カフェ・ラベンダー

のんびり気まぐれ生活あれやこれや

「ヒトラーの贋札」

2008-05-11 22:52:56 | 読み物





映画化もされているようだが、原作の方を読んだ。

スロヴァキアのユダヤ人植字工であった筆者、アドルフ・ブルガーのアウシュヴィッツ、ビルケナウ、そして贋札作りをさせられていたザクセンハウゼンの各強制収容所でのあまりにむごく生々しいノン・フィクション体験記である。

ヨーロッパ史上最悪の時代を生き延びた彼の体験、それはこのような体験記を読むといつも感じることであるが、人間が人間に何故あのようなむごいことができるのかと。目を覆い、耳を塞ぎたくなる、涙が滲み、怒りに震える。そして、もし自分だったら、と思うと恐怖のどん底に突き落とされるのである。

後半部は彼の関わらせられたナチスによるイギリスやアメリカなどのポンドやドル紙幣偽造についての記述である。秘密裏に集められ作業させられた植字工は一般の他のユダヤ人たちよりよい待遇を受けた。だからブルガーも生き延びることができたのかもしれない。手に職のない自分だったら真っ先に殺されていたはずだ。後半部は興味深かったが、私がじっくりと読んだのはあまりにショッキングでつぶさに描かれた前半部に尽きるのである。

冷静な目でしっかりと見据え、思い起こして書き上げた彼の、そしてユダヤ人たちの体験。今、彼は何故に今でも生かされているのか、また生き延びられたのか、と自問する。そして生き証人としてナチスによる蛮行を告発、証明するために生かされているのだ、と自答している。また将来への警告である、とも。

彼の記述は称賛に値するし、このようなことはしっかりと後世に語り継いでいかなければいけないと強く思う。ショッキングであると同時に迫力のある読み応えのある本である。





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