(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

ep第12話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2015-03-06 14:51:27 | ガラスの・・・Fiction
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新春公演がロングランとなり梅の季節を迎える頃、
速水真澄は義父、英介と対峙していた。
速水邸を出て半年近く、これまでも必要に応じて英介に報告をあげてはいたが、
今回の用向きはそれらの集大成と言える

紅天女の行方・・・

先日マヤを伊豆に連れて行き、二人の間で意思確認は既にできている。
しかしそれは真澄にとっての切り札、何よりもマヤのためにどう切るべきか。
「興行は大成功のようじゃな」
「はい、お陰様で。黒沼先生の大胆な演出変更も、より紅天女の世界観を広げていると
 概ね好評価です。」
「ふむ。あくまで紅天女は復活して終わりではない、
 これからさらに新しく進化するというわけか・・・」
車いすに腰掛けた英介の表情は言葉以上にはうかがい知れない。
どちらが先に核心を突くか・・・
「・・・・千草と話をしたよ・・・」
英介が唐突にそう言った。

**
「紅天女」が終わる・・・・!!
1月からの復活公演「紅天女」も残るはあと1週間となった。
夢中で駆け抜けた3ヶ月、心も体も紅天女に、阿古夜に染まった日々だった。
なんだか寂しくなるな・・・
開演前の舞台でひとり、物思いにふけるマヤ。
「あと1週間だね。」
後ろから桜小路が声をかける。
「桜小路君・・・・、ほんとにもうあと1週間なんだね。」
「気づけばあっという間だったね。いろいろ迷惑をかけたこともあったけど、
 やっぱりマヤちゃんと一緒に舞台に立てて良かった。」
「わたしこそ、相手役が、一真役が桜小路君で良かった。相手が桜小路君だったから、
 紅天女として演れたと思う。」
屈託のない笑顔を見せるマヤ。
「その言葉が、また僕をまどわせるんだよな~~~あ」
「え??」
マヤの悪気のない言葉や振る舞いに、桜小路はいつも気を持たせられ、ドキドキしていた。
「マヤちゃんはさ、文字通り“舞台上の”魂の片割れだって思ってたんだろうけど、
 そんな目で言われて、現実とごっちゃにしない方が難しいよ。」
そう言って桜小路はにっこりと笑った。
「・・・ご、ごめん、、なさい。」
照れて顔を赤くしながら口ごもるマヤ。
「大丈夫大丈夫、マヤちゃんの気持ちは十分分かってるから。」
マヤとの共演のおかげで、桜小路も演じるという事を身に付けることが出来た。
「僕みたいなタイプの人間は、役になりきりすぎると危険ってことが分かったよ。」
のめりこみすぎると、現実の自分を見失う・・・・。
「・・・・あのね、桜小路君、うまく伝えらえるかどうか分からないけど・・・」
マヤが口を開いた。
「私、舞台上では桜小路君の事しか考えていないの。桜小路君の演じる一真でいっぱい。
 人を愛する感覚とか、大切だと思う気持ちが、現実の私が思うものと同じなのかどうか
 よくわからないけど、とにかく、舞台に立った時は、他のだれでもない、
 あなたを見てます。」
「・・・・ありがとう。マヤちゃん」
マヤのまっすぐな気持ちに恐らく他意はない。それだけに桜小路は
ようやくいえつつある失恋の気持ちが再びくすぐられる思いを感じつつ、
これから先マヤの長い役者人生において、自分と同様な気持ちを、
マヤの相手役は感じるのではないかと思いやった。
「マヤちゃん結婚とか・・・考えないの?」
唐突な質問にマヤは驚いて飛び上がる。
「え?け、結婚????って私まだ21になったばっかりだし・・・・」
「でもさ、マヤちゃんみたいなタイプは、若いうちに結婚して、
 そっちの面での心配を取り除いた方が
 演技に集中できるような気がするけど・・・・、って
 相手も思ってるんじゃないかな・・・」
なんてね、と桜小路君はぺろりと舌を出した。
「そーなのかな・・。」
「うん、じゃないとマヤちゃんの知らない所で勝手に魔性の女認定されそうだよ、
 今のままだと。」
「え、私が魔性の女!?まさか、ありえないでしょ、
 こんなチビで地味で何のとりえもないただの・・・」
「だからだよ!」
そう言って桜小路はマヤの肩をポンポンと叩いた。
「そんなどこにでもいる普通の女の子が、舞台上だとあんなに輝いて美しく、見る人すべてを虜にする。
 だれだって、その陰に素敵な男の影でも想像しなきゃ、普通納得しないんだよ。」
素敵な男性の影・・・・速水さん・・・・
ふいに真澄の顔を思い出し顔をぼっと赤らめるマヤ。
「それに・・・・マヤちゃんはともかく」
相手はさして若くもないよね・・・・ とは桜小路はさすがに言えなかった。
どこで聞かれているか、分かったもんじゃない。

