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【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第26巻【ネタバレばれ】

2015-03-02 12:00:26 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら
49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第26巻 ※第13章(途中から)第14章(途中まで)

第13章 ふたりの阿古夜

オンディーヌでの稽古を中断し、今後しばらくは自分が稽古をつける事を小野寺に承諾させた歌子は
亜弓に、目が見えない状態での演技を徹底的に叩き込む。
みえないのであれば、別の方法で感覚を得るまで。
歌子の実の娘に対するとは思えない、いや実の娘だからこそ出来るスパルタ指導がスタートした。
物が落ちる時に起きる風圧、一瞬かおる匂い、火の熱さ、音の響く距離感・・・
亜弓はこれまで目に頼ってきた感覚を、体の全ての感覚を研ぎ澄ますことで補おうとしていた。
そして奇しくも、それにより亜弓は紅天女の感覚を引き寄せることになる・・・

紫織は稽古終わりのマヤを呼び出した。
喫茶店で話をする二人。
真澄の婚約者との話など、気まずさ以外ないマヤだったが、
紫織もまた、ことさら自分が真澄の婚約者であることを誇示し、
未来の妻として、大都芸能社長夫人としての立場からマヤに接してくる。
そんな紫織に戸惑いを感じるマヤ。
真澄がマヤに厳しく接するのも、紅天女への思いから、
真澄を憎むようなことはしないでほしい、本当は優しい人なのだから・・・
そういう紫織の言葉に、
「わかっています・・・」
と答えたマヤ。
真澄が本当は優しい人だということ、いつだって
自分のためを思って行動してくれていたこと、
マヤは紫織よりもずっとそのことを分かっている。
しかしマヤのその返答は、紫織の猜疑心をさらに駆り立てる。
マヤは本当は真澄の事を、愛しているのではないか。
そして真澄もマヤの事を・・・・
紫織は二人の関係をなんとしても引き裂こうと画策する。
立ちくらみを装って鞄を落とすと、拾い上げようとしたマヤのバッグに
こっそりと自分の左手の薬指に光る婚約指輪を忍ばせる。
気付かないマヤはそのまま帰宅した。

外出から戻るや否や紫織が泣き崩れていると聞き、鷹宮邸を訪ねる真澄。
そこで紫織が婚約指輪をなくしたと聞かされる。
気にすることはない、また買えばいいと慰める真澄に、
せっかくもらった大切な指輪なのに・・・といいつつ、
もしかしたらあの時、とマヤの事を口にする。
今日マヤに会った時、とても物欲しそうにこの指輪を見ていたと。
暗にマヤが盗んだのではないかと匂わせる紫織に、
あの子がそんなことをするはずはないと取り合わない真澄。
その強い口調にたじろぐ紫織だったが、更なる罠を仕掛けていた。

鞄の中から紫織の指輪を発見したマヤは、すぐに返そうと紫織に連絡を取る。
そして紫織がいるという場所へ指輪を持って向かう。
そこはウエディングサロン、紫織はドレスの試着をしていた。
その美しい花嫁姿に、言葉を失うマヤ。
「お似合いです・・」
そう言うのが精いっぱいだった。
真澄と紫織の結婚にショックを受けている様子のマヤを見て、
秘かにほくそ笑む紫織だったが、更にマヤを追い詰めるため、
マヤに、わざとブルーベリージュースを自分のドレスにかけさせる。
その直後、衣装合わせに立ち会うため訪れた真澄が入室し、
ショックを受けた様子の紫織をかばうように抱きかかえる。
その様子に呆然とするマヤが落とした鞄からは、紫織の指輪が転がり落ちる。
「君が・・・こんなことを・・・」
信じられないといった真澄だったが、激高のままにマヤを怒鳴りつける
「俺が憎いのなら俺に嫌がらせをしろ。紫織さんは関係ないだろ!!」
真澄に信じてもらえなかったマヤは、深く傷つき、その場を後にする。

傷心のマヤのもとに届いた荷物
紫のバラが添えらえた箱の中には、かつてマヤから紫のバラの人へと贈られたマヤの写真が
ズタズタに切り裂かれた状態で入っていた。さらに高校の卒業証書も一緒に・・・。
「あなたに失望しました」
メッセージカードにはそう書かれていた。

