子供のころ、温泉好きの祖父につれられて、毎夏、箱根の旅館に泊まっていた。以降も箱根にはよく行っていたので、たぶんいちばん入湯数の多い温泉はいまだに箱根だと思う。だが、温泉に目覚めてからはとんと行かなくなった。
アル単や弱食塩泉、造成泉など、お湯的にあまり魅力を感じなかったし、”箱根価格”と揶揄される高額料金、そして微動だにしない大渋滞を思うとどうにも足が向かなかった。
だが、ここにきて箱根のお湯もボチボチ攻めるようになり、意外に面白いお湯や穴場の施設があることを再認識した。来年あたり腰を据えて探求してみたいと思っている。
箱根は古くからの湯場で、江戸期には箱根七湯(湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀、芦之湯)と称され湯治客で賑わった。なかでも格別の人気を誇ったのが、硫黄泉の芦之湯で、温泉番付でもだいたい箱根筆頭の地位を確保していた。
江戸期には湯本に次ぐ規模があったそうだが、いまは「松坂屋本店」「きのくにや」「山形屋」の3軒の宿があるのみだ。駒ヶ岳の山腹にあるこの温泉場は、夏でも比較的涼しく、霧の多いしっとりと落ちついたところで、古くは名だたる文人たちがこの地に逗留している。
3軒の宿のなかでも温泉好きから高い評価を得ているのが「松坂屋本店」だ。造成ではない硫黄泉の白いにごり湯は箱根では貴重で、以前から人気が高かったが、昨今の温泉ブームで日帰り客が殺到し、最近では休日の日帰り入浴はほとんど絶望的らしい。(原則として宿泊客が到着、あるいは14時の日帰り受付開始時に人数が多いと、その時点で日帰り受付を終了するらしい。)
ここは子供のころ何度か泊まっていて大学時代にも泊まったことがあるが、お湯の記憶はきれいさっぱり消え去っていたので、ほとんど初入湯状態だった。
万全を期して攻めた。
平日、13:30まえには到着し、無理を承知で入浴を乞うと案の定14:00からだという。「東光庵」を散策し、玄関前のバス停のベンチに座り込んで待つ。14時ちょうど、玄関に灯りが点ると同時に一番乗りで受付。すぐうしろにはすでに3.4組の待ち客がいた。
中庭を廊下で渡った奥にある男女別の浴室。みかげ石縁石敷5.6人の高温槽と20人以上はいけそうな適温槽が並び、うすく緑白濁し白い湯の花の舞う鮮度の高そうなお湯が満々と湛えられている。浴槽に静かに注入し浴槽ふちから流し出す、正統派のかけ流しだ。
弱苦味たまご味に、かなり強いしぶ焦げイオウ臭とラムネ臭を配した山の硫黄泉らしい湯の香。メタけい酸系のヌルとろみと硫酸塩泉系の力強い温もり感があって長湯はきびしいが、異様にクセになるお湯で何度も入ってしまう。
浴後は爽快感が出てイオウ臭が肌に残る。イメージ的には日光湯元に近いものを感じたが、より硫酸塩泉の特徴がでているように思う。とても質感の高いお湯で、同じ硫黄泉系にごり湯の造成泉とは明らかに一線を画している。
しばらくすると、浴客が次々と入ってきて、10人近くなった。次第にお湯のにごりが強くなり、湯の花も少なくなってきたので、やはり一番湯が狙い目かと思う。
日帰り難易度は高いが、タイミングをはかりトライするだけの価値は十分にある名湯だと思う。
含硫黄-Ca・Na・Mg-硫酸塩温泉(硫化水素型) 62.5℃、pH=7.3、湧出量不明、成分総計=1182mg/kg、Na^+=89.0mg/kg、Mg^2+=43.8、Ca^2+=108、Cl^-=5.20、HS^-=5.85、SO_4^2-=514、HCO_3^-=157、陽イオン計=255、陰イオン計=683、メタけい酸=227、硫化水素=3.31 <H5.11.12分析> (芦之湯第9号泉(芦刈の湯))
