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郷原信郎さん『思考停止社会』

2009-03-03 00:08:24 | 読書
本書は、

独占禁止法の制裁規定の改正作業にもかかわった

経済法のスペシャリストであり、現在は弁護士・大学教授である著者が

形式的な法令の遵守に蝕まれ「思考停止」に陥った日本社会の現状を

最近の出来事を題材に描き出す、大変興味深い著作です。


【本書の構成】

1章から5章の各章では

食品の偽装、建築の偽装、ライブドアやブルドックソースをめぐる訴訟、

裁判員制度、年金騒動

を題材に、法の『遵守』と『思考停止』によって生じた問題を描く。

6章では

筆者が「信頼回復対策会議」の議長としてかかわった

TBSの『不二家報道』による一連の騒動を題材に

当事者に反論の余地なく、執拗かつ徹底的に行われる

マスコミの報道の問題を論じる。


7章では

これまで見た個別の事情を踏まえて

思考停止に陥らないようにするため

法令、そして、法令以外の社会的規範と

いかに接するべきかを検討する。


【筆者の主張】

法令が人々の生活のほとんどをカバーするようになったにもかかわらず

人々はこれまで通り、形式的な遵守の姿勢を続けている。

そのため、さまざまな弊害が起きているだけでなく

また、こうした遵守の姿勢は法令以外の社会的規範に関してもおきている。

社会的要請を踏まえ、正しく法令や社気的規範を用いることで

社会に活力を与えることを目指すべきである。



【感想】

法の専門家としての視座から語られる

個別の出来事の描写と分析は鋭く、

とくにTBSと不二家に関しては

騒動の渦中にいた方でしか書けない内容であり

とても興味深く読みました。


ただ、そのような具体的な話ではなく

抽象的な記述に関してはいくつかの疑問がありました。

中でもとりわけ気になったのが次の2点(というか文章化できるのが2点のみ)


1つは、社会的規範を法令を補充するものとして扱うという提案について


マスコミ等が「偽装」、「改ざん」と一方的にレッテルづけをし、

その上で、反論の余地なく徹底的に非難を行うことは

憂慮すべきことだと思いますが

とはいえ、

「社会的規範による非難は、法令の世界に準じたやり方で行うべき」

という主張に関しては

その程度によっては、

自生的なルールを持った社会や集団を軽視することにならないか

自由な言論を封じ込めることにならないか

という素朴な疑問を抱きました。


また、個々人や各法人、官庁等に

社会的要請に即した行動を求めることには異論がないにせよ

その社会的要請について、主として法令の目的をベースに解釈するのでは

法令の形式的な遵守どころか

自分の人生を法に適合するように生きることにならないか?

あるいは、法律に反映されない社会的要請をどう汲み取るのか

という疑念を持ちます。



法と社会、個人あるいは法の解釈論について、

熟慮するきっかけとしてはうってつけの本作

ぜひ多くの人に読んでいただきたいなと思います