やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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幽霊だけど恋してる―42話

2013-07-31 07:21:17 | 小説
言葉で言えば退院。

実際は病院を替えただけだ。

想像するに一度も家に戻ることが無く、そのまま病院の梯子をしたのであろう。

そして現在も呼吸器によって生かされている。

脳死だとわかっていながらなぜだろう。

透には喜んでほしくて愛されているからだと言ったが、どこか少し疑問が残る。

死を受け入れて呼吸器をはずし、天に召さしてあげるのもひとつの愛かもしれない。

ただ息子の死を受け入れれずに、資産家だということで数十年も病院で生きながらえるのを見続けることができるのも、堂前家なりの愛かもしれない。

どちらにしても想像だが、動くこともできずにいる透の姿が、透の家族がどうなっているのかは気になった。

カルテには、転院とだけ書かれてあった。

行先は不明。

その文字を、3人はじっと見続けた。


「そうだ!」

おじいさんが小さく頷く。

「一つ思い出したぞ。堂前家・・・この名前には記憶がある」

露子はすがる思いで、その言葉の先を待った。

「堂前家は、この地域ではなくて本当は神戸のはずれに住んでいた。貿易商だった。その・・・息子の病気もあってこちらの方にも家を購入したそうだ」

「こんな田舎にですか?」

「病院の施設は・・・見ての通りだが、それでも何かあれば神戸の病院と直結していて悪くは無いぞ。それに息子と言うのが喘息もあったので、空気の少しでも良い場所と言うことで選んだんだろう」

「この隣町に家を建てたのですね」

「まぁ必要が無くなり、売却したと聞いているが」

「もう家は見つかりませんでした」

「たぶん建物は壊したのだろう」

「それでどうなったのです?」

「これは想像だが、たぶん神戸に戻ったと思う」

「神戸に?」

「そうだ」

確かに息子の病気が治らない脳死だとした場合、この町に住み続ける必要はない。神戸のどこかの病院・・可能性はある。

「まずは、堂前家を探すのが早いと思うぞ」

おじいさんの良いヒントで、俄然やる気が湧いてきた。

「ところで、おじいさんはここにずっといるんですか?このままずっと・・・」

「うん?わしか・・・そーだね。このまま地縛霊となるのもありかな」

小さく笑う。

「どうしてですか?」

「実は・・・この病院の創立者なんだ。とは言っても経営はずっと息子に任せていて、私も数十年寝たきりだった。つまり君が入院していた頃には、私もベットの中にいたわけだ」

「そうですか」

「この病院の行く末を見届けたい。それが私の願いなんだ」

この病院で、ずっとずっと。。。

その願いが霊界に行く道を塞いでいる。

彼はずっとこの場所で居続ける。

それは良いことなのか・・・でもその判断は彼によるものだ。

露子はお礼を言って、それ以上何も言わずに病院を後にした。

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幽霊だけど恋してる―41話

2013-07-30 07:26:52 | 小説
「これで最後だね。38年も。それらしい情報もなかったから、年を間違えているかもしれない。前後を確認するとなると・・・・前か後ろかどちらだと思う?」

おじいさんの問いかけに、透は考え込んだ。

「何か覚えていることはないかい?」

もう一度おじいさんが聞く。

「そうだ!東京オリンピック・・・・そうオリンピックがあった。病室から頑張る選手を見て勇気づけられて・・・」

「東京オリンピック。1964年だね。つまり昭和39年ではないかな。後だね」

そういうと虫が39年に向かう。

がさごそと不気味な音を立てて、一冊づつ見ていく。

3冊目に入ってすぐにそれらしいカルテを見つけた。

『堂前健一郎』

そんな名前だった。

その字を見せられても、透はピンとこない雰囲気だった。

「思い出せない?」

私は聞いてみた。

「堂前・・・・君に言われて墓の苗字を見たんだ。堂前だった」

「だったらやはりこれはあなたね」

「かもしれない。でも・・・記憶にない」

「そうか・・でもよかったじゃないか。君の身体を探す手掛かりになる」

おじいさんもそう言って喜んでくれた。

どうも浮かない顔だが、それでも透も少し安心したようだった。

「さ~て。どれどれ」

そう言うと、おじいさんはカルテの中身を読み始めた。

「そうか・・・・かなり激しい脳内出血だったんだね。生きているのが奇跡かもしれない」

「生きていません。僕はこうしてここにいますから。身体だけが・・・・呼吸だけが強制的にさせられているんです」

少しだけムッとした表情になる。

「まぁそれでも君の身体は生きている。それってね。普通の人にはできないことだ。10年だよ。君は生き続けて」

「ですから、生かされているんです」

「それがすごいって言ってるんだ。生きている人間は、いつかは諦めてその呼吸器を外すものだ。それでも君の両親はそれを認めていない」

「そうよ。あなたは愛されている」

「・・・愛されている」

「堂前健一郎は愛されている・・・・僕が」

「だからちゃんと自分の姿を探そう。戻れるんならその奇跡を信じようよ」

「ありがとう。おじいさん露子ちゃん」

やっと透に笑顔が出た。

「ここに退院した日が載ってるね」



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幽霊だけど恋してる―40話

2013-07-29 07:42:23 | 小説
「幽霊でも、地縛霊の種類。特に恨みの念をもつ連中は西洋で言うポルターガイスト。つまり人を操ることができるんだ。でもそこまでの力は我々にはまずない。もちろん念を込めれば動かせるというものでもない。よく何かを動かしたとかいうだろ。あれは幽霊そのものの力ではないんだよ」

「つまり?」

「我々にはそんな力など無い。ではどーするか。こーするんだ」

部屋の隅が何やら音を立てている。

なんだろう?