「素晴らしい舞台でしたわ。試演で見た時から更に洗練されて、美しくて・・・・」
マヤの楽屋に紫織が現れたのはそんな時だった。
ようやく少しずつ元の生活に戻ってきたとはいえ、まだ全回復とはいかず、
私が育てたものではなくて申し訳ないのだけど・・・といいながら白と薄紅の花束を
マヤに差し出す。
「あ、ありがとうございます。紫織さん。」
確かに以前よりも肌の色は白さを増し、頬もこけたように見えるが、表情は穏やかで
初めて会った頃のあの包み込むような優しさを感じた。
「マヤさんの紅天女、どうしても見たいと思って治療に専念していましたのよ。」
既に私の事は真澄さまからお聞きでしょう、と前置きして紫織はそう言った。
「あなたにはいろいろと申し訳ないことばかりしてしまって・・・・今振り返っても本当に
 謝る言葉すら出てこないのだけれど・・・・」
伏し目がちに語る紫織に、正直何と答えたらいいか分からない。
「亜弓さん・・・」
唐突にマヤが出した言葉に紫織が気づく。
「え?」
「あ、いえ・・・・。あの、亜弓さん、姫川亜弓さん、彼女と紅天女の稽古を積んでいた頃、
 亜弓さんに言われたことがあって・・・。」
同情なんて、結構。
私なんて、自虐的にそういいながらすべてを手にしているあなたがうらやましい。
「私、今までずっと自分に自信が無くて、見た目も平凡でチビだし、
 どこにでもいる普通の人・・・・」
だけど・・・マヤは紫織に向かって続けた。
「私が唯一誇れること、それが演劇なんです。演じている時だけは、いつもの自分と違う、
 どんな人生でも歩むことが出来る。そんな幸せを毎日感じながら生きています。
 何があっても失いたくない物、それが演劇なんです。」
紫織を吸い込むようなきらきらとした目に、紫織はこの目に魅せられた人を思った。
「私が、私に自信がないっていうことは、舞台上に立つ私を応援してくれるすべての人を、
 桜小路君のような素敵な相手役を、そして 亜弓さんのような素晴らしいライバルを
 否定する事になるって、私ようやくわかってきたんです、だから」
もう、自分なんてって言わないって決めました、マヤは力強く告げた。
紫織は、マヤがあえて真澄の名前を口に出さない所に、その優しさを感じた。
「私、あなたの紅天女に救われた気がします」
「え?」
「私が自分自身を傷つけて、誰かを恨んで心神喪失になったのは、
 あなたのせいだったかもしれない、
 いいえ、あなたのせいだと思う事で、
 私が愛されていないことから目をそむけようとしていた。けれど
 あなたの紅天女が私に一つの答えを教えてくれたのもまた真実です。」
「・・・・・・」
「私、真澄さまを好きになったこと後悔はしていません。とても優しくて素敵な方です。
 たとえそれが偽りのものだったとしても、私にはそれしか見えてなかったから・・・・」
「紫織さん・・」
「あなたにはきっともっといろんな部分を見せていたのでしょうね、真澄さまは。
 もしそんな姿を見ていたら、私はそれでもあの方を好きになれたかしら・・・・」
そう言って再び微笑む。
「人を好きになった時の自分の気持ちがとてもよくわかったから・・・
 いつか本当の魂の片割れの方に出会った時は
 きっとすぐにわかると思いますのよ。」
初恋は実らない・・・・そういうものですよね。
そう言ってにっこりとマヤに笑いかけた。
「あと一週間、素敵な舞台にして下さいね。そして・・・」
落ち着いたら是非、鷹宮の屋敷に遊びに来て下さいね、と紫織は言い残して楽屋を後にした。
桜小路、
紫織、
マヤと真澄の間で傷つけてしまった人たちがいる。
その人たちのためにも、私は紅天女をしっかりと演じる・・・・

マヤの紅天女、最後の一週間が終わったーーーー

**
「紅天女公演成功を祝して、かんぱ~~~~い!」
「かんぱ~~~~い!」
先週末、大盛況のうちに無事に復活公演千秋楽を迎えた『紅天女』
公の祝賀会は別日に開催されると、演劇協会から連絡が入っていたが、
3ヶ月間を、人によっては試演の時からずっと共に頑張ってきた気のおけない仲間たち、
そしてそれぞれを支える家族や関係者などと労をねぎらうため、
何よりこの日本中を熱狂に巻き込んだ一大プロジェクトの一翼を担ったという興奮に
今しばらく浸りたい気持ちで、簡単な打ち上げの場が設けられた。
みんな一様に満足感で表情がみなぎっている。

