やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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神隠しの跡-34話

2010-05-31 07:24:23 | 小説
「いえいえ。こちらこそすみません。目に入ったのもですから」
60前後だろうか。スーツを着込んだその男は、もう一度徳之助のかんざしを眺めた。
「これは水晶ですね。メノウや珊瑚・とんぼ玉といった細工はよくあるが、水晶をここまで加工したものは、あまりない。作者名は彫られていないが、多分その展示されているものと同一人物でしょう」
「そうですか。同じ作者。。。」
「どこで作られたものか?」
徳之助も興味を持って聞いてくる。
「そうだね~。この展示物も年代は書かれていないので、定かではないが、多分江戸末期だろうね。明治から大正にはもっといい細工が増えたからね。これは多分江戸時代。。。それも初期では無理な細工だから。末期という結論なんだ」
「それはわかります。末期だと。それがどこで作られたものかが知りたいです」
「それは申し訳ないが、見る分にはわからない」
「そうですか。。。」
「ただね。このかんざしはこの近くの庄屋から出てきたものだから、そう遠い場所で作られたものではないよ。水晶ならこのあたりでも採れるからね。」
「そうですか。このあたりの作の可能性も!」
「あるでしょう。岡山は焼き物や刀鍛冶で有名な地です。物を作ることには最適な地。ですので普段他の地域で作られないものを作る作家がいてもおかしくはない」
「ありがとうございます。そうなんだ」
黙って聞いていた徳之助の目が輝いているのがわかる。
「その・・・どのあたりに行けば、庄屋はある?」
「この近くの商店街の中にあります。美観地区の向こう側と言ったらよいかな」
「行きたい」
徳之助は榊に言った。
「あぁ行かれるのはいいが、もうかんざしのことを知られている方はおられませんよ。今は若い夫婦だけです。年配の方はお亡くなりになられた」
「そうなのか・・・」
落胆する徳之助に、その男は言った。
「何かそのかんざしに謂れがあるのかな?とても大事そうにしているけど」
「いえ。そいつは古いものが好きで、そのかんざしのルーツを調べたいらしいんです」
「そうか~それは感心だね。紹介が遅れましたが、私はこの博物館の館長の倉元と言います」
その男は名刺を差し出した。
「大したことはできないが、少しなら僕の役にたてるかもしれない」
徳之助の顔を覗き込んで、倉元は言った。
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神隠しの跡-33話

2010-05-30 21:39:20 | 小説
考えてみれば謎だらけだ。
徳之助がタイムスリップしたということが大きな謎だが、そのことが大きすぎて小さな謎が見えなくなっていた。
徳之助はそのひとつひとつをちゃんと見ている。
それが今わかった。
徳之助を元の世界に戻すことよりも、謎をひとつひとつ解き明かすこと。
それが結果として、徳之助を元に戻すことなんだ。

車を走らせ、倉敷市内に入る。
私営の駐車場に車を置き、博物館に向かう。
「もう入れるのか?」
徳之助が少し興奮しながら聞いてくる。
「あぁもう開館している。大丈夫だ。」
中にはあまり多くではないが、地元の歴史を物語る展示品がある。
徳之助はそのひとつひとつには興味がないらしい。
自分の時代のそのものだからだ。
何一つ珍しいものはないのだ。
足早に次から次へと展示品を通りすぎていき、目当てのかんざしにたどり着いた。
しかしそこにあるものは形こそ似ているが、徳之助の言う北斗七星の気泡はなかった。
がっかりとした徳之助の表情が見えた。
「違ったな。すまん」
「いや。兄ちゃんが悪いのではない」
「そうだよな。徳之助の母上のかんざしがここにあるのに、同じものがこの中にあるとおかしいよな」
ふとそのことに気付いて言葉に出た。
「なるほど・・・」
徳之助はそう呟いて、ポケットの中のかんざしを取り出した。
まじまじとそのかんざしと、展示されてあるかんざしを見比べる。
見れば見るほどよく似ていた。
しかし、幾分か徳之助のかんざしのほうが、品が感じられた。

「ほう。僕はすばらしいものを持っているね。その展示品と同じ年代のものだ」
「何奴?」
「あっ失礼しました。こいつ時代劇にかぶれていまして、変な言葉遣いを!」
榊は慌てて、声をかけてきた男性にフォローを入れた。
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神隠しの跡-32話

2010-05-30 15:28:07 | 小説
その日は興奮して寝れなかった。
徳之助はこっちにきてから、まともに寝てはいない。
子供の肉体にはそれは過酷だが、精神的な高ぶりで疲れを感じていない。
朝の漁も集中できなかった。
榊は生活のためにも、漁を休むわけにもいかないと言った。
ならば当然、恩を仇で返すわけにはいかない。
少しでも役にたとうという気力はあるが、常に母上のことが頭に浮かび集中できない。
それは榊にもわかっていた。
わかっていたが、博物館が開く時間は決まっている。
それまでの時間を仕事でもたせないと、徳之助がどんな暴走をするかわからない。

