散日拾遺

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本のツボ ~ 『人びとはなぜ満州へ渡ったのか』

2015-07-19 06:52:56 | 日記

2015年7月19日(日)

 著者に聞きたい本のツボ。

 小林信介 『人びとはなぜ満州へ渡ったのか―長野県の社会運動と移民 (金沢大学人間社会研究叢書)  』

 「なぜ」という問への半可通の答えとして、「日本国内の農村窮乏への対策」という言葉が浮かぶとするなら、「そうではなかった」というのが著者の基本的な主張であるらしい。

 昭和恐慌下に日本の農村が塗炭の苦しみを舐めたのはまぎれもない事実だが、そのピークは1934(昭和9)年であった。満蒙開拓団への勧誘と応募が盛んになるのはその数年後からで、既に国内の農村の状況は回復に向かい、むしろ人手がほしい時期に来ていた。そのことだけを考えても話が合わない。

 転換のきっかけを為したのは1936(昭和11)年の二・二六事件で、満州への移民に反対していた高橋是清蔵相が殺害されたために歯止めがかからなくなったという。二・二六の青年将校たちは、少なくとも主観的には農村の復興をひとつの念願として挙に至ったと考えられるから、その後の満蒙開拓団の悲惨な運命を考えると何ともいえない気持ちがする。まさに、地獄へ至る道は善意で敷きつめられている。

 長野県は満州移民の推進に最も熱心な県であったらしく、その事情がまた象徴的である。さらに往時のブラジル移民などと違い、移民先の文化に適応しつつこれに影響されたハイブリッドの日系人社会を作っていくというのではなくて、のっけから「分村」が指向された。満州統治と対ソの備えのため、日本(人)の村を移出してくさびのように打ち込んでいく(これは著者ではなく僕の言葉)方式である。当然、現地の人々の反発は強く、融和は進まない。そしてソ連の参戦と関東軍の「置き逃げ」・・・

 国家というものが何なのか、いかに「責任」と無縁であるか、今この時期の戒めという意味でも好著の候補と思われる。ただ、ちょっと高いんだな、4,669円。

 パラダイム・ロストはもっと高い。とほほ・・・

 


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1 コメント

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『妻と飛んだ特攻兵』ドラマ化 (勝沼)
2015-07-20 10:45:43
 昨年、石丸先生に教えていただいだ『妻と飛んだ特攻兵』が8/16にテレビドラマとして放送されます。
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