ヨーロッパの限りない大地

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ローマ人の物語ⅩⅠマルクス・アウレリウス帝

2007-07-14 00:16:41 | ヨーロッパあれこれ
ローマ人の物語ⅩⅠ
終わりの始まり
塩野七生 著
2002年12月10日 発行
新潮社

ローマ人の物語ⅩⅠは、再び皇帝を中心にして叙述していく。
まずは、皇帝マルクス・アウレリスから。
いつもパリなどについて貴重な報告を書いていただき、なおかつこちらのブログにも貴重なコメントをいただくMiyoko様が、最近ルーブルのローマ皇帝の彫像について書いておられた。
このようにカエサルなど、多くの皇帝の彫像は残っているのだが、ブロンズの騎馬像となると、珍しい。
勿論在任当時は他の皇帝にも同じようなものはあったのだろうが、ギリシャ・ローマ関連物の破壊の中で、溶解されてしまったのだ。
しかし皇帝マルクス・アウレリウスのそれだけは、今もカピトリーノ美術館に残っている。
また、この皇帝は「自省録」という本で、自分の思いを後世に残している。
これはカエサル以来の、幸運といえる。
このように今に至るまで、颯爽とした騎馬像を残し、かつ他の書き手にゆがめられることなく自分の思いを読まれ続ける事ができた、稀有な皇帝といえる。
そして後世の評価も「不運にも困難な時代だったものの、哲人皇帝として、真摯に統治した」、という高評価につながっている。

この巻において、当然そのような点も認める一方、哲人皇帝としての限界もあったのではないかと疑問を呈している。
優れた帝王教育を受けたマルクス・アウレリウスだったが、一方、広大なローマ帝国での経験が不足していた。
人民に対しては、哲学のような形而上なものより、「安全と食の保証」など、はっきりと目に見えるものを具体的に示す事が必要である。
そういうことは、実地に体験して、状況によって判断できるようになるしかない。
その点からすると、各地で様々な戦いを行ってきた皇帝や、視察巡行しまくった皇帝に対する評価の方が高くなってしまう。

マルクス・アウレリウスも皇帝就任後、蛮族との戦いに奔走する事になる。
その疲労も重なり、59歳を前にして、病苦の後、遺言を残した後、すべての薬や食事、水を絶って死を迎える。
彼自身不向きだった、軍事にかかわり続けざるをえなかった治世であった。