散日拾遺

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北東北をささやかに探訪 ③ ハンドスピナー/広さ比べ/東京物語と黒石のできごと

2017-09-08 10:18:55 | 日記

2017年9月6日(水)

 一昼夜過ごす間に、大勢の人からいろいろなことを教わった。

【不思議なおもちゃ】

 ハンドスピナーというものが流行っているらしい。他愛のないものだが、他愛のないものが案外な助けになるということがある。爪を噛んだり貧乏揺すったりする代わりに、あるいはペンなんぞを指の周りで器用に回す代わりに(僕にはどうしてもできない、ボールペンを壁まで飛ばして傷つけるのが関の山で・・・)、それともゲームにハマる代わりに、手許で無心にクルクルやることが、いわばより害が少なくて快適な時間つぶしへシフトする意味をもつのだろう。

 ネットを見ると、「1993年、筋力の低下を引き起こす重症筋無力症を患う娘を持つ米フロリダ州在住の母親が考案した」とあり、「自閉症の人が気もちを落ち着かせるものとしても使われている」とある。欲しい!

 通販で一つ買ってみようと思ったが、目移りして決められない。店頭での出会いを待つことにした。

    

 

【岩手と四国】

  「郷里の四国は良いところですが、陸奥(みちのく)もいいですね。とりわけ広さ・深さが格別で・・・」というような挨拶をしたら、ある人が「岩手一県で、四国全体とほぼ同じ面積です」と教えてくれた。その後の一昼夜に4~5人の人々が口々に同じことを言ったから、何か発信源があるのだろう。

 岩手県 15,280 km²

 徳島県  4,145 km²
 香川県  1,882 km²
 愛媛県  5,672 km²
 高知県  7,107 km²
  計   18,806 km²

 四国のほうが20%ほど大きいけれど、同水準なのは間違いない。人口は岩手県132万人、四国は4県あわせて382万人で、体感的な「広さ」に影響するところか。人口減少が進行中なのは共通の悩みだが、実は国土を広く使いたい時の、もうひとつの有効な手段につながっている。ひょっとして将来・・・?悔しいな、その効果を見ることは、とてもじゃないができない相談である。

 

【東京物語】

 バーンアウトについて話すときの定番として、「私って、ずるいんです」と微苦笑できるような心と生活のゆとりが、良い予防になるのではないかという小ネタがある。桜美林の院生時代に Kokomin さんが見つけたことで、そのことも忘れずにつけ加えている。今回もスライドの隅っこに記しておいたら、目ざとく見つけたある人が何やら小さく叫んだ。その後も熱っぽく回りに訴え続けて止まらない。訊いてみれば・・・

 小津安二郎監督作品で現在でも名作の誉れ高い『東京物語』、その中で原節子扮する主人公・紀子が(たぶん笠智衆演ずる舅から)「ありがとう」と言われ、「私、ずるいんです」と答える場面があるのだそうである。話はしてみるものだ。

 ちなみにこの発言者はカート・ヴォネガットが大好きとかで、「愛をちょっぴり少なめに、ありふれた親切をちょっぴり多めに」という引用句を殊の外よろこんでくれた。カート・ヴォネガットの名前もこのフレーズも、発言者の社会的立場を考えれば少々剣呑なところがあるけれど、それで譴責も受けず、しょっ引かれもしないのが今の日本のありがたいところである。

【黒石で起きたこと】

 それで思い出したが、青森県の黒石からも参加者あり、かつてホーリネス教団の牧師が殉教した故地である。天皇が神であることを否み、不敬罪に問われて連行されたT牧師は、取調べの獄中で死亡した。年端も行かない息子が父親のなきがらを大八車に乗せ、寒空の下を連れ帰ってきた。僕らの世界ではよく知られたことであるが、忘れることの得意な日本人の記憶から、宗教家や共産主義者の殉難はあらかた消え去っている。そうか小林多喜二、彼も4歳以降育った小樽の連想が強いが、そもそも秋田県・現大館市の生まれだった。

 「あんちゃん、もう一度立たねか、みんなのためにもう一度立たねか!」

 多喜二の母・セキが遺体を抱きしめてそう叫んだと伝えられる。

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