やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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幽霊だけど恋してる―28話

2013-07-17 07:46:40 | 小説
なぜか透といると、優しくなれる。

心も穏やかになれる。

透でいいのではないか・・・・そういう気持ちが大きくなるが、どこかで絞り切れないなにかがある。

これが未練なのだろうか。

生きているときに果たせなかった思いが、あの世へ行けない理由かもしれない。

・・・そんなわけないか~祖父が迎えに来ないだけだ。

ふと過った思いを打ち消して、明るくなった気持ちの電球が直ぐに消える。

でもやっぱり、まだ告白できない。

透が好きだけど、彼には謎が多すぎる。

そして優一の好きだったという言葉が、記憶から消せない。

もう一度。

もう一度あの言葉が聞けたら、決心がつくかもしれない。

透が横にいるにも構わず、頭の中は雑念でいっぱいだ。

「透のこともっと教えて。覚えている限りのこと」

頭の中を切り替える意味も含めて、透に話しかけた。

透は黙って考え込んでいる。

しばらくの沈黙の後に、ポツリポツリと話し始める。

「僕は、この街のあの鉄塔が見える付近で育ってた。あの鉄塔はかなり古くからあるんだ」

先日も同じことを言っていた。

露子も同じ方向を見る。

何か大きな鳥が、鉄塔の側を通り過ぎて行った。

「僕がいたころは、あのもう少し先まで海があって、よく海で遊んでいた記憶がある。兄弟なのか・・・・一緒にいつも子供がいた」

「男の子?」

「うん」

「楽しかったんだ」

「はしゃいでいる顔が浮かぶからね。でも僕は病弱だったから、楽しい思い出はそのぐらいなんだ。後は病室の記憶と教室だね」

「家の思い出は?」

「それは・・・無いな~」




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