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矢幡洋さん『「S」と「M」の人間学 (祥伝社新書』

2009-03-25 08:38:15 | 読書
本書は、

臨床心理士であり、

「パーソナリティ類型としてのサディスト・マゾヒストを日本に紹介した元祖」

を自認する著者が

アメリカの心理学者ミロンの議論を参照しながら

一般に認識されているのとは一味違う

サディスト、マゾヒスト概念について紹介し、

彼らとの適切な付き合い方を紹介する著作です。


【本書の構成】


1章では「S」「M」概念の誕生と

フロイトの精神分析学のなかでそれがどのように扱われたか

そして、心理学の中で脳科学が重要な役割を果たすようになる中で

両概念の扱いにどのような変化が生じたのかをコンパクトに紹介する。


2章~3章では、『DSM』で展開されるミロンの議論、

そこで紹介される実例をもとに

「S」、「M」という性格について解説する。


4章では、ミロンの議論に依拠して

「S」「M」といった性格が形成される過程を説明する


5章では、ミロンに加え、ホーソンの議論も参照し

「S」、「M」以外の分類概念を説明する


6章では

一見矛盾して見える「S」と「M」が個人の中で両立しうることを

例を挙げつつ説明し、両者が時限の違う問題であると私見を述べる。


7章では

これまでの議論を踏まえた上で

身の回りにいる「S」や「M」な人とのうまい付き合い方を提案する。


【筆者の主張】

今日、「S」「M」の概念は一般的に用いられているが、

「M」は本来の用法(「自己破壊・自己処罰」)とは異なり、

むしろ「他人への従属的な態度」を重視するものである。


そもそも「S」、「M」は大まかな分類である。

そして、両者は決して矛盾するものではない。

だから、それ以外の傾向が強い人もいるし

一人の人間が両方の性質を兼ね備える場合もある。


たしかに「Sか、Mか」というのは、あくまで学問的な分類である。

だが、こうした分類を正しく理解することで

自分や他者をより深く知り、

周囲とうまく付き合い、自分を見つめなおすきっかけとなりうる。


【感想】

SとMの関係については

なんとなく「コインの裏表」と、

本書でも紹介されるフロイト的理解をしていましたが

それとは違う理解の仕方があることを知り

大変興味深かったです。


また、「M」概念から「自虐性」が欠落し

他者への「従属」や「依存性」が強調されているという指摘や

「おバカ」ブームをこうした文脈で捉える点も

とてもおもしろく読みました。



なかでも

個人的に一番興味深かったのが

5章で紹介されるホーナイの3分類


① 他人と張り合おうとする人たち
② 他人に近づこうとする人たち
③ 他人と距離をとる人たち

特に、③の類型の特徴として挙げられる

なれなれしくされると不快感

いかなる体験も他人と共有することを嫌う

論理性の過大評価に陥りがち

―という点はまさしく私そのもの!!!


と思ったのですが

よく読んでみると、

他の類型の要素も、たいていあてはまるので


今度時間のあるときにホーナイの著作そのものを

チェックしようと思いました


よくある心理本よりも、ちょっとだけ専門的な本書。


心理分析的な本が好きな本だけでなく

最近、自分を見つめていない方には

おススメします☆☆


なお、本書を読んで、

全く当てはまらないなぁ―と思ってしまった方は

神様か

残念ながら、かなり手遅れな方です

たぶん。

UTADA『This Is The One 』

2009-03-25 00:24:20 | 音楽
宇多田ヒカルさんのUTADA名義では2枚目となるアルバム

アーティステックだった前作と比べて

よい意味で、肩から力が抜け

より耳になじみやすいR&B系の内容となっています


曲名リストを見て目に付くのは、やはり

Automatic Part II

いわずと知れたデビューシングルの名前を関したこの曲

内容は端々に「Automatic」に思わせるフレーズや

メロディがあるものの

R&Bとして、

いっそうの深化、洗練を遂げています。



また、Merry Christmas Mr. Lawrence - FYIは

坂本龍一さんの戦メリのアレンジ

AIさんやつじあやのさん

あるいは坂本龍一さん自身によって

どんどん新しくなり続けるこの曲

このアルバムでは

軽やかさと力強さが合わさった

とても聞きやすく、ステキな仕上がりに


他にも、歌詞が日本だったら過激といわれかねない

Taking My Money Back

は落ち着いた雰囲気の正統派R&B

夜眠るときに流していたい感じです


あと、個人的に一番印象的だったのが

Me Muero

なんというか、出だしからブラジル音楽っぽくて

それがクセになりました。


良くも悪くも

グッとアメリカっぽいこのアルバム

個人的な印象では

歌いたくなるのは日本でのアルバム

より長く付き合うならこちらかなぁと思います☆☆

新堂冬樹さん『殺しあう家族』

2009-03-25 00:13:36 | 読書
ドラマ化された『黒い太陽』など

アウトローな人々を描くことに定評のある著者の最新作は

北九州で起きた一家監禁・殺害事件をモデルにしたクライム・サスペンス


普通に生活していた女性が

職場の上司に身も心も取り込まれ

やがて、家族同士で殺しあうことになる様子が描かれる。


電気ショックによる拷問で一家を意のままに操り

家族同士で殺し合いを行わせ

その遺体を鍋で煮たり、ミキサーで分解し遺棄したという

かなりショッキングなこの事件については

地裁判決が、かなり詳細に事件の様子を述べているほか

詳細なドキュメント作品も発表されています。


しかし、

それらでは迫りようのない犯人の内奥を

作家の観察力と想像力が見事に照らし出したのが本作。



実際の事件をモデルにしているので、

楽しんだ―とは少しいいにくいのですが

堕ちていく主人公の心情とその変化が緻密に描かれており

ノワールものとしての醍醐味が十分に味わえます


とくに、

主人公が反感を感じながらも

心のどこかで、尊敬のような感情を抱いていた父親が

自分の前で拷問や虐待を受け

どんどん変貌を遂げるのを見つめる箇所は

脂汗がドッと噴出し

心が折れそうになるにもかかわらず

文章から目を話すことができませんでした



内容が内容なだけに

読後は気分が最悪になること間違いないので

その点は気をつけなくてはいけませんが

人間はここまでなれる―ということを知り

戦慄とともに自戒の念を深く刻むことのできる本作



「人間性のかけらもない」などと断ずるのでも

全く自分には関係のないこととして読むのでもなく、

我々の日常と壁一つしか隔てない話として

ただ受け止めていただけければと思います☆



なお、

すごくヘンな、あるいは、失礼な言い方かもしれませんが

この事件をモデルにした小説は

(ちょっとB級の雰囲気を漂わせる)

著者でなかったら

とても読めなかったような気が・・・・


そんな意味でも

やはり、本書はベストな組み合わせなのかなぁと思います☆