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魚住 孝至さん『宮本武蔵―「兵法の道」を生きる』

2009-03-04 00:51:49 | 読書
本書は国際武道大学で

日本思想や身体文化を専門とする著者が

虚実ないまぜに伝えられる宮本武蔵について

原資料や五輪の書の解読、

そして、今日まで伝わる二天一流の剣術を参照し、

その実像に迫る著作です

【本書の構成】

序章では、資料批判を行うことによって

現在一般に知られている巌流島の決闘や吉岡一門との対決は

後世の脚色であることを指摘する。


1章から3章では

原資料を元に、宮本武蔵の実像について

年代を追いながら描く。


4章では

武蔵が記した最も重要な著作である『五輪書』を

他の著作や、現在に伝わる二天一刀流を参照しつつ読み解く。


終章では

武蔵の兵法道が生まれた時代的背景と

武蔵の死後、その思想がどの様に受け継がれていったのかを

コンパクトに解説したうえで

武蔵の人物像についてまとめる。



【筆者の主張】

今日まで伝わる武蔵像は、その多くが

後世の創作に由来している。

実際の武蔵は、戦国から江戸時代へという大きな時代の変化の中で、

合理的で体系的な思考を生みだし、

それを身体的に、そして、生き方のうえで実践した

屹立した個人であった。


【感想】

武蔵という

伝説がほぼ定式化した人物について

いまさらその『実像』に迫るという作業は

正直、あまりおもしろそうとは思えませんでした。


しかし、筆者が本書で展開する

精神論や感覚的な描写に流されない記述や

二天一刀流の実際の動作を踏まえた解説は

堅実であり、すぐに好感を抱きました。


なかでも、

武蔵の兵法論が

実戦を知らない武士が増えることへの危機感と

実戦の時代が終わり、武術が集団戦闘を念頭に置いたものから

個人単位のものへと変化する中で生まれた

という指摘や


武蔵の思想が

歳月を経るにつれて、どんどんコンパクトで

体系的になっていくという指摘は、

どれもとても興味深く、


本書で示される、合理的・体系的な思考をもった武蔵像は

私が接したどの武蔵像よりも魅力的であると感じました。



さらに、終章で記される「兵法の道」の歴史的展開は

愛州移香らから塚原卜伝、上泉信綱をへて

柳生一門や武蔵

さらに山鹿素行、北辰一刀流

明治以降の武蔵の「再発見」までもを射程に含む壮大なもので、

短いながらも、とても多くの示唆に富みます。



個人的には、本当に久しぶりに夢中になって読んだ新書。


歴史や時代小説などに興味のある方には

ぜひ読んでいただきたいです☆☆☆☆



郷原信郎さん『思考停止社会』

2009-03-03 00:08:24 | 読書
本書は、

独占禁止法の制裁規定の改正作業にもかかわった

経済法のスペシャリストであり、現在は弁護士・大学教授である著者が

形式的な法令の遵守に蝕まれ「思考停止」に陥った日本社会の現状を

最近の出来事を題材に描き出す、大変興味深い著作です。


【本書の構成】

1章から5章の各章では

食品の偽装、建築の偽装、ライブドアやブルドックソースをめぐる訴訟、

裁判員制度、年金騒動

を題材に、法の『遵守』と『思考停止』によって生じた問題を描く。

6章では

筆者が「信頼回復対策会議」の議長としてかかわった

TBSの『不二家報道』による一連の騒動を題材に

当事者に反論の余地なく、執拗かつ徹底的に行われる

マスコミの報道の問題を論じる。


7章では

これまで見た個別の事情を踏まえて

思考停止に陥らないようにするため

法令、そして、法令以外の社会的規範と

いかに接するべきかを検討する。


【筆者の主張】

法令が人々の生活のほとんどをカバーするようになったにもかかわらず

人々はこれまで通り、形式的な遵守の姿勢を続けている。

そのため、さまざまな弊害が起きているだけでなく

また、こうした遵守の姿勢は法令以外の社会的規範に関してもおきている。

社会的要請を踏まえ、正しく法令や社気的規範を用いることで

社会に活力を与えることを目指すべきである。



【感想】

法の専門家としての視座から語られる

個別の出来事の描写と分析は鋭く、

とくにTBSと不二家に関しては

騒動の渦中にいた方でしか書けない内容であり

とても興味深く読みました。


ただ、そのような具体的な話ではなく

抽象的な記述に関してはいくつかの疑問がありました。

中でもとりわけ気になったのが次の2点(というか文章化できるのが2点のみ)