真澄に、信じてもらえず軽蔑された。
唯一の絆だった紫のバラのつながりも途切れた。
マヤの心はボロボロだった。

紫織にまつわるここ数日の事件。
水城はマヤがそのような事をする子だとはとても思えなかった。
真澄はそうは思わないのだろうか。
水城はいつか鷹宮邸で目撃した光景を思い出す。
「紫のバラは嫌い・・・」
そう言いながら部屋に飾られた紫のバラを切り落としている紫織の姿を・・・

いつものように忙しい社長に急な仕事が入ったため、
代理で紫織を美術館へとアテンドする水城。
途中鷹宮の車に紫織のポーチを取りに戻った水城は、
車の中に落ちていた、紙片を見つける。
それは、破られたマヤの写真のようだった。

**
真澄もまた、マヤがあのような事をするとはとても思えずにいた。
あの時は激高してあんなことを言ってしまったが・・・。
それほどまでにあの子に嫌われているのか・・・。
紫織との約束を水城に任せ、深夜まで社長室で仕事に従事する真澄を、
紫織が訪ねてきた。
度重なるデートのキャンセルに少し文句を言いながらも、
自分に対して優しくいたわるように接してくれる真澄の対応、
そのまるで商談相手に接するようなよそよそしさを感じながらも、
今度の週末は絶対に紫織との時間を取る、そう約束してくれた真澄に、
紫織は機嫌を少し直す。
二人で大都芸能を出る直前、化粧室に忘れ物をしてきたことに気付いた紫織は、
取ってくるからと再び上階へと上がって行った。
一人駐車場へ向かった真澄は、
そこに立っているマヤの姿に気づく。
「なんでこんなところにいるんだ。まだ何か文句があるのか。」
そう言う真澄にマヤは、
疑われているかもしれないが、自分は絶対にあんなことはしていないと
強く主張する。
マヤは真澄に誤解されたままなのはたまらなかった。
そして、本当に真澄が、紫のバラの縁を断ち切ろうとしているのかを
確かめるため、ずっと大都芸能の前で真澄が出てくるのを待っていたのだ。
その時・・・
ガラの悪い数人の男たちが二人に怪しく声をかけてきた。
彼らは、以前真澄が引き抜き工作を行って主力タレントを奪われた
北斗プロの息のかかった者たち。
以前から真澄に恨みを持ち、脅迫状を送りつけていた。
とうとう実力行使に出てきた・・・。
真澄は、マヤだけでもなんとか逃がそうとするが、暴漢につかまってしまう。
とっさに暴漢に殴り掛かると、真澄はマヤをかばうように抱きかかえ、
必死にマヤの身を守った。
「この子にだけは手をだすなっ!!何かあったらただじゃおかんぞ!!」
そう言いながらひたすら暴行を受け続ける真澄。
真澄の胸の中で守られながら、何もできないマヤは、
頭から血を流しながらもそれでもマヤの安否を気遣い続ける真澄の様子を見て、
決してこの人が、あんな絶縁状を送ってくるような事をするはずがないと確信する。
エレベーターから降りてきて、真澄とマヤの様子を目撃した紫織は激しく動揺し、貧血で倒れこんだ。
大声を上げて助けを呼ぶマヤ、騒ぎに気付いて駆け付けた警備員に
マヤのために事が大きくならないよう、警察は呼ぶなとくぎを刺した真澄は、
そのまま倒れこみ意識を失った。

社長室に運ばれた真澄をマヤは介抱する。
自らのハンカチを濡らし、真澄の血をふき取りながら、
真澄へのあふれる思いを今更ながら痛感する。
こうやってこの人はずっと、私の事を守ってくれていた・・・・。
涙を流しながら必死に真澄の事を思う。
そして、阿古夜のセリフを口にしながら、眠り続ける真澄に思いのたけを告白する。
「捨てて下され、名前も過去も」
「阿古夜だけのものになってくだされ」
そして、マヤは真澄の唇に、自らの唇をそっと重ねた。

