やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

↓投票ボタン押してね

blogram投票ボタン

神隠しの跡-153話

2010-09-29 22:22:03 | 小説
「私は、母上を幼くして亡くした。父上とも離れてしまった。ただ父上にはあまり良い印象は無いが、それでも離れて月日が流れると、やはり会いたいと思う。それは血の繋がりだと思うからだ。兄ちゃんの気持ちも会えば変わると思う」
「そうかな~。でも俺は・・・まだわからない」

部屋の中で、徳之助はゆっくりと持って帰った荷物を見ていた。
榊は裕子と言う女性の写真を眺めていた。
本当にこれが母親だろうか。
何も証拠がない。
誰も証明してくれない。
ただ不思議な感覚だった。
「これ、これはどうだ?」
徳之助が榊を呼んだ。
榊は振り向くと、何かのノートが開かれていた。
「どうやら文字が書かれているようだが、かなり濡れてて文字が読めない」
榊が見てもそれは読めなかった。
それでも1ページ1ページ捲ると、ところどころ文字が読める。
ただ文章の繋がりが無いため、知りたい文章は出てこなかった。
それでも遂に白紙のページに行きついた。
たぶんこの日に行方不明になったのだ。
1ページ戻って日付らしい場所を懸命に読み取ろうとする。
滲んではいるが、少し色の濃い部分をなぞってみた。
たぶんこの濃いところから滲んで周りの模様ができている。
だからその濃い部分を読み取れば・・・。
4月2・・・次の文字がわからないが、2か3か8だ。
つまり22日か23日か28日だ。
榊の誕生日とされる日は、5月2日。
日は近いが何の関係もみつからない。

「博物館の吉川さんに聞いてみよう」
「何を?」
「裕子と言う女性が行方不明になったとされる日をだ」
「どうしてそれを調べるんだ?俺には何の関係も浮かばないが・・・」
榊は徳之助がなぜそんなことを言うのか不思議だった。
「行方不明になってから、何年後に兄ちゃんが生まれたのか知りたい」
「俺の誕生日?」
「そうだ。行方不明になったのは、兄ちゃんの父上と母上が知りあう前だ。その行方不明になってから、兄ちゃんが生まれた日までの年数で、何年間行方不明かを調べるんだ」
「それがどうなる?」
「それはな・・・・」
徳之助は言いかけて止めた。
「どうした?」
「いや。もう少しその答えは待ってくれ。まず確信が持ててから話す」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神隠しの跡-152話

2010-09-28 22:07:04 | 小説
「日が沈むから帰ろう」
榊が空を見上げると、一番星が輝いていた。
「そうだな。もう見えんし」
徳之助がいくつかの品物を持って出てくる。
「とりあえず今日はこれを持って帰ってみよう」
廃墟とはいえ他人の家のものを持ち帰るのはいい気分ではなかったが、徳之助が榊の母親かもしれないからと言う説得に負けた。
2人は青黒く光る海に船を走らせる。
八口島とこの中津島の間はわずか10分程度の距離だ。
瀬戸内海の島々も、今は無人島も多い。
島の半分以上の土地を売っているのも見かける。
だとしたら、島の間を移動しても、見かける人は少ないかもしれない。
もし裕子という女性が戻ってきて、しばらくあの島で暮らしていたとしたら。
徳之助の想像では、榊の親父が浮気をしたということだ。
榊自身もそれを考えたが、あまり認めたくない話だが、やはり同じことを考えてしまう。

島に戻ると、長老が義則にいろいろと聞かれたことを教えてくれた。
義則は血相を変えてこの島に来たそうだ。
いろいろと裕子と榊の親父のことを聞いたそうだが、何も物証もないため諦めて帰ったと聞く。
そうだろう。
この島の人間も榊さえも、何の確証も得ていないのだ。
両親が死んで十数年。
すでに闇に葬られていることなのだ。
「もし裕子と言う女性が、兄ちゃんの母上なら会いたいか?」
「・・・わからん」
「なぜ?」
「生まれてから会ったことが無いんだ。それで親だと言われても・・・・。育ての親の記憶もあまりないが、それでも俺にとっては親なんだ」
「でも兄ちゃんの父上も母上も他界したんだ。産みの親がどこかにいれば、唯一血の繋がりがあるんだ」
「それは理屈ではわかるけどな。でもな~理屈じゃないんだよ。」
境はまだ幼い徳之助に言う。
なんて大人びた子供だろう。
昔の子供とは恐ろしいものだ。
そう改めて思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神隠しの跡-151話