目を向けてみた。

小さなものがうごめいている。

幾つもの影が不規則に動いていた。

じっと目を凝らしていると、それは虫であることがわかる。

それが列をなし、昭和37年の棚に来る。

それはいろいろな虫だった。

蛾やゴキブリに蟻。

静かに、そして力強くその虫たちはどこから湧いた力なのか、カルテの束を動かしていく。

そして1ページづつ開くのではなく、何やらごそごそとう蠢いている。

幾つかの束をごそごそとした後、今度は38年に束に向かう。

「我々は人の意思を自由に動かせる権利を与えられていない。それができるのは神に背いたもののみ。せいぜい動かせるのは下等動物か、虫ぐらいなんだよ」

しかしおじいさんの指示に着実に従っている虫を見ると、それだけでもすごく感じる。

38年の束も3つ終わった。



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幽霊だけど恋してる―39話

2013-07-28 20:16:15 | 小説
露子達は老人に付いて行った。

杖を持っている割には、スピードが早い。

やはり幽霊と言う存在だ。

宙に浮いているので杖の必要はない。

それでも生前の記憶がそのままあるから、杖は外せないアイテムだ。

あっという間に地下に降りた。

地下には霊安室というのがある。

線香の匂いが残っているが、強くない。

もう既に自宅に帰って誰もいないのだろう。

静かな空間だ。

その脇を通り抜けると、そこには研究用の動物の飼育室がある。

うさぎやマウスなどが閉じ込められている。

そしてその奥に、保管室があった。

古い資料で、ほとんど誰も開くことが無い資料が、創立以来保管されているらしい。

「なぜここに資料があることを知ってるんですか?」

透が聞いた。

「私が亡くなった数ヵ月後に、息子が死因の確認に来たんだ。何か気になることがあったらしい。しかし既にカルテは保管庫にあってね。その時に私も同行したんだ」

地下の扉を通り抜けて、保管庫に入った。

周りは真っ暗だが、私達には何もかもが見える。

これが幽霊の特権のひとつだ。

「どこらかな。何年ごろかな?」

「はっきりとはわからないのですが、37年か38年ごろだと」

「その頃なら、、、ここかな」

見ると年代ごとに整理されていた。

確かに37年と書かれている。

だがどうやってその中身を見るのだろうか。

手を当てても通り抜けてしまう。

幽霊には無理。

そう思っていた時に、おじいさんは動き出した。

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幽霊だけど恋してる―38話

2013-07-27 22:35:33 | 小説
地方ではかなり大きな病院だが、都会に比べると病室も少ない。

上の二つの階が病室になる。

順番に廻って見れば、必ず誰かいるだろう。

透は脇目もくれず病室に向かう。

3つまでは誰もいなかった。

4つ目には子供が居た。

まだ2歳か3歳。

この子には何を聞いてもわからないだろう。

寂しそうに部屋の隅でじっとしている。

露子は可哀想に思い声を掛けた。

でも子供はシクシクと泣くだけだ。

逆効果だった。

露子は謝りながら部屋を出て行く。

4つ目・・・5つ目・・・・12・・・・。

どこを周ってもさっきの子供以外に幽霊には会えない。

「なぜなんだろう?」

「たぶんさ。ここで亡くなる人は少ないんだよ。設備も整っていない病院だからもっと大きな病院にまわされるんだ。重病患者は」

「そうね」

透の言うとおりだと思う。

老人とかはここで亡くなる人も多いだろうが、その人達はここで留まるのではなく家に帰っていく。突然の怪我や病気の患者は設備の整った都会の病院に移される。

つまりここで亡くなる患者は、この病院に居続ける意味が無いのだ。

「ねぇそれなら、その重病患者が移される病院に、透の身体があるのでは?」

「そうだね。それもある。この町だと・・・姫路市内か、明石・神戸方面かな」

「どこに行くのかだよね」

とりあえず、残りの病室を周ることにする。

フロアを一つ上がったところで、ベンチに座る老人に出会った。

1階に居た老人よりも若くて、少しでっぷりとしていた。

そして白髪だが、てっぺんには毛が無い。

杖をついて、じつと窓から見える景色を見上げていた。

「こんにちは」

「こんにちは。見なれない幽霊だね。どこから来たんだね?」

「隣町です」

「そうか。それで君達はここで亡くなったの?」

「いえ。私は神戸の方で。彼は・・・・」

「君はまだ死んでいないね?」

「はい」

「元に戻れるといいね」

「そのことでお聞きしたいのです。彼の身体の行くえを」

「行くえ?それは残念だが知らないね」

「今から10年程前なんです」

「そうか・・・私は6年前なんだ。ここに住み始めて」

「そうですか・・・でも、ここからどこかの病院にまわされたはずなので、どんな病院に行くのかさえわかればいいんですけど」

「それは大変だよ。ここからだと選択肢はあるわけだし、もし家族が指定されればそこに向かう。だから病院なんて山ほどある」

「わかっています。それでも少しでもチャンスがあるのなら・・・」

「だったら、そうだ!カルテを探せばいいじゃないかな」

「カルテ?」

「あぁ地下倉庫に眠ってる古い奴をね」

「でも私たちでは触れないですよね」

「そんなのは簡単さ。私が助けてあげよう」

老人はそう言うと、立ちあがった。

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