翌朝、
社長室で目覚めた真澄のそばには紫織が立っていた。
ずっと介抱してくれたのか、との問いにうなずく紫織。
マヤを気にする真澄に、あの子は怖くなってさっさと逃げて帰ったと告げた。
それでも真澄は、マヤが無事であることに安堵をする。
しかし真澄の頭の中には、紅天女の言葉、そしてマヤを思わせる暖かな感触が
そこはかとなく残っていた。
あれはすべて、夢か・・・。

あの夜、貧血で倒れていた紫織は意識を回復するとすぐに社長室に行き、
そこで真澄を介抱するマヤを発見、怒りにまかせてマヤを追い出していた。
しかし紫織は気づいていた。
うなされながら真澄がうわごとのようにマヤの名を呼んでいたことを。
紫織はさらなる画策を企てる。

前日、無残に送り付けられた紫のバラを受け取って深く落ち込んでいたマヤだったが、
翌朝はまるでそんなことなかったかのように元気に稽古場に現れた。
紫のバラの人は、きっとあんなことしない。
そう言い切るマヤに、黒沼もきっとそうだろうとうなずく。
再び真澄を信じ、自分は紅天女に向かって努力するだけーーー
やる気を取り戻し再スタートを切ろうとした矢先、紫織の謀略がマヤに襲い掛かる。

黒沼、そしてマヤを訪ねてきたのは紫織の側付、滝川。
滝川は、度重なるマヤの紫織及び真澄に対する無礼を非難し、
今後一切二人に近づくなと警告しに来た。その監督責任は黒沼にもあるとも。
事実無根の言いがかりに反論しようとするマヤを押しとどめた黒沼に、
滝川は一通の封筒を差し出す。
もし今後、こちらの言うとおり邪魔をしないでいてくれれば、これからの
演劇活動に鷹宮として支援をすることを約束する。
これはそのうちの一部だと。
封筒の中には、1000万円の小切手が入っていた。
お金で買収しようとするいけ好かない態度に怒りをあらわにする黒沼。
こんなもの受け取っては、自分がやりましたと認めるよなものだとマヤを急き立て、
返してこいと命令する。
電話で紫織が向かっているという場所を聞き出した黒沼は、
マヤにその情報と小切手を持たせ、急ぎその場所へ向かわせた。

先週のデートキャンセルのお詫びにと、今度の土曜日は携帯を持たずに
来てほしいと、紫織に言われるまま鷹宮の用意した車に乗り込む真澄。
社を出る直前、掃除の担当者から、社長室に落ちていたというハンカチを受け取る。
血の付いたそのハンカチ、紫織の物にしては子供っぽいが・・・。
真澄はとりあえずそのハンカチを胸ポケットにしまうと、運転手に連れて行かれるまま、
紫織のもとへと向かう。
着いた所は船着き場。渡された乗船券、それは
アストリア号 ワンナイトクルーズ・・・・
支配人に案内されるまま上船した真澄は、紫織が手配したという
ロイヤルスイートルームに入る。
そこで目にしたものは、
豪華な天蓋付きのキングサイズダブルベッド、
その瞬間真澄はきびすを返し、元来た道を戻って行った。
「降りる」
真澄の様子に慌てた支配人が必死に押しとどめようとしている時、
向こうの方で何やら騒ぎが起こっていることに気付く。
「離して下さいっ、この船に乗っている人に用があるだけなんです
 渡したらすぐに降りますから・・・・!!」
船員に取り押さえられている人は、
「マヤ・・・!!」
「・・・・?は、速水さん!?」

船着き場に向かう紫織は、決心をしていた。
真澄の心を繋ぎとめるためならば、私は後悔しない。
真澄のためならば、なんでもできる。
“おじいさま、はしたないとは思わないで下さい・・・”
しかし紫織を乗せた車は高速道路で事故渋滞に巻き込まれ、
前にも後ろにも進めなくなる。
無情にも過ぎていゆく時間・・・
もう、出港の時間が過ぎてしまう。
皮肉にも二人の時間を邪魔しないよう、真澄に携帯電話を置いてくるようお願いしたのは
紫織自身であった。
“こんなことになるなんてっ!!”

