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ヤコブ・ヴェゲリウス『曲芸師ハリドン』

2008-09-02 10:54:26 | 読書
スウェーデンの児童作家ヤコブ・ヴェゲリウスの『曲芸師ハリドン』
本年度の青少年読書感想文コンクールの課題図書にも選ばれている作品です。
路上で大道芸をして暮らしているハリドンは、唯一の友人である<船長>と一緒に暮らしている。
ある日、家に帰ると<船長>が書きおきをして出かけていた。
ハリドンは<船長>の帰りを楽しみに一人で夕食を食べ、眠りについた

その夜、夢を見た
夢の中では、吹雪の中<船長>がハリドンを置いて旅立つ夢、
何度も繰り返し見た夢だ

目を覚ますと当たりは真っ暗なのに、
<船長>の部屋から音がしない
おそるおそる、中をのぞいたが、そこに船長の姿はなかった。

ハリドンは起きて<船長>を待つ
しかし、いつまでたっても帰ってこない
―どうして<船長>は帰ってこないのだろう―

不安に駆り立てられたハリドンは、夜の町へ<船長>を探しに出る

行きつけのジャズバーに行ってみたが、そこに船長はいなかった。
バーのマダム・エッラは「心配しなくてだいじょうぶよ」という、
しかし、不安はますます膨らむ。

船長が悲しいときに行く公園に行ってみた。
真っ暗で物音一つしない公園
物音がするほうへ行ってみると
そこには<船長>の帽子とその中で寝ている小さな犬がいた。


人を信じ切ることのできない孤独な少年が、
唯一の友人を探すために一夜の冒険をし、成長する物語。

「児童書だから安心なはず」と思って読んだのですが、、
挿絵が不穏な雰囲気を漂わせ、
作品中の天候が徐々に悪化し、ハリドンが見た夢のようになっていくので不安が膨らみます。、
そして、ついに吹雪の場面になったときには、
「ハリドンは捨てられてしまうんじゃないか」とすごく怖くなりました。



本書の重要なテーマが<人を信じること>です。
「他人を信用しないのが、身のためだ」
これまで受けたひどい仕打ちのせいで、人を信じ切れなかったハリドンが
真夜中の冒険の果てに人を信じることを覚えます。
終盤、ハリドンが「ああ、そんなことは考えてもみなかったさ」という場面は、
ホッとすると同時に、様々な感情が凝縮されていてとても印象に残りました。

ハリドンの成長に大きな役割を果たすことになる、夜の公園で出会う犬は
まるで、以前のハリドン自身のような存在。
振り切ろうとしても必死について行きハリドンの役に立とうとする場面や、
強がって「ぼくなら、だいじょうぶ!」という様子が、とてもいじらしいです。


表紙の絵は、作品中では一度も登場しない大道芸をするハリドンと犬のツーショット。
この物語のあと、彼らはこの絵のように一緒に街に出て
大道芸をしたのだろうなと思うと、心が温まりました。


ハリドンが夜の街で出会うのは、かなり困った大人たちです。

酔っ払った船員に、融通の聞かない警察官、そして傲慢な夫婦―
中でも強烈なのが、金持ちの男と犬を捕まえる男。

金持ちの男は、より多くのお金を稼ぐことに執着し
偶然ルーレットの当たり目をあてたハリドンを捕まえようとします。
そしてハリドンにはルーレットを当てる力がないとわかると、
「こいつはひどい詐欺師だ」と言って警察に突き出し、
挙句の果てに懸賞金をせびろうとします

その金持ちの男に利用される、野良犬を捕まえる男はかなり可哀想な人物です。
孤独な彼は「おおいにやくにたった」と言われただけで、舞い上がり
ハリドンを嬉しそうに金持ちの男に引き渡し、自分の小屋で一緒にコーヒーを飲もうと誘うと

金持ちの男は一言
「ばかめ。あんなみすぼらしい小屋にこのわしが本当に足を踏み入れると思ったのか!」

あの男はどうなったのでしょう。
きっとますます孤独になり、残酷になったのではないでしょうか。


彼らと対照的に、エッラと船長はハリドンを温かく見守る優しい人物です。
しかし、エッラも
「(もし夢を実現させてしまったら)その先、何の夢を見ればいいのよね?」と語り、夢を実現させようとしません。

「夢は実現させるものだよ」とエッラに言った船長も、ハリドンには夢をあきらめているように見えます。

このように、本作に出てくる大人は同じように<孤独>や<満たされなさ>を抱いていますが、
船長やエッラと金持ちの男、犬を捕まえる男には決定的な違いがあります。
それは船長たちは、それなりに仕合せそうなのに
金持ちの男たちはまったく仕合せそうでないことです。

このことは、本書の原題でもある『エスペランサ=希望』の意味や持ち方について考えさせます。


児童書は久しぶりに読んだのですが、とてもステキな本でとても嬉しくなりました
課題図書はつまらないとお考えの方には、とくに読んでいただきたいです。
もちろん、犬好きにもおススメします。


追伸~

何かのお役に立てれば…と、『ハリドン』についてもう一つ記事をUPしました

8月16日の記事です



そちらでは、私はどういう風に読んだのかを書いています

もし興味のある方はご覧ください


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90 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
参考になりました。 (○学生)
2008-08-12 21:44:09
読書感想文で迷ってたので、とても参考になりました!ありがとうございましたm_ _m
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ありがとう (花火)
2008-08-13 14:38:57
とても参考になりました。ありがとうございました(o^u^o)
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ありがとう (花火)
2008-08-13 14:38:58
とても参考になりました。ありがとうございました(o^u^o)
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○学生さんへ (juri-cari)
2008-08-14 00:36:19
コメントありがとうございます☆☆


この本で感想文を書くのは、読み込むのが少し難しいでしょう。


でも、ある程度まで読み込めば、
あとは、自分の感じたことやわからなかったことをストレートに表現するだけです

きっとステキな感想文になると思いますよ☆☆
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花火さんへ (juri-cari)
2008-08-14 00:42:39
参考にしていただき、ありがとうございます☆☆


ブログにも書きましたが、

本書のもとのタイトルはESPERANZA=希望です

それぞれの希望の持ち方に注目するのも
読み方として、おもしろいと思います
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感想 (花火)
2008-08-14 14:06:58
こちらこそ参考にさして頂きありがとうございます。これは何度読んでもあきないので毎日読ませてもらってます。
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ありがとう (花火)
2008-08-14 14:08:48
素敵な感想文にして見せますね★★
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すごいです (なっちょ)
2008-08-14 14:50:06
難しい本だー(((;゜Д ゜)))
と思ってたところでした!!
参考にさせてもらいます☆


ありがとうございます(●´・∀・)b゜+o。
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大好き (花火)
2008-08-14 16:58:31
やっぱりこの本を読んでとても感動しました。ハリドンは本当に船長が好きなんだなと思いましたし、最後には人を信じられるハリドンになれて良かったと私は思います(●^w^●)
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・・・ ()
2008-08-14 17:00:14
あまり最初は意味が分からなかった。けどいいお話ですね。
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