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「『大学進学に資格テスト』について」(いけふくろう通信第461号)

2007-11-19 22:00:15 | 政治・経済・法律・社会
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大学進学に資格テスト、教育再生会議が検討

 政府の教育再生会議(野依良治座長)は20日の合同分科会で、
大学進学希望者に「高卒学力テスト」(仮称)を実施し、
合格者に大学受験の資格を与える制度の検討に着手する。

 受験生の負担増につながるとして、
一部委員からは慎重意見も根強く、
年末の第3次報告に向けて大きな議論を呼びそうだ。

 「高卒学力テスト」は、高校生の学力低下の問題や
昨年に全国各地で相次いだ高校の必修科目の未履修問題などを受け、
生徒の学力水準や履修状況をチェックするのが狙いだ。

 制度設計の素案によれば
〈1〉国公私立や選抜方法を問わず、大学進学を希望する人は必ず受験
〈2〉受験科目は、必修科目から保健体育、芸術などを除いた
   国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語
〈3〉全科目の合格者に大学進学資格を付与――などが主な柱。

難易度は「高等学校卒業程度認定試験」(旧・大学入学資格検定)を想定しているという。

 だが、大学入試センター試験も引き続き実施するため、
受験生の負担増を懸念する声が根強い。
そのため、センター試験で一定の点数を取れば、その科目を免除する案も検討する。
また、「高等学校卒業程度認定試験」を廃止して、「高卒学力テスト」に合格した人に
高校卒業の資格を与える一本化についても今後、議論となりそうだ。
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(以上、2007年11月19日・読売新聞夕刊)

上記が、記事内容ですが、教育再生会議のメンバーの方は、
まずは、学生の心配をしているのでしょうが、
資格試験化することの問題に気がつかないんでしょうかね。

全く正気なんですかね。いちいち国が出しゃばってきて、
大学入試の前段階で資格を創設し、国のお墨付きを得た人じゃなきゃ、
大学受験ができないという方法にする必要がどこにあるのでしょう。

確かに、学力低下や必修科目の未履修は問題ですが、
この試験を受けなければ、推薦入試やAO入試の受験者であっても、
大学入試の資格が得られないとなると、何のための推薦入試やAO入試なんだ
ということになってしまいますよね。

まぁ、それ以前に、国の一方的な方針に、これから私立大学は怒らないのでしょうかね?

そういえば、今年の9月にも中央教育審議会の大学分科会小委員会が
大学卒業までに学生が最低限身に着けなければならない能力を
「学士力(仮称)」と定義し、国として具体的に示す素案をまとめましたよね。

その「学士力」については、中教審が今後、示していくであろう指針を
「各大学」に対し、「卒業認定試験の実施など、厳格なチェックを求める」
とのことで、そうすることで、安易な卒業を認めない方向性らしい。
ということが、審議されていました。
(詳しくは、「『学士力 大学卒業に厳格な認定試験も』について」を参照)

つまり、もし両方の方針が実現すれば、
たとえ私立大学であっても、大学の入試前と卒業前に、国が介入し、
学力チェックを試みるということになるわけですよね。

これって、あきらかに大学の自治とまではいかなくても、
私立大学の校風や教育などの自由さを奪ってしまいませんか。

国としては、あくまでも、入学前の「高卒学力テスト」の実施で
大学受験のレベルを維持し、学生の基礎学力の向上も図れ、
卒業時の「学士力」の認定試験を各大学で実施することで、
大学の「学士」学位の低下も防ぐことができ、
大学の質の低下も防ぐことができ、大学の倒産が防げる
たいへん良い方針だと思っているのでしょう。

しかし、これを実現することで、大学全入時代を終わらせ、
「できる」学生は「大学へ」、「できない」学生は「就職などへ」という
二極分化を進めることになるのではないでしょうか。

そして、極端に言ってしまえば、大学入学者については、専門的な学力を
身につけてもらい、各方面のエリート層を目指してもらい、
かたや入学できなかったものについては、現場で実力主義のもと、頑張ってもらう
ということになってしまうんではないかと危惧しています。

一高校生の人生を大きく左右するであろうこの方針、
今後もしっかりと見つめていかなければなりません。

それにしても、最近はいろいろと余計なところに、国が押し出してきていますよね。

憲法学者の樋口陽一氏によれば、経済の「市場」化が叫ばれて、
同分野では、国家が後へ退がるのとはうらはらに、
教育現場へは国家が積極的に介入してきている現状をとりあげて、
問題を指摘していましたが、本当に教育現場への介入は問題ですね。
(「撤退してゆく国家と押し出してくる国家」〔2002年・全国憲 憲法記念講演会〕)

ちなみに、フリージャーナリストの斎藤貴男氏の著書『報道されない重大事』にも、
教育分野への国家の介入について、問題点が数多く指摘されていました。

まったく、嫌な、いや心落ち着かない世の中です……。

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