紫織に小切手を返しに船に乗り込んだマヤ、
紫織に言われるがまま、船に乗り込んだ真澄、
しかしそこに紫織はおらず、二人を乗せたアストリア号は静かにワンナイトクルーズの旅に出た。

第14章 めぐりあう魂

レストランで食事をとるスーツ姿の真澄と普段着のマヤの姿はとても不釣り合いで、浮いていた。
噂になっていると心配するマヤに、せいぜい姪と叔父にしか見えないと軽口を飛ばす真澄。
マヤが紫織に用があって船に乗ったことを察した真澄は、その理由を問う。
見抜かれたマヤはやはり真澄に隠し事は無理だと、素直に小切手の件を話す。
紫織は何を考えているのか・・・・
真澄の中で初めて紫織に対する不信感が芽生えた。
「私、あの人に、あなたの大切なあの人にあんなこと、絶対してませんから!!」
そういうマヤに疑って悪かったと詫びた真澄は、受け取った小切手を目の前で破った。
「これは俺から紫織さんに返しておく」

食事が終わり、船内のブティックでマヤにドレス一式をプレゼントする真澄。
綺麗にドレスアップされたマヤの姿は、これまで見たこともないほど美しく、大人の女性だった。
「チビちゃんがよく化けたな」
軽口で自分の動揺をごまかそうとする真澄だったが、
「わたしもうチビちゃんじゃありません、大人です。結婚だってできるんですっ」
と叫ぶマヤに、そうだったなと心ここにない返事をする。
そしてマヤを船内で開催されるレビューショーやパーティーに連れて行く。
経験したことのないような華やかなステージにマヤはすっかり魅了される。
そんなマヤを真澄はダンスに誘うが、経験がないからとマヤは拒絶する。
「前にも踊ったことあるじゃないか?」
「あの時は授賞式で、速水さんが・・・」
「あの時のように、俺に任せてついてくればいい・・・」
そう言ってマヤの手を取ると、優しくエスコートした。
真澄に促されるままステップを踏むマヤ。
次第に動きにも慣れ、華やかに舞い踊るマヤと真澄に、いつの間にかダンスホールの人たちも
注目し、ダンスが終わった時には盛大な拍手を受けた。
真澄と過ごす、つかの間の幸せな日々。
マヤはこの時をかみしめた。

パーティーも終わり、部屋に戻る真澄の顔はさえない。
促されるまま通された部屋は、ロイヤルスイート。
真澄は、他に部屋が取れなかったからとマヤをこの部屋に残し、
自分はロビーで休むとその場を後にした。
部屋に残されたマヤ。
目の前のダブルベッドを見た瞬間、マヤは本来ここで一夜を過ごすはずだった
真澄と紫織の事を思い出す。
“そうだった、ここで本当は真澄は紫織と過ごすはずだったんだ・・・”
悲しい現実に、先ほどまでの幸せな日々は幻だったかのように、
マヤは涙と共に真澄にプレゼントされたドレスを脱ぐ。

マヤの事を思いながら、デッキで夜風を浴びながらグラスを傾ける真澄。
そこへ、泣きながら普段着に着替えたマヤが現れた。
そして、これお返しします、と買ってもらったドレスを真澄に渡す。
「あの部屋、速水さんが紫織さんと過ごすために手配した部屋ですよね。
 私あんなところで寝られません。」
体だけは丈夫だからと、鍵を返しロビーに行こうとするマヤ、
真澄は思わず声をかけた。
「待ってくれ!」
そして自分もあの部屋を使うつもりはない、と鍵を海に投げ捨てる。
「俺も知らなかったんだ。今日は紫織さんに言われて何も知らされずに船に乗って・・・。
 降りるつもりだった・・・・・・。」
船上で、君の姿を見るまでは・・・
そう言った真澄の顔をマヤは驚いた顔で見つめる。

お互いに帰るべき部屋を失ってしまった・・・と笑いあう真澄とマヤ。
夜は冷えるからと真澄のコートをかけてもらいながら、二人で星空を鑑賞する。
いつか、プラネタリウムで見た空。
梅の里で見た、空。
そして、今・・・・
頭上には、満天の星空が広がっている。
二人は飽きることなくずっと、星について語り明かした。
当たり前みたいに、なんでもない会話が出来る・・・・。
今はただ、それだけで十分幸せだった。