文・画像 別働隊@うつぼ
アル単や弱食塩泉、造成泉など、お湯的にあまり魅力を感じなかったし、”箱根価格”と揶揄される高額料金、そして微動だにしない大渋滞を思うとどうにも足が向かなかった。
だが、ここにきて箱根のお湯もボチボチ攻めるようになり、意外に面白いお湯や穴場の施設があることを再認識した。来年あたり腰を据えて探求してみたいと思っている。
箱根は古くからの湯場で、江戸期には箱根七湯(湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀、芦之湯)と称され湯治客で賑わった。なかでも格別の人気を誇ったのが、硫黄泉の芦之湯で、温泉番付でもだいたい箱根筆頭の地位を確保していた。
江戸期には湯本に次ぐ規模があったそうだが、いまは「松坂屋本店」「きのくにや」「山形屋」の3軒の宿があるのみだ。駒ヶ岳の山腹にあるこの温泉場は、夏でも比較的涼しく、霧の多いしっとりと落ちついたところで、古くは名だたる文人たちがこの地に逗留している。
3軒の宿のなかでも温泉好きから高い評価を得ているのが「松坂屋本店」だ。造成ではない硫黄泉の白いにごり湯は箱根では貴重で、以前から人気が高かったが、昨今の温泉ブームで日帰り客が殺到し、最近では休日の日帰り入浴はほとんど絶望的らしい。(原則として宿泊客が到着、あるいは14時の日帰り受付開始時に人数が多いと、その時点で日帰り受付を終了するらしい。)
ここは子供のころ何度か泊まっていて大学時代にも泊まったことがあるが、お湯の記憶はきれいさっぱり消え去っていたので、ほとんど初入湯状態だった。
万全を期して攻めた。
平日、13:30まえには到着し、無理を承知で入浴を乞うと案の定14:00からだという。「東光庵」を散策し、玄関前のバス停のベンチに座り込んで待つ。14時ちょうど、玄関に灯りが点ると同時に一番乗りで受付。すぐうしろにはすでに3.4組の待ち客がいた。
中庭を廊下で渡った奥にある男女別の浴室。みかげ石縁石敷5.6人の高温槽と20人以上はいけそうな適温槽が並び、うすく緑白濁し白い湯の花の舞う鮮度の高そうなお湯が満々と湛えられている。浴槽に静かに注入し浴槽ふちから流し出す、正統派のかけ流しだ。
弱苦味たまご味に、かなり強いしぶ焦げイオウ臭とラムネ臭を配した山の硫黄泉らしい湯の香。メタけい酸系のヌルとろみと硫酸塩泉系の力強い温もり感があって長湯はきびしいが、異様にクセになるお湯で何度も入ってしまう。
浴後は爽快感が出てイオウ臭が肌に残る。イメージ的には日光湯元に近いものを感じたが、より硫酸塩泉の特徴がでているように思う。とても質感の高いお湯で、同じ硫黄泉系にごり湯の造成泉とは明らかに一線を画している。
しばらくすると、浴客が次々と入ってきて、10人近くなった。次第にお湯のにごりが強くなり、湯の花も少なくなってきたので、やはり一番湯が狙い目かと思う。
日帰り難易度は高いが、タイミングをはかりトライするだけの価値は十分にある名湯だと思う。
含硫黄-Ca・Na・Mg-硫酸塩温泉(硫化水素型) 62.5℃、pH=7.3、湧出量不明、成分総計=1182mg/kg、Na^+=89.0mg/kg、Mg^2+=43.8、Ca^2+=108、Cl^-=5.20、HS^-=5.85、SO_4^2-=514、HCO_3^-=157、陽イオン計=255、陰イオン計=683、メタけい酸=227、硫化水素=3.31 <H5.11.12分析> (芦之湯第9号泉(芦刈の湯))
文・画像 別働隊@うつぼ