「毎度のことながら、マヤの豹変ぶりにはびっくりさせられるな~」
会場には、マヤの関係者として、つきかげの仲間や一角獣のメンバーも来てくれていた。
「そうそう、アルディスの時も驚いたけど、まさかの絶世の美女、
 しかもそれが全く違和感ないんだもん。」
「狼少女ぐらいか、マヤがやるってきいて最初から納得できたのは」
「んもうっ、みんな勝手な事ばっかり言って・・・・」
長年の呼吸で続く会話が心地よい。
マヤも、いつもは役が抜けきれずぼーっとすることが多いが、
今回は身も心も同化した余韻で、テンションが未だ冷めない。
「今思い返せば去年の今頃は、あきらめかけていた紅天女の切符を取り戻して、再スタートを
 切ったんだよな。ほんとよくがんばったよ、マヤ。お疲れ。」
そう言ってマヤの頭をポンポンと叩いてくれる麗の優しさに、マヤは涙がでそうになる。
“そうだ、去年の今頃は、紫のバラの人が速水さんだって気づいて・・・その頃には紫織さんと・・・”
たった1年、だがその間に起った出来事はマヤの人生にとって非常に重要な1年となった。
「いろいろあったけど、そうして今回もそのバラは届いたわけだし・・・」
マヤの胸には、先ほど届いた紫のバラの花束が揺れていた。
「ファンの人も、感無量だろうな。マヤの紅天女を見れて。」
一角獣の堀田団長はそう言って、紫のバラをしげしげと見つめた。
にやにやと口元をゆるませる麗を何故か赤い顔をしたマヤが睨んでいる。
「結局マヤは、紫のバラの人には会えたの?」
無邪気に問うさやかに思いきり振り返ったマヤの顔はさらに真っ赤に染まる。
「ええええ~~~~~~っと・・・・・いや、そのまだ・・・?」
「え、まだ正体は明かさないんだ、紫のバラの人も信念が強いのね・・・・
 私はてっきりもうマヤと挨拶ぐらいしてるのかと思ってたわ。だって・・・」
その指輪、紫のバラの人からの贈り物でしょう?と
マヤの左小指に輝くアメジストの指輪を指差した。
「あ・・・、えとこれは・・・・・違うの。」
「全く、君の居場所はいつでもどこでもすぐわかるな。」
紫のバラを抱えたマヤの頭上から、いつもの柔らかい声が響いた。

「速水社長って、あんな顔する人だったっけ?」
遠くで黒沼達と談笑する真澄とマヤの姿を見ながら、劇団のメンバーは話をしていた。
「巷では冷血鬼社長とか言われているけど、私達の舞台に出資もしてくれたし、
 何より今回、マヤの紅天女をしっかりサポートしてくれたわよね。」
「でもさ、例のあの婚約はいったいどうなったんだい?
 特に式を挙げたという話もきかないけど。」
「そうね、とりあえず左手の薬指にはなにも光ってはいなかったわ。」
目ざとい泰子がそう言った。
劇団つきかげ+一角獣のメンバーにとっては、業界人として厳しい指導はしながらも
的確かつ如才ない真澄の態度はどちらかと言えば好意的な印象だった。
「ところでさ、みんな、マヤの紫のバラの人って、どんな人だと思う?」
不意にさやかが話題を持ちかけた。
麗を除くメンバーは興味津々に、その人物を想像する。
「並大抵の財力じゃないわよね、だってマヤの学費だけじゃなく、
 劇場まで改修しちゃうんだもん。」
「月影先生の入院費用も出してくれたわ」
「マヤの演技に魅了された、にしてはやりすぎなぐらいの出資だからさ、
 実は俺ちょっと疑ってたんだ・・・・」
「疑う??」
「ああ、もしかしたらマヤに下心があって何とかしてマヤを・・・・とか。」
「きゃ~~~あ、その可能性もあるよね。あれ、麗顔が青いよ。」
「でも、こうして紅天女になってもなお、名を明かさないなんて、
 やっぱり本当に純粋にマヤの事を応援しているファンなのかな。」
「でもさ、たまに送られてくるドレスとかはなぜかマヤのサイズぴったりなのよね。」
「そうそう、何でそこまで知ってるの?みたいな気も」
「やっぱり全然遠くの人なのかしら、案外身近な人だったりして・・・」
「え~~、もし身近な人だとしたら誰だと思う? ねえ麗?」
「え?あ、ああ、そうだね・・・」(私に聞かないでくれ)
「年齢的には・・・・、やっぱりだいぶ年配よね~え、でもって
 有り余ってるくらいお金があって、演劇に詳しい人・・・・」
「そんな人、いる?」
「ま、まあどんな人でもいいんじゃないのか?マヤが心の支えにしているんだし・・・」
「そんなこと言って、麗、あ、そういえばマヤ、紫のバラの人に恋してなかったっけ?」
「ああ、そんなこと言ってた。ていうことはおじいちゃんではないのか?」
「・・・・・マヤは本当に、紫のバラの人の正体を知らないのかしら・・・」
それまで黙っていた美奈が突然口を開いた。
「え?」
「だって、紫のバラの人を愛しているからって、桜小路君を振ったんでしょ。
 普通会ったこともない人にそこまでの感情を抱ける?
 それに・・・・・、試演の時はまだ不安定だったマヤが、本公演ではやけに落ち着いていた。
 あんなに紫のバラの人に会いたがっていたのに、
 最近じゃ一言もそんなこと言わない・・・・」
これは、有り得ない。
冷静な指摘に麗はつばをのむ。
「そして、もう一つ。」
美奈は人差し指を顔の前で突き上げた。
「そんなマヤの変化に、麗が気づかないはずがない。」
全員の目が麗に集中する。
「・・・・・麗、あなた何か知っているでしょう?」
白状しなさい・・・・そう詰め寄る美奈の顔が怖い。
みんなもどんどん麗を囲んでにじり寄る。
(もう・・・無理です。。。ごめん、マヤ・・・・!)