**
翌朝、
ロビーのソファーでそれぞれ過ごした二人。
目覚めたマヤがデッキに出ると、そこには薔薇色に輝く朝焼けがきらきらと輝いていた。
“速水さんにも、見せたい・・・”
マヤは寝ている真澄を起こすと、腕をひっぱって真澄をデッキまで連れ出した。
寝ぼけ眼の真澄も、目の前できらめく夜明けの美しさにしばし言葉もなく立ちすくむ。
「よかった間に合って・・・。この景色、速水さんにも見てもらいたかった・・・・」
そう言ってほほ笑むマヤに、ふと真澄は暴漢に襲われた日の事を思い出す。
胸ポケットには、血の付いたハンカチが、もしや・・・・。
「君のハンカチを俺の血で汚してしまって悪かったな・・・・」
そう言って真澄が差し出したハンカチを受け取ると、マヤはあの夜の事を思い出し
顔を真っ赤に染めた。
紅天女の言葉にのせて伝えた、真澄への愛の告白。
顔を真っ赤にしたマヤの姿を見て、あの夜の感覚は夢ではないのではないかと
思った真澄は、マヤにお願いをする。
「阿古夜のセリフやここで演ってくれないか。」
真澄がもしかしたらあの日の事に気づいているのではないかと緊張するマヤだったが、
真剣な真澄のまなざしに、自分のありったけの気持ちを込めて伝えようと決意する。
そして、おもむろに靴を脱ぐと、マヤは手すりに寄りかかる真澄の側に立った。
「お前さまが好きじゃ」

その声はあの夜、真澄が夢うつつで聞いた声そのものだった・・・
「!?」

マヤは、真澄への愛情をセリフ一つ一つにのせて語る。
真澄を見つめる視線はどこまでも愛おしく、真澄以外は誰も映っていない。
マヤの本心が信じられない思いでいる真澄だったが、
真澄のジャケットをふんわりと抱きかかえ、頬を寄せながら
「お前さまに抱かれている時はどんなにか幸せ・・・」
そう言って恍惚の表情を見せるマヤに、もう冷徹の仮面をかぶり続けることなど
出来なかった。
そしてーーー
「すててくだされ 名前も過去も 阿古夜だけのものになってくだされ・・・」
そういって優しく真澄の頬に手のひらを当てるマヤの表情は、
魂の片割れに対する真実の愛情表現だった。
“もう、だめだーーー”
これ以上、自分の気持ちに嘘をつくことなどできない・・・・
真澄はマヤをきつく抱きしめた。

“速水さんーーー!!”

朝焼けを背に、デッキで抱き合う二人。
他の乗客がデッキにやってきて、思わず離れようとするマヤを、
真澄は離そうとしない。
「もうすこし、このままで。」
「う、噂になります。速水さん。」
「俺と噂になるのは、いやか?」
そう言う真澄の声は真剣で、マヤは覚悟を決めた。
「いいえ、速水さん。」
そういうとマヤは真澄の背に回した手をギュッと握りしめた。
その姿を見ていた乗客は、あてられたようにそそくさとデッキを後にした。

「いつからだ?いつから俺をいやじゃなくなった?」
「最初は・・・でも、あなたの優しさに気付いてから・・・・」
たどたどしく答えるマヤをゆっくりと放した真澄は、
マヤがもうチビちゃんとは呼ぶなと言っていたことを思い出し、
これからは違う呼び方にになってもいいか?と尋ねた。
「マヤ・・・」
その言葉に顔を赤らめるマヤだったが、続けて真澄に
おれの事を冷血仕事虫やゲジゲジ、イヤミ虫と呼ぶものもやめろと説教され
思わず吹き出してしまう。
二人で屈託なく笑いあう、長らく忘れていた感覚だった。

伊豆沖を航海するアストリア号。
この近くに別荘を持っているという話を真澄がする。
自分以外は限られた人間しか来たことがない。自分の隠れ家。
そこにいると、自分自身を取り戻せるような気がする・・・
そう語る真澄は、今まで見てきた顔ではない、素のままの真澄だった。
砂浜を裸足で歩くとキュッキュッと鳴って、
岩場ではカニがブクブクと泡を吹いている
そして夜になるとテラスからは満天の星空が見える。
私も見てみたい・・・そういうマヤを真澄は
「来るか・・・?今度。」
と照れたように誘った。
伊豆の別荘、星空、その日はきっと帰れない・・・・・
「はい、速水さん。私も一人で行きます。」
速水さんがいやでないなら・・・と照れたように、でもはっきりとマヤは答えた。

