というのは限られておる。そのひとつがお主じゃが、これは先日封じ込めた。しかし今まさにお主の側に新たな扉を作りこじ開けた」
「それはどこに?」
「住田さんと申したかの?あの御仁にじゃ」
「住田さん?!」
「お主の側におって一番明け易かったのかも知れんな。そこまでわしも気付かなかった。お主の祈祷を行ったさいに側に居たのにのう」
「それでその扉から・・・守口さんを・・」
「たぶん」
「住田さんはどうなるんでしょうか?」
「わしにもわからんが・・・その悪霊の力と死を与えられたものを調べると、どうも若い連中のみが狙われておる。住田と言う御仁はもう年配じゃ。それで命は助かったのではないのかのう」
頭前はは自分の知る限りの自殺者や事故死の人物を浮かべた。
確かにすべてが20代までの人間だ。
「なぜ若い世代を狙うのでしょう」
「悪霊にとって付け入り易いのか、それとも格別な恨みを抱いているのか。。。何か理由はあるはずじゃ」
「理由を調べればいいのでしょうか」
「それもあるが、、、悪霊の正体がいまひとつわからん。それを突き止めればのう」
そのまま住職は目を瞑った。
何かを考えているのか探っているのか。。。
身動きもしない。
「私が必要・・・ですか?」
頭前は聞いた。
自分には特別な力も無い。
まして報道と言う枠組みの中では大胆に動けたが、今のように専門外であればかなり腰が引けてしまう。
それに・・・なによりも関わった人間が数人亡くなっている。
疫病神以外に何者でもない。
「そう。お主は必要な御仁」
「それはないでしょう」
「なぜそう思う?お主がいなければ、これから先どれだけの人が死ぬかもしれん。しかしお主が動き出したからこそ、最小限に食い止めれるかもしれん」
「なぜですか?もう数人の人が亡くなっている。それは私が暴こうと動き出したからではないのですか?」
「そううい考え方もあるじゃろうが、わしら仏に仕えるものからしてみれば、天命なんじゃ。今までなくなった者は、この世での修行を終えただけ。次の修行に出かけた・・・それだけのことよのう」
「しかし私達残されたものは、その死に悲しい思いをしているんです」
「それは生きているものの修行が足りん。亡くなった時に葬式と言う形で送り出してあげる。その時に泣けばよい。ただしそれは死に対してではなく、旅立ちへの涙。それは亡くなった者への感謝の表れでもある」
「そんなに簡単に割り切れません」
「そうようのう。だからこそ生き残ったものは、旅立ったものへの礼と慈しみと誓いを
立てねばならん。今のお主にとって、死者への弔い合戦こそがそうではなかろうか」
「・・・」
「亡くなった者への、新たな犠牲者は出さないという誓いじゃ。できるのう?」
「私に出来るのですか?」
「出来るかどうかは、お主の気持ち次第じゃ。どれだけ強い気持ちでいられるか。これもまた修行」
亮寛住職は、そう言うとまた御本尊に対して手を合わせた。
頭前は聞いた。
自分には特別な力も無い。
まして報道と言う枠組みの中では大胆に動けたが、今のように専門外であればかなり腰が引けてしまう。
それに・・・なによりも関わった人間が数人亡くなっている。
疫病神以外に何者でもない。
「そう。お主は必要な御仁」
「それはないでしょう」
「なぜそう思う?お主がいなければ、これから先どれだけの人が死ぬかもしれん。しかしお主が動き出したからこそ、最小限に食い止めれるかもしれん」
「なぜですか?もう数人の人が亡くなっている。それは私が暴こうと動き出したからではないのですか?」
「そううい考え方もあるじゃろうが、わしら仏に仕えるものからしてみれば、天命なんじゃ。今までなくなった者は、この世での修行を終えただけ。次の修行に出かけた・・・それだけのことよのう」
「しかし私達残されたものは、その死に悲しい思いをしているんです」
「それは生きているものの修行が足りん。亡くなった時に葬式と言う形で送り出してあげる。その時に泣けばよい。ただしそれは死に対してではなく、旅立ちへの涙。それは亡くなった者への感謝の表れでもある」