数秒後ーーーー
「ええええええええええええええーーーーーーーーーっ!!!!!」
訓練の行きとどいた腹式呼吸で発声される声はきれいなユニゾンで会場中に響き渡った。

**
「紅天女成功おめでとう!」
もう何度目だろう、乾杯の声が響く。
黒沼、桜小路、マヤそして真澄は、それぞれにこやかな笑顔で歓談していた。
「それにしてもここ1、2年は大変なご活躍でしたね、黒沼先生」
この一年は『紅天女』、更にその前は『忘れられた荒野』と、復帰後の黒沼は
演劇界の話題の中心にいた。
「まあ、したい事をしたいようにさせてもらっただけだからな、俺としては。」
頭をぼりぼりかきながら、紙コップのビールを一気にあおる。
「速水の若旦那にはホント世話になったよ。ありがとう。」
「そんな急にかしこまらないで下さいよ、黒沼先生らしくもない。
 大都としても大変お世話になりました。ありがとうございます。」
大都といえば・・・と黒沼が切り出した。
「お前さん、大都辞めるのかい?」
黒沼の言葉に、桜小路は思わずマヤの方を見る。
マヤは一瞬体をびくっとさせたが、表情は大きく変わらない。
「おや、いったいどこからそういう話が?」
真澄もにこやかな営業スマイルを崩さない。
「今更そんな顔したって・・・・。大体がこっちはお前さんに振り回されながら
 演出をやってきたようなもんだ。」
「振り回す・・・」
「身に覚えがないとはいわせないぞ。この際だから言わせてもらうが、
 紅天女の試演の時から、北島の調子が落ち込んだかと思えば、ノリノリになって、
 そしたら反対に桜小路が崩して・・・・大体この二人のどっちかがいつも
 スランプになるんだ、こっちは苦労したぞ。あんまり私生活に口出ししたくはないが、
 かといって演技に影響する様じゃ・・・・」
マヤも桜小路も、身に覚えがありすぎて顔をあげられない。
「この二人がもめてる時は、大体お前さんが裏にいるんだ。な、そーだろ?はははははは!!」
冗談めかして快活に笑う黒沼に、真澄も苦笑するしかない。
「何をおっしゃっているかよくわかりませんが、いずれにしろ何らかの迷惑を
 お掛けしたようで・・・」
「迷惑じゃないさ、心配してたんだ。速水の若旦那、お前さんは周囲が言うほど
 悪い奴じゃない、俺はよく分かってるよ。何より演劇を見る目、役者を評価する目は確かだ。
 で、どうなんだい?さっきの話は。」
「大都の件ですか?」
「ああ・・・」
「黒沼先生はどう思われますか?紅天女、来年も大都と組んでやれそうですか?」
真澄の目がキラリと光る。
「お前さん次第かな?」
黒沼もキラリと答える。
「今回は初演とはいえ準備期間も少なく、おまけに俺もいろいろ
 無理難題を言ったと思っている。
 それに大都は、というか速水の若旦那は完璧に応えてくれた。」
 お前さんの居ない大都で、同じことが出来るのか・・・・
「ま、それ以前に・・・・お前さんの居ない大都で上演することは、
 紅天女様が許さない気がするがな・・・」
黒沼がまたもや大きな笑い声をあげようと息を吸い込んだタイミングで、
遠くから大きな叫び声が響いた。