もうすぐ帰港ーー
君といる時は自分を取り戻せるようだ、そういってくつろいだ様子の真澄を見ていると、
思わずマヤは側に身を寄せた。
夢のようなひと時が、もうすぐ終わる。
真澄は優しくマヤの肩を抱き寄せた。
名残を惜しむかのように、マヤと真澄は黙って身を寄せ合い、
ようやく手に入れた幸せをかみしめ、そして船を下りてからの現実を思った。

港では、真澄の帰港をまんじりとした思いで待ちわびる紫織が、
そして、船に乗ったまま出港してしまったことを聞いて、マヤを迎えにいこうと
バイクを走らせる桜小路が向かっていた。

**
船着場に着いた真澄とマヤ。
ゆっくりと人波に流されながら出口へと向かう。
“夢のようなひとときも、終わる・・・”
その時、真澄はマヤの肩をしっかりと抱き、言った。
「これから、俺を信じて待っていてくれるか?」
しばらくは会えないかもしれない・・・だが、
「いつか、いい形で君を伊豆に迎え入れたいと思っている。」
はっきりとそう言った真澄に、マヤは待っていますと答えた。
真澄がマヤと二人で出てきた姿を見て驚愕する紫織。
なぜ、ここに、北島マヤが、真澄と一緒に・・・!
紫織の姿を見つけても動揺することなく真澄は、マヤと偶然船で会ったこと、
マヤは紫織にこれを返しに来ただけだ、とポケットから小切手を取り出した。
「破ったのは、僕ですが・・・」
そして真澄はマヤを送っていくと告げ、紫織の前を素通りした。
“気づかれている、自分がマヤにしたことを・・・”
そして船上で二人っきりで過ごした・・・
紫織の目の前は真っ暗になり、そのまま倒れこんだ。

倒れこんだ紫織をさすがにほっておけない真澄は送ってやれないことをマヤに詫びると、
タクシー乗り場に連れて行った。
タクシーに乗り込む直前、
「桜小路くん!?」
バイクでマヤを迎えにきた桜小路は、マヤが真澄といることに驚いた様子だったが、
いつになく深刻な表情の真澄は
「マヤを頼む・・・」
と桜小路にマヤを送っていくことを頼んで、自身は紫織の運ばれた医務室へと去って行った。
マヤと真澄の間に流れるいつも違う雰囲気を感じながらも、
マヤを連れて行こうとする桜小路だったが、それを拒否したマヤは、
走って真澄の後を追っていった。

「待ってください、速水さん!!私まだ大事な事言ってない・・・!!」
廊下でマヤの声に振り向いた真澄の胸に、マヤは飛び込んだ。
「私、まだ子供で、大人の世界の事なんて分からなくて・・・・だけど私、早く大人になります。」
早く大人になって、速水さんを助けられる人になりたい
「だから・・・、私の事待ってて・・・!」
全身でぶつけてくる健気なマヤの思いに、真澄も思いのたけを込めてきつくマヤを抱きしめ応える。
「もちろんだとも・・・!君こそ俺を待っていてくれ・・・!」
紫織の休んでいる医務室へと続く廊下で、真澄とマヤは
これまで伝えられなかった思いを全て吐き出すように、互いを抱きしめあった。

“・・・!?どうして、どうして速水さんとマヤちゃんが・・・!?”
マヤの後を追ってきた桜小路は、その様子を目撃してしまう。
放心状態でバイクに戻る桜小路。
“昨日、二人に何があったんだ。船の上で・・・いったい何が・・・”
信号を見落とした桜小路のバイクは、トラックに激突した。

