わたしは六百山

サイゴンでの365日を書き直す 

草枕・ベトナム便り 12

2006年02月26日 | 日本語教師
こちらk-603.(写真はカードで遊ぶ子供・あっ写真撮られてるぞ)
まず、前回の便りの訂正をさせて下さい。
最後からひとつ前の文章。
《女性の場合は、今回の新人のように「1年たったら帰ります。そのうち結婚しますから」で、済んでしまう人もいますし、自立する女性の場合は、結構ガッツがあるとみなされて他業種への就職もできるようです。》
というところですが、この表現では「結婚している女性は自立していない」ということになってしまいます。そんなことはありませんので、「自立する女性」を「再就職をめざす女性」に訂正いたします。ですから
《女性の場合は、今回の新人のように「1年たったら帰ります。そのうち結婚しますから」で、済んでしまう人もいますし、再就職をめざす女性の場合は、結構ガッツがあるとみなされて他業種への就職もできるようです。》
と、訂正させていただきます。

さて、
結局、30歳の若者は、ベトナムで就職ができず、帰国するそうです。「先生、先生と呼ばれて、その上女の子にも囲まれて、全部いい思い出ですよ」こう言って去っていきました。
思い出を積み上げていく人生なんて、実際にはそんなものはないはずですが、今はそう言ってけじめをつけるしかありません。
彼は、人間関係のわずらわしさなど、日本での住みにくさをベトナムで一気に解消しようとしたのですが、現実の壁の厚さに引き返さざるを得なくなりました。(ベトナムの彼女との話は、もしうまくいけば、というものだったようです)
このことは、今からちょうど100年前、夏目漱石が「草枕」の冒頭で言っている、あの有名な文言そのままです。

-------知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向こう三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりなお住みにくかろう。-------

詩が生まれて画ができる というのは、「そういう境地になる」とでも理解すれば、彼は日本へ帰って、うまくやって行けるんじゃないでしょうか。もちろん 少しでも悟らなきゃだめですが・・・。
くしくも、漱石が「越す国はあるまい」と言っているのは「越南(ベトナム)」のようで、おもしろいです。

冷蔵庫が使えるようになったので、食生活がずいぶん豊かで楽になりました。
きょうは、中クラスのスーパーへ行って、ロースハムを買ってきました。(7枚で150円。 ちょっとおお味)それに、野菜を売っている路地へ行って きゅうりを買ってきました。(6本で、22円)
マヨネーズ(AJINOMOTOと書いてあります)と、トマト(小12個で40円・これが昔のトマトの味がしてうまい)も買ったので、サンドイッチができます。コーヒーはベトナムコーヒー。ミルクもあります。

野菜とハムとパン、それにコーヒーかティー、または冷たいミルク。
そして果物。
これらが常時食卓に並ぶようになるのに、3ヶ月半かかったことになります。
あたりまえのようですが、ありがたいことです。

学校の授業も順調に進みだしました。
午前のクラスにKさんという、とても華美な女性(24歳)がいます。
ベトナム女性にはごく珍しく、髪はショートカットです。
受付のQさんによれば、セクシーな女性だそうですが、朝8時の授業に出席するのにしっかりと化粧をして、胸を大胆にあけて、腿をきゅるっとみせてやってきます。
その日はベトナム人の先生の文法の授業だったので、私は一階の事務所で教案を考えていました。
すると、8時半ごろ、授業中のはずなのに、2階の教室を抜け出してきたKさんが、「先生、先生」とよぶのです。
「なんですか、Kさん」
「あの、これ、これ、ありますか」と言ってKさんは口の周りを右手でこすります。その仕草がひげを剃る仕草ににているので、
「ひげそりですか」と、私が聞きました。
ひげそり と言っても、未習の単語ですからKさんには分かりません。でもきっとそうだろうと思って、
「ありますよ」と応えました。
ベトナムではまだ、昔日本で安全かみそりと言っていた時代の、2x3cmぐらいの両刃のひげそりを使ってもいます。きっとKさんはこの刃を使って糸か何かを切りたいのでしょう。でも、私の持っているのはそういうタイプじゃないんだと説明しようとしましたが、この説明は物を見せた方が早いと思い、自室に戻ってひげそりを持ってきました。
すると、Kさんは、「ありがとうございます」 というと 「ここ ここ ここに」 と言って下唇とあごの間を指します。「まだ、あります」
つまり、こまかい毛(女性の場合はひげとは言いませんよね)がここにあるので、これを剃りたいんだ、というのです。
Kさんは、そのまま洗面所に入ると、5分以上かけて入念にその毛を剃っていました。
やがて、出てきて私のところに来ると「まだ、すこし あります。でも、いいです」と言ってひげそりを戻しました。
「新しい刃にしましょうか」と言ったのですが、(新しいという語彙だけは知っているので、意味は分かったのでしょう)
「いいです、いいです」と言って、教室に戻っていきました。
この間、約10分。

Kさんの日本語の勉強は かなり熱心です。
彼女のノートは語彙や表現でいっぱいです。

私の授業のときも、突然中座して5分ぐらい経ってから教室に戻ってくることがあります。
つまり、おおらかで、いいかげん です。

HCM市の気候は徐々に一年でもっとも過酷な時期に近づいています。
日中の気温は 日なたで 43℃ 湿度30% 室内で 35℃ 湿度 35%
夜中の気温は 32℃ 湿度 55% つまり ここは熱帯ですから当然の熱帯夜(一年中)です。
でも、エアコンはまだ使っていません。
天井の扇風機を回しているだけで、なんとかしのいでいます。
日本の寒さを懐かしんでいます。


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