1つは、社会的規範を法令を補充するものとして扱うという提案について


マスコミ等が「偽装」、「改ざん」と一方的にレッテルづけをし、

その上で、反論の余地なく徹底的に非難を行うことは

憂慮すべきことだと思いますが

とはいえ、

「社会的規範による非難は、法令の世界に準じたやり方で行うべき」

という主張に関しては

その程度によっては、

自生的なルールを持った社会や集団を軽視することにならないか

自由な言論を封じ込めることにならないか

という素朴な疑問を抱きました。


また、個々人や各法人、官庁等に

社会的要請に即した行動を求めることには異論がないにせよ

その社会的要請について、主として法令の目的をベースに解釈するのでは

法令の形式的な遵守どころか

自分の人生を法に適合するように生きることにならないか?

あるいは、法律に反映されない社会的要請をどう汲み取るのか

という疑念を持ちます。



法と社会、個人あるいは法の解釈論について、

熟慮するきっかけとしてはうってつけの本作

ぜひ多くの人に読んでいただきたいなと思います

リサ・ハニガン『Sea Sew』

2009-03-01 00:49:34 | 音楽
アイルランド出身の女優であり歌手であるリサ・ハニガン

そのデビューアルバムである『Sea Sew』


形式的なジャンル分けをすると

たぶん、フォーク、カントリーあたりになるの・・かな?


少しかすれた声で、詩情あふれる歌詞をしっとりと歌い上げる、

とても聞きやすい本作。


ドラマチックな展開にはかけるものの

聴き手を飽きさせず、

無理やりな盛り上げがないので

繰り返し、シチュエーションを選ばずに

ずっと聞いていられるアルバムです。


アイルランドというと

エンヤ、ケルティック・ウーマンなど

ありがちなアイリッシュ・ミュージックを

想起するかもしれませんが

ステロ・タイプとは無縁であることもうれしいです。


個人的なベストは

力強さと優しさが織り交ざり

初めて聞くのにどこか懐かしい

『Sea Song』

There's one girl I like
She's a smile on a Monday
And she'll fight to stay so
And she's like the sun on the weekend

And though she is like the sea
And she's right to be so
I like that she sails with me


という情景の美しさもあることながら

硬軟をうまく使い分ける歌声がクセになります


生まれたての新人であるリサ・ハニガン

これからどのような進化をするのか

正直、ジョイスやユタ・ヒップのように

ものすごく鮮烈なデビューをして

パッと引退しちゃう雰囲気も感じるのですが


とりあえず今後どんな進化をするのか

楽しみに待ちたいなぁと思います

人より話題を先取りしたい方には強くおススメです☆☆


なお、このリサ・ハニガン、美人です☆

石黒謙吾さん『エア新書』

2009-03-01 00:01:33 | 読書
本書は、編集者である著者が

著名人が新書を出版したら、

どんなタイトルで、どんな内容になるのか

架空の新書を想像し楽しむ

―エア新書―という遊びを実際にやってみて

その結果考え出された架空の新書を紹介する著作です。


たとえば

小倉優子さん『バカのふり―ダマして油断させる勝利の方程式』

横峰さくらさん『親離れしたいときに読む本―ウザイ父にトホホなあなたへ』

江原啓之さん『霊感大国ニッポン―オーラと不安感の泉』

などなど


最初、笑うための本だと思って読み始めたため

たしかに、ユーモアは感じるものの

おもしろいとは感じず、

一瞬読むのをやめようかと思いました


上述の例に加えて、

DAIGOさんとか羞恥心とか

モーニング娘。とか題材があまりに卑近

あまりにどうでもよすぎると感じたのです。


ただ、前書きをキチンと読み

筆者が、新書ブームはとっくに限界に来ていると認識したうえで

本作が、著者の高度な<一人遊び>の成果と

そこにいかされた、編集者ならではのものの見方を紹介するもの

―とわかると、考えは一変。


考えてみれば、私も似たような一人遊びをしているし、

めったに見れない人さまの一人遊びの成果を垣間見れる☆

そう考えると、気軽に楽しむことができました

(←でも、笑えはしなかった)


本書は、これだけを読むだけでも十分におもしろいでしょうが

著者も述べている通り、

やはり、こういうのは自分で作ってこそのものなので

ぜひ本書を参考に、自分ならではのエア新書や

一人遊びを考えてみてください


なお、冒頭で紹介される新書の分類表は

これだけでも一読の価値あり!!!


割と幅広くチェックしている方でも

聞いたこともないような新書があったり、

なによりもコンパクトながら正鵠をついた分類に感服です☆