2010-09-27 22:44:42 | 小説
「本当かどうかは。。。でもお袋の子ではないとすると、可能性は高い」
「・・・・・なるほどな。。。でもそれは可笑しいだろう」
「何が?」
「おまえの両親が結婚するずーっと前に、裕子は失踪したんだ」
「そうです」
「それなのに、おまえ20そこそこだろう?数字が合わないんじゃ・・・もしかして、もしかして八口島に裕子は居た・・・ということか?」
「それはないと。お袋が居たわけですから。親父も不倫ができるような男じゃない」
「うん。わしもそれは思う。お前の親父は裕子と結婚する予定だったんだ。別の女と結婚してまで、わざわざ裕子とは」
そう言いかけて、義則は言葉を止めた。
「もしかして・・・・失踪していて戻ってきた。。。。お前の親父は裕子が忘れんで、あの場所に家を建てたぐらいじゃしな・・・久しぶりに会って再燃したとしてもおかしくない」
「でも、それだと誰かに見られている可能性がある。その、裕子さんが」
「どこか八口島に隠れていたんじゃないのか」
「さぁ~。調べてみたいな」
義則はそう言うと、一旦引き揚げて八口島に行くと言いだした。
特に断る必要もなく榊は了承し、義則は島を出て言った。

「兄ちゃん。私が思うに、あの石で神隠しにあったんだと思う」
「そうだろうな」
「それで兄ちゃんの父上があの場所に家を建てた。数年後に裕子さんは帰る方法を見つけてあの石のところに戻った。しかし父上は結婚していた。でも2人は再燃してしまい兄ちゃんを身ごもった。そのまままた神隠しにあい、数年後に兄ちゃんが戻ってきた。その時に財布を兄ちゃんの父上に預け失踪。兄ちゃんの母上はそれを知って自害した。父上を道連れに。なんてどうだ?」
「俺が思ってたこととほぼ同じだ」
「死ぬ間際に裕子さんの財布を持っているなんておかしい」
「なんとなく確信に迫ってきた気がするな」
「そうかもしれない」
「ただそれを確信にしてしまう証拠がないんだ」
「あくまでも物証がいるのか?」
「そういうことだ。俺たちは目先ばかり見て周りを疎かにし過ぎる。もっと慎重に動かないとな」
「よし。もう少し私は探してみる」
そういうと斜めから注いでくる日差しにシルエットを作って、徳之助は家らしき廃墟に入っていった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神隠しの跡-150話

2010-09-26 20:41:09 | 小説
「う~ん??これかな・・・たぶんこれだ。」
義則が指差した写真は、かなり若い女性の顔が写っていた。
かなり小さく写っているため、顔の表情はわからない。
「おじさんこれじゃわからんぞ!」
徳之助がダメだという顔で、義則に言った。
「ずばずば言うガキだな。まだ写真があるから待てや」
少し眉間に皺を寄せて、次から次とめくっていく。
「これが最後だ。やはりないな」
「よし、もう一度探してくる。たぶん同じところにまだあるだろう」
徳之助はまむしが怖くないのか、平然と入って行く。
「これはどーだ?」
大きな額縁に入った写真を見せる。
「それは遺影だ。先代のばーさんのだ」
「なんだそれは?」
「亡くなった人の思い出を飾るんだ」
「そうか・・・」
「そういう大きなのじゃなくて、小さいさっきのようなやつを探せ」
「ならこれか?」
数冊の小さなノートのようなものを取り出す。
現像するお店が付けてくれる安っぽいアルバムだ。
「おぉこれこれ。どれどれ、沢山写ってぞ。ただ、ちょっと若いな」
それは学生服姿の写真だった。
「面影はあるけどな~。しかし若すぎるか」
そう言いながら、次々と捲っていった。
「おぉこれは!」
指差したページには、榊の父親と写っている1枚の写真だった。
とても仲よさそうに笑い、肩を寄せ合っている。
「親父だ」
「そうだな。それで隣のが・・・」
「裕子と言う女性だな」
徳之助が自慢げに言う。

