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《書評》林信吾『反戦軍事学』〔朝日新聞社・2006年〕(いけふくろう通信第386号)

2007-08-28 19:22:39 | オススメ書籍・CD・グッツ等

林信吾『反戦軍事学』(朝日新聞社・2006年12月)242頁・本体価格720円


 本書は、入門編、中級編、上級編、応用編の4部構成でなっている。


 著者の林 信 吾 氏 は、「あとがき」にもあるように、
ただの「軍事オタク」でもないし、感情的に戦争は反対であるという立場ではなく、
「軍隊」や「軍事」についての諸問題について、しっかりとした知識をもって
背景等を説明したうえで、具体的に問題点を指摘している。


 まず、『反戦軍事学』というタイトルに少々、驚きながら入門編の扉をめくると、
いきなり「鈴木二等兵、脚踏ん張れ。歯を食いしばれぇ」という物語風の書き出しで始まる。
それは、日本国憲法が改正され、「国を守る義務」が明記され、
「自衛隊」が「国防軍」と改称されたのちの「二〇××年の日本」の様子である。
そこでは、金銭面に限らず、教育面なども含めて、あらゆる意味において、
格差が拡大しており、下層の人たちが上層の人と互角に勝負しようとするならば、
「国防経験者」という肩書をもたなければ、勝負にならないのだという。
結局、徴兵制でない「国防軍」において、第一線を担うのは、
そういったさまざまな意味において、貧しい人たちなのである。
そういった物語風の話(かなり現実味があって、恐ろしい)を交えながら、
「警察予備隊」から「保安隊」を経て、現在の「自衛隊」が創設された背景や、
政治家たちが「自衛のためなら何でもあり」との考えが昔からあったことなどを
述べている。


 次に中級編では、「軍隊」の歴史的背景、そして、「軍事用語」がなぜこんなに
難しいのかといった理由が事細かに書かれている。
また、自衛隊の現状、たとえば、装備品などを国産で調達するのが公共事業であること、
イージス艦を導入した背景が対米貿易黒字の解消のためであったことなどを
とてもわかりやすくかつ具体的に説明している。


 そして、上級編では、現在の軍事に関する論議を正確かつ理論的に批判している。
ただ、本書を読むまで、軍事的知識について、全くのど素人の私にとっては、
細かな点を理解しにくく、やや難しかった。
しかし、おおむね、著者の意見は理解できたし、特に石破元防衛庁長官の著書
『国防』にある見出し「貴方も国を守ってください」は
「貴方がイラクへ行ってください」と思うのは私だけだろうか、と指摘して、
あわよくば「徴兵制」が復活すればいい、と思っている政治家たち
(つまり、上層部)ほど、自身や身内を戦場で果てるという事態を
覚悟していないという、矛盾点を指摘している。


 最後に、応用編では、現在の状況をどう打開していくかといった議論を
進めている。


 本書を読み終え、著者がたびたび「戦争は厭だと思う人ほど、
正しい軍事的知識を身につけてもらいたい」と指摘した理由がよく分かった。
戦争は厭だと思う人ほど(と書いている私も)「戦争の知識なんぞ、
知る必要もない。あんな嫌なものはないほうがいいんだ」、
ととかく感情論に走りやすいが、本書を読むことで、
軍事的知識を身につけたうえで、反対をしなければ、
社会のよからぬ流れに流されてしまうと強く感じた。

<編集後記>
書評第一号は、いかがでしょうか。皆さんのご意見も
お聞きしたいので、コメントをよろしくお願いいたします。

~ムッシュ・いけふくろう~


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