「徳。行くにはいいが、俺の記憶もあてにならないぞ。それでもいいか?」
「かまわん。見てみないと安心できん」
「よし魚を陸にあげて、食事してから行こう」
「そんなに悠長にしてて大丈夫か?その館とやらはまた閉まらないか?」
「大丈夫だ。十分余裕がある」

なぜに徳之助がそんなにかんざしを見たいのかわからない。
でも榊本人も見たかった。
理由がどうであれ、見ることが何かの扉を開けるカギとなる。
そう信じていた。
徳之助は食事ものどを通らない様子だ。
それでも食わないと行かないぞという言葉に、必死で口の中にかき込む。
少しでも早く行こう。
時間を確認して島を出る。
10時開館だから、9時に出れば大丈夫だ。
時計を気にしながら、波止場に向かう。
ひとっと1人いないその波止場は、海鳥以外に動くものはいない。
小さな島はこんな時に便利だ。
この島には象岩というのがある。
もうかなり以前に鼻が折れて半分程度の長さになったが、それでも見た目は小象そのものだ。
この島の目印だ。
徳之助はその象にも覚えはないという。
だからこの島は徳之助の出身地では無い。
なのになぜあの岩に現れたのだろう。
徳之助だけでなく、櫛のかけらやかんざしまでもだ。


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神隠しの跡-31話

2010-05-29 22:08:54 | 小説
なぜ?
母上のかんざしが・・・。
昔はどんなに真似ても、まったく同じものはできなかった。
母上の水晶玉には、小さな気泡があった。それが7つ。
まるで北斗七星のような並びだ。
だから大好きでよく見ていた。
間違えるわけがない。
何か母上が伝えたいことがあるのでは。。。
そう思わざるおえなかった。

徳之助はしばらくかんざしを見つめていた。
じっとうつむいた姿勢で。
その頭が動いた時に、徳之助は腹に巻いたタオルも足元のタオルとまとめた。
小太刀も鞘に戻す。
汗にボロボロになったティッシュもひとつにまとめ、さっき抜けだした窓に向かった。
窓の下に着いた時に、玄関から慌てたように榊が飛び出してきた。
青白い顔で驚いたようにこっちを見ている。
「どこに行ってた?!」
少し怒ったような榊の言葉に、徳之助は答えた。
「石のところで、母上のかんざしを見つけた」
「かんざし?」
徳之助はかんざしを見せた。
太陽の光できらきらしてるそのかんざしを、食いいるように榊は眺める。
「それは徳之助の母親のか?」
「そうだ。間違いない」
「あの岩のところで?」
「あぁ昨日はなかったものが、岩の下の草の中にあった」
「それ・・・」
ずっと見ていた榊が思わぬことをつぶやく。
「俺はそれ見たことがあるぞ」
「!?・・・どこで?!」
「どこだったか・・・かんざしはいろいろとあるから、見間違えかもしれないが」
「どこなんだ?!」
「もしかしてあの古びた博物館かな?」
「それはどこだ?」
「本土のほうだ」
「今から行ってくる!!」
「今から?無理だ。もう閉館している」
「閉館?」
「入れない」
「そんなもの門をたたけば門番ぐらいおるだろ!」
「いやいや。守衛はいても規則がある。入れてはくれない」
「そんなもの行かねばわからん!」
「だめだ。この時間だ。もうじき日が暮れる。明日行こう。それでいいな?」
「・・・」
「明日は逃げたりしない。なっ?!」
「・・・わかった。。。明日だな」
「あぁ明日だ。どんあことがあっても明日行こう」
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神隠しの跡-30話

2010-05-29 16:26:41 | 小説
草履は用意していなかった。
裸足で歩き岩の前に立つ。
ここで自分の最後を迎える。
そう決めた場所だ。
今こうしてみれば、立派な大きな石だ。
全体を苔で覆われ、上面は平らな形をしている。
少しえぐれた場所には、小さな水溜りがあった。
石の上に座り、タオルを数枚取り出す。
それを腹に巻き、血しぶきが飛び散らないようにする。
このタオルの上から腹を指す。
そうすれば血はタオルにしみこむ。
それでも足りないのは足元のタオルに啜らせる。
これで死にざまは汚らしくなく、潔いものになる。

風が少し吹いている。
枝葉が少しだけざわついている。
怖い。
そんな感情はある。
しかし、潔くというのが武士としての教えだった。
私は逃げたりしない。
一呼吸をおく。
桶の水で小太刀を清める。
右手にティッシュを巻いた小太刀を握った。
「榊殿。世話になった」
大きく腹の正面に刃を向けて、手を伸ばす。
一気に腕を曲げる・・・。
そう思った時だ。
刃に何かが映った。
キラッと輝いたものを目で追っていた。

それは石の上ではなかった。
石の下の方。
地面に生えた草の中にあった。
切腹を中断して、石の上から下りる。
それは半分以上土に埋まったかんざしだった。
その柄の鉄の部分が輝いていた。
錆ついていないそのかんざしは、つい今しがた届いたもののように見えた。
覚えがある。
これもやはり、母上のものだった。
郷里で採れた水晶をあしらったものだ。
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