**
桜小路の交通事故の一報を稽古場で聞いたマヤは、仲間たちと病院へ駆けつけた。
全治2ヶ月ーーー
あと1ヶ月に迫った試演には間に合いそうもない。
病院のベッドの上で目を覚ました桜小路は、なぜここにいるのか、
記憶をたどる。
そして目の前でみた、マヤと真澄の熱い抱擁を思い出す。
その時の残像を思い出し、そばに駆け寄るマヤに冷たい対応しかできない。
せっかくここまで築き上げてきたのに・・・こんな風にあきらめるなんて・・・
一真として、必死にもがき作り上げてきたものを、桜小路はあきらめたくなかった。
病院を抜け出し、松葉づえをつきながら、桜小路が稽古場にやってきた。
試演の行われる10月10日まで、完治は出来ないが今より少しはましになっているはず。
であれば、その状態で舞台に立て、黒沼は桜小路にそう告げた。
マヤに対してのわだかまりはまだ解けないが、それ以上に
一真役への強い意欲が桜小路の中に生まれていた。
なんとしても、自分の一真を演じる。
マヤは、露骨に自分を避けている桜小路の態度に疑問を感じつつも、
戻ってきてくれたことに安堵の気持ちでいた。
舞台の上での相手役、私の一真・・・。

その頃真澄も、伊豆の別荘であの船での出来事を改めて思い出していた。
今でも体に、マヤを抱きしめたあの感触がよみがえる。
今頃になって、愛しくて愛しくてしかたない。
真澄の体内では血が熱く燃えたぎっているような感覚すらある。
ここにあの子を、招く日が来るとは・・・。
しかし真澄にはまずやらねばならないことがある。

聖の報告で知った、マヤのもとに届けられたという身に覚えのない紫のバラと
びりびりに破られたマヤの写真、そして送り返された卒業証書ーーー
それでもマヤは「紫のバラの人を信じています」と健気に言ったという。
やはり、ここ伊豆の別荘から無くなっていた。
ここに来れる人物は限られている・・・。

そして、水城に渡されたマヤの写真の切れ端。
鷹宮の車で発見したという。
紫織の指輪紛失事件と、ドレス事件・・・
真澄の中で一つ一つのピースがつながっていく。

「結婚式を中止する場合の損失と、鷹通との提携解除のシミュレーションを」
真澄からそう指示された水城の顔は凍りつく。
既に間近に迫った真澄と紫織の結婚式は、招待客1000名超の大がかりな披露宴、
料理やウエディングケーキ、引出物や挙式後の新婚旅行に至るまで、
最高級の物を準備し進められてきた。
ましてや鷹通との提携解除という事になればその損失は・・・
水城は、鉄壁だった真澄の心の鎧を壊したものは何なのかと思いを巡らせる。

**
母、歌子と二人っきりでほとんど見えない目を補う演技の稽古を続ける亜弓。
目が見えないと相手に分かられてはいけない。
歌子が手配した特別な稽古場は、誰の入室も認められていない。
相手との距離感をしっかりと把握して、視点を合わせなければいけない。
風や匂いやその他自分を取り巻くすべての物から情報を察知し、合わせていく。
過酷な稽古を乗り越え、歌子は小野寺と、相手役である赤目慶を稽古場に
招き入れ、亜弓の紅天女を見せる・・・

文庫版27巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
やっとこ来ました、めぐりあう魂編。
どんなに周りに邪魔されたって、魂の半身はめぐりあっちゃうものなのですよ。
マヤの事信じずに怒った真澄さんには腹立ちますが、それはまあ、鬱積した思いが
暴走したと汲んで、許してあげて下さい。
デッキでも鉄仮面かぶりっぱなしでスルーするかとヒヤヒヤしましたが、ようやく
自分の心に素直になってくれて・・・・うれしい。
でも、傍からみれば単にマヤが紅天女のセリフを情感たっぷりに語っただけなんですが、
よくあれでマヤの恋心に気付いたな、朴念仁真澄・・・と思えなくもなく。
とりあえずあの時は、マヤが自分の事嫌いじゃない程度の認識だったのかな。
で、船降りた後、改めてのマヤの告白で確信したのかな。
にしては、マヤもいったい何が言いたいのかいまいちよくわからない告白をしてますよね。
大人になるまで待ってて・・・って、どういう意味ですか?
奇跡的に通じてるけど「もちろんだともっ!!」

この後ハッピーラブラブ展開になるかと思いきや、どどどど~~~~~んと奈落の底に
落ちちゃうことはさておき、
これでひとまず文庫版は終わりです。続きはとりあえずコミックス版に移行しますね。

※2016.09追記:文庫版27巻発売されました~~~


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