「ええええええええええええええーーーーーーーーーっ!!!!!」

**
「まさか千草、お前がわしを訪ねてくるとは・・・」
穏やかな日差しが春を思わせる2月中旬、速水邸を月影千草が訪ねてきた。
「ええ、私もこんな日が来るとは思いませんでした」
千草の横にはいつものように源造がしっかりと荷物を抱え支えている。
「もう、東京を発つのか?」
「ええ、私のすべきことはもう全て終わりました。あとはゆっくりと・・・過ごしたいのです。」
英介を見つめる千草の表情は硬い。
「紅天女・・・北島マヤの紅天女はいかがでしたか?ごらんになったのでしょう?」
千草の問いかけに英介はしばし宙を見る。
「ああ・・・。素晴らしかったよ。普段のあの子からは想像もできないくらい
 美しい天女だった・・・。」
しかし、やはり・・・
「わしにとっての紅天女は千草、やはりお前しかいない」
そう言って熱いまなざしを送る英介は、今から何十年も前に
さかのぼったかのような表情をしていた。
「去年の春、梅の谷で見たお前の最後の舞台、今でも脳裏にはっきりと焼き付いている。」
「・・・・私は一蓮を愛していました。」
千草はゆっくりとそう語った。
「妻も子もいるあの方を堂々と愛せるのは、舞台の上だけ、紅天女を演じている時だけだった・・・・。
 それでも幸せだった。あの人が私を見る目は同じように私を恋焦がれてくれる魂の片割れそのものだったのだから・・・」
千草の目線は、目の前の英介を過ぎ、その先にいる誰かを見ているようだ。
「お前の演技にくらべれば、北島マヤはまだまだ・・・」
「これからですわ。マヤの紅天女はこれからどんどん大きくなる。」
そういうと千草は、目の前の英介をすっと見つめた。
「私達の時代は、もう過ぎたのです。」
長年にわたる確執、最愛の人一蓮を奪った宿敵、速水英介。
「私と同じ思いを、マヤにさせたくないのです。」
「それは、どういう・・・」
「私はきっとこれからもあなたを許すことはできません。
 大都とかかわりを持つなどやはり一蓮に顔向けができない・・・。
 でもあの子、マヤは違います。」
あの子は誰よりも演劇を愛し、演技に生きる、天性の女優・・・・
「あの子が私と同じ恨みを抱く必要はありません。
 あの子はあの子の道を、紅天女を作り上げるでしょう。」
英介さん・・・・千草に声掛けに、英介は頬をやや赤くした。
「あなたにとってもかけがえのない後進を、
 自分の野望のためにつぶすのはもうやめませんか。」
私もマヤに、紅天女を継ぐ者にまで、自分の背に負ったものをしょわせるつもりはない・・・・
千草の言葉が、英介の心に突き刺さった。
「それは、つまり・・・・」
「マヤには、魂の片割れと結びついてほしいのですよ。私の分まで・・・・」

「わしがお前に出す条件は、ただ一つだ。」
英介は千草との話を語り終わると、そう真澄に言った。
「紅天女、北島マヤを大切にしろ。」



3月 紅天女千秋楽後、北島マヤは大都芸能正式にマネジメント契約を締結、
上演権は引き続きマヤが個人で管理し、
管理面でのサポートとして、速水真澄個人とアドバイザー契約を行った。

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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
伊豆の招待後、3月の千秋楽を迎えました。
真澄は鷹宮との婚約破棄の後始末によっては
大都を、そして速水家を出る覚悟だったと思いますが、
英介はんの説得は、千草さんに出てきていただきました。
過去の清算は過去の人で・・・・未来は未来の人のため!!
紅天女獲得後のマヤの女優人生に関してですが、
マヤちゃんにはやっぱりいろんな舞台や映画、ドラマなんかでも
がんがん活躍してほしいから、やっぱりフリーでやるのは
いろいろと大変だと思いましたので、芸能事務所に所属して
頂く事に相成りました。
今後の虹の世界編になると、さすがにニューキャラを創造する必要も
出てくるかと思いますが、出来る限りオリジナルキャラクターのみで
構成していけたらと思っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~


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