「そんなに簡単に割り切れません」
「そうようのう。だからこそ生き残ったものは、旅立ったものへの礼と慈しみと誓いを
立てねばならん。今のお主にとって、死者への弔い合戦こそがそうではなかろうか」
「・・・」
「亡くなった者への、新たな犠牲者は出さないという誓いじゃ。できるのう?」
「私に出来るのですか?」
「出来るかどうかは、お主の気持ち次第じゃ。どれだけ強い気持ちでいられるか。これもまた修行」
亮寛住職は、そう言うとまた御本尊に対して手を合わせた。
なかなか病院を離れることができなかったが、守口の家族が来る前に離れることが出来た。
目の前で知り合いが亡くなり、その家族の泣き叫ぶ姿は見たくなかった。
寺に着くと、既に朝の5時を過ぎていた。
もう寺には人の気配がしてもいい頃だが、あの事件以来、門前には人の姿は無い。
門を潜り寺に近付くと、若い坊主が立っている。
「おはようございます。朝のお勤めは既に済んでいますので、本堂にお入り下さい。
少しだけ口元を緩ませた笑顔だ。
礼を言って本堂に上がり、ふすまを開けると住職が座っていた。
周りを見ると寺の坊主が20人ばかしいる。
少し気後れしながらも挨拶をした。
住職は穏やかな笑みを見せて、座布団を勧める。
言われるがまま座ると、すぐさまお茶が運ばれてきた。
一口啜ると宇治茶の良い香りが、口いっぱいに広がる。
先程まで何も気にならなかったが、昨夜から水一杯口に運んでいない。
そのことをわかっているように、住職が話し始めた。
「昨夜のことは、大変でしたな。しかしそれも天命。警察の方にはわしからも読経をさせていただいた」
そう言うと、また手を合わせる。
「さて、今日はお主に着た頂いたのは、今後のこと。我々も既に敵として戦いが始まっておる。ここにいるものが全て、死を持ってしても退治する所存じゃ。お主もそれができるかの」
寺には50人近くの坊主が居た。
そのうちの数人が亡くなり、残った坊主で先があるものには出て行かせた。
残った坊主全員でこの悪霊に立ち向かうという。
その言葉に、並々ならぬ決意が感じられる。
「私も、戦います」
頭前は決心する。
住職が穏やかな目で、告げる。
「わしらもみすみす死ぬ気は無い。命は粗末にするものではないからの。しかし、この戦いには勝たねばならぬ。そのためにはお主は必要な力じゃ」
目の前で知り合いが亡くなり、その家族の泣き叫ぶ姿は見たくなかった。
寺に着くと、既に朝の5時を過ぎていた。
もう寺には人の気配がしてもいい頃だが、あの事件以来、門前には人の姿は無い。
門を潜り寺に近付くと、若い坊主が立っている。
「おはようございます。朝のお勤めは既に済んでいますので、本堂にお入り下さい。
少しだけ口元を緩ませた笑顔だ。
礼を言って本堂に上がり、ふすまを開けると住職が座っていた。
周りを見ると寺の坊主が20人ばかしいる。
少し気後れしながらも挨拶をした。
住職は穏やかな笑みを見せて、座布団を勧める。
言われるがまま座ると、すぐさまお茶が運ばれてきた。
一口啜ると宇治茶の良い香りが、口いっぱいに広がる。
先程まで何も気にならなかったが、昨夜から水一杯口に運んでいない。
そのことをわかっているように、住職が話し始めた。
「昨夜のことは、大変でしたな。しかしそれも天命。警察の方にはわしからも読経をさせていただいた」
そう言うと、また手を合わせる。
「さて、今日はお主に着た頂いたのは、今後のこと。我々も既に敵として戦いが始まっておる。ここにいるものが全て、死を持ってしても退治する所存じゃ。お主もそれができるかの」
寺には50人近くの坊主が居た。
そのうちの数人が亡くなり、残った坊主で先があるものには出て行かせた。
残った坊主全員でこの悪霊に立ち向かうという。
その言葉に、並々ならぬ決意が感じられる。
「私も、戦います」
頭前は決心する。
住職が穏やかな目で、告げる。
「わしらもみすみす死ぬ気は無い。命は粗末にするものではないからの。しかし、この戦いには勝たねばならぬ。そのためにはお主は必要な力じゃ」