ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

フォーラム①

2006年10月30日 | ケネディスクールのイベント

 

 ケネディ・スクールの貴重な「無形資産」の一としてケネディ・スクールの政治研究所(http://www.iop.harvard.edu/)主催の「フォーラム」を挙げることが出来ます。今日・明日と2回に分けて、「フォーラム」の概要及び、本日参加した「Can North Korea’s Nuclear Breakout Be Stopped?(北朝鮮の核をとめることは出来るのか?) 」というテーマで行われたパネルディスカッションの内容をご紹介していきたいと思います。

 ケネディ・スクールの「名物」とは何か、と問われて「フォーラム」と答える学生は多いのではないかと思います。「フォーラム」とはケネディ・スクールで開催される世界の著名人による講演会やパネルディスカッションであり、その意味ではいわゆる有名大学にとって、それが米国であれ日本であれ、それ程珍しいものではないかもしれません。しかし、ケネディー・スクールの「フォーラム」は以下の点で「尋常」ではありません。

① 尋常でない磁力 

 僕がケネディ・スクールの学生となってからこの二ヶ月間に感じた最大の驚きの一つですが、フォーラムはほぼ毎週開催されるのです。しかも、スピーカーの顔ぶれは、ハタミイラン前大統領、ジョンソン・サーリーフ リベリア大統領、タディッチセルビア大統領、メシッチクロアチア大統領、カーリー・フィオリーナ前ヒューレッドパッカードCEO、“経済学の巨人”と称されるジョン・ケネス・ガルブレイス氏などなど、政治・学問・ビジネスのトップリーダー達が世界中からケネディスクールにやってきます。また、パネルディスカッションについても、近々行われる予定のマサチューセッツ州知事選に向けた民主党予備選挙の3名の候補者による討論会や、民主・共和両党議員による討論会などが行われました。これだけ幅広い分野のトップリーダー達を毎週1回のペースで招くことの出来る「尋常でない磁力」を持っているのは、ケネディスクールくらいではないでしょうか。

② 尋常でない開放度 

 基本的にあらゆるフォーラムはケネディ・スクールの学生だけでなく、全ての人に開放されています。もちろん人数に制限がある場合もありますが、その際には公正な抽選(Lottery)により参加者は選ばれることになります。そのため、ハーバードビジネススクール、ロースクール等、他のプロフェッショナルスクールの学生や教授陣、学部生、草の根活動をしているNPO・NGOのメンバーや、赤ちゃんを連れたお母さんや近所のおじいちゃん、おばあちゃんまで、世の中の問題に関心のあるあらゆる人々が、世界のトップリーダーと間近に対峙することになります。 さらに特筆すべきは、質問時間が豊富に確保されていることです。パネルディスカッションや講演の後には必ず30分近く質問時間が用意されており、如何に多くの参加者に質問の機会を確保するかが、司会者(Moderator)の力量が発揮されるところでもあります。おまけに、イベント終了後には、スピーカーやパネラーと名刺交換をしたり雑談をする機会まであり、とにかく聴衆とスピーカーの距離が近いこと!(写真を見てください。)

③ 尋常でない“安っぽさ”  

   

 すぐ上の写真を見てください。学生が昼食を取ったり雑談をしたりするために使っている単なるラウンジですよね。実はこれ、冒頭の写真とまったく同じ場所で、フォーラム当日の昼間に撮ったものなのです。フォーラムが開催される2時間くらい前になると、机が撤去され、いすと演壇が並べられた後、照明器具とビデオカメラがセットされ準備完了。高校生の弁論大会の会場でももう少しましなのでは?と思うほど即席の会場が、「John.F.Kennedy Forum」という名のついた世界のトップリーダーや専門家と市民・学生との対話の場なのです。もちろん、入場料なんて一銭も取られないし、聞くところでは、スピーカーへの謝金も殆ど支払っていないとのことです。  

 以上、ケネディ・スクールのフォーラムの「尋常のなさ」について紹介しましたが、そもそも「フォーラム」って、古代ローマ都市で政治・司法の集会、宗教儀式など市民による社会活動が行われた公共広場「フォルム」が起源のようですね。 

 また、現在のアメリカ政治においては、フォーマルな意思決定プロセス(議会での議論や行政手続法に則した意見陳述)と、インフォーマルな意思決定プロセス(ロビーング)の中間に位置する、政府関係者と企業・市民・NGO代表によるセミフォーマルなディスカッションの場を指し、ワシントンDCで行われる多くの政治決定が、特に利害調整が難しいものであるほど、「フォーラム」を通じて行われているようです。  

 こうして見ると、様々な市民・学生と政治・経済・学問のリーダーを呼び寄せる尋常でない「磁力」「開放度」「安っぽさ」の三拍子を備えたケネディ・スクールの「フォーラム」は、正にその名にふさわしいものと言えるのではないでしょうか。


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