その女性の笑顔は、とても屈託のない笑顔だった。
この女性が俺の母親なんだろうか・・・。
しかしどう考えても年数があわない。
「この人は、こんなに楽しそうなのに、自ら命を絶ったり身を隠したりはしなだろう」
「わしもな。そー思う。だから警察も調べてたんだろうよ」
「でも結果わからなかった。迷宮入りか」
「何をわからんこと言っとる。そんなことよりも兄ちゃんに似とるか?」
「えぇ?どーいうことだ?」
「おじさんは黙っておけ。」
「何?小僧。いい加減大人を馬鹿にするな!」
義則は怒りだした。
「実は。」
榊は義則に向かって話し始めた。
「俺は親父とお袋の子じゃないんです。誰の子かが不明で、探しているんです」
「どういうことだ?それは本当か?」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神隠しの跡-149話

2010-09-25 20:43:00 | 小説
「この家じゃ」
「この家。。。。」
すでに朽ち果ててはいるが、木造平屋だったことがわかる。
間取りも柱でかろうじてわかる程度だ。
草に覆われたその家には、不気味さも伝わってくる。
「なぜ行方不明に?」
「そんなん知らんわ。わしもここに住んどる訳じゃないしな。子供の頃はこの島に住んでおったが、もう40年ぐらい前に本土に移ったからな。」
「なぜ裕子さんはこの島に住んでたんですか?」
「この島が生まれじゃし、もうかなり前に両親を病気で亡くしてな。それからというとこの島を出るにも出れんかったんじゃろう。しかしそんな時におまえの親父に出合ってな。その時には島を出てもえぇつもりじゃっとたと思うよ」
「どこで行方不明になったんですか?台所と聞いたんですが・・・」
「台所はたぶんあの辺りじゃったかな。しかし台所で行方不明になったかどうかわからんぞ。何しろ誰も見てないんじゃ」
「でも、台所に向かったきりと聞いてますけど?」
「それは時間が時間じゃから、誰かがそーいったんじゃろ。」
「話から言うと、目撃者がいたよう・・・な」
「そこじゃ。誰が警察に話したのかわからん」
「たとえば犯罪に巻き込まれて、その目撃者が犯人だとは考えれませんか?」
「そんなことは皆考えたと思うで。もちろんわしもな。じゃけーど捕まらんかった。」
「どうして?」
「裕子の姿が見つからんのじゃけー犯罪にはできんじゃろーが」
「そうですよね。でもなぜ見つからなかったのでしょう」
「失踪なんか。犯罪なんか。それとも事故か。いずれにしても裕子はおらんようになった」
失踪・誘拐・行方不明だとしたら。
誰かが後ろにいるようで、悪寒が走る。

「何かその女性の持ちモノとか写真とかないか?」
徳之助はずかずかと家の中に入っていく。
「坊主。危ないぞ。いろんなところが朽ちとるから、床が抜ける」
「大丈夫。気をつけて歩く。」
「まむしにもな!」
「蛇おるんか?」
「朽ちとる家は、じめじめしてひんやりしとるから、蛇には丁度えーんじゃ」
「わかった。切り殺す!」
「過激なこと言うガキじゃ。わはははは」
義則は大声で笑った。
「おー!!これはアルバムじゃないのか?」
徳之助が大声で叫び、表に出てくる。
「どれどれ?」
義則が徳之助に近づく。
「う~。これは・・・たぶんおばちゃんじゃの。裕子の母親の写真じゃろ」
「あぁ。少し歳をとっとるの」
雨水でボロボロになったその写真は、泥やカビで、ほとんど見辛い。
「そーじゃの~。この中に裕子はおるかの~」
一枚一枚丁寧にはがしながら、義則は見ている。
たまに懐かしい写真があるのだろう、義則は笑ったり思い出し話をしながらめくっていく。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする