夏バテと熱中症を防ぐ!「気」を補い、潤す漢方養生
〜生脈散と補中益気湯で整える、夏のからだ〜
梅雨が明け、いよいよ夏本番。日差しは強く、湿度も高く、心身にかかる負担は一気に増していきます。例年に比べても暑さが厳しくなる傾向が強まる昨今、7月は「夏バテ」や「熱中症」など、体調を大きく崩しやすい季節です。
このような時期こそ、「なんとなくの不調」を放置せず、未病(みびょう)のうちに手を打つことが肝心です。「疲れやすい」「汗をかきすぎてだるい」「食欲がない」「動悸や息切れがする」といった症状は、夏の「気」や「水」の乱れが原因かもしれません。そんなときに頼りになるのが、東洋医学の智慧を活かした漢方処方や薬膳の考え方です。
特にこの季節に重宝されるのが、「生脈散(しょうみゃくさん)」と「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」というふたつの処方です。どちらも「気虚(ききょ)」や「陰虚(いんきょ)」といった夏に起こりやすい体内バランスの乱れを整えてくれるもので、多くの方の体調管理に役立っています。
今回はこのふたつの処方を軸に、夏の漢方的な体調管理法、熱中症や夏バテの防ぎ方、そして日々の薬膳の工夫についてじっくりとご紹介してまいります。
夏の暑さがもたらす「暑邪(しょじゃ)」と「気」の消耗
東洋医学では、夏の邪気を「暑邪(しょじゃ)」と呼びます。暑邪は非常に陽性が強く、体に熱をこもらせ、気や津液(しんえき:体内の水分)を激しく消耗させる性質があります。大量の汗とともに、体内の大切なエネルギーである「気」が失われ、だるさ、めまい、息切れ、動悸、疲労感といった症状が出やすくなります。
特に日本の夏は、高温多湿という特徴があり、単なる熱中症リスクだけでなく、「湿邪(しつじゃ)」によって消化器官が弱りやすいのも特徴です。湿度が高くなると、脾(ひ)=胃腸のはたらきが鈍くなり、食欲不振、下痢、胃もたれなどの症状が増えてきます。さらに、冷房による寒暖差、冷たい飲食の摂りすぎなども胃腸を冷やしてしまい、元気を支える「気」がさらに消耗してしまうという悪循環に陥りがちです。
これがいわゆる「夏バテ」の正体です。「夏バテ」は単なる疲れではなく、体の内側のエネルギーである「気」が不足し、水分バランスも崩れ、胃腸が弱った結果として起こっているのです。
生脈散:失った“気”と“潤い”を同時に補う、夏の三方補剤
「生脈散」は、古代中国の医師・李東垣によって創出されたとされる、夏の暑気対策の代表処方です。「麦門冬(ばくもんどう)」「人参(にんじん)」「五味子(ごみし)」の3つの生薬で構成されており、それぞれの生薬が「気を補う」「津液を養う」「汗を引き締める」役割を担っています。
麦門冬は、潤いをもたらしつつ、熱を冷ます効果があります。特に口の渇き、喉のイガイガ、乾いた咳があるようなときに体内の陰を補ってくれます。五味子は、汗のかきすぎによる体液の漏れを防ぎ、心肺を安定させてくれます。そして人参は、全身の「気」の回復を助け、疲労回復に大きく貢献します。
この三つの薬が協力し合うことで、夏に失われがちな「気」「陰(潤い)」「津液(体液)」を同時に補えるのが、生脈散の強みです。
たとえば、強い日差しのもとで外回りの仕事をしている方、暑い中で運動や作業をする方、エアコンと外気の温度差で体力を消耗している方などにぴったりです。また、高齢者で日中ぐったりしやすい方、汗をかいたあとに立ちくらみがする方など、夏に起こる“エネルギー切れ”の補給薬としても活躍します。
補中益気湯:胃腸を立て直し、気力と体力を取り戻す
夏バテの大きな要因のひとつは、「胃腸虚弱」です。暑さで食欲が落ち、冷たい飲み物やアイスなどを摂ることでさらに胃腸の機能が低下し、栄養を吸収する力が弱まってしまいます。その結果、体に必要な気や血が作られず、ますます疲れやすくなる……このような「悪循環」を断ち切ってくれるのが、「補中益気湯」です。
補中益気湯は、「中(=脾胃)」を補って「気」を益す処方。黄耆(おうぎ)、人参、白朮(びゃくじゅつ)、当帰(とうき)、陳皮(ちんぴ)、升麻(しょうま)、柴胡(さいこ)、甘草(かんぞう)などが配合されています。胃腸のはたらきを高めることで、自然と体力も気力も回復し、暑さに負けない体を作る手助けとなります。
特に、暑さにあてられて「朝から疲れている」「食べても力が入らない」「日中眠くて頭が回らない」という方には、この処方が非常に有効です。また、補中益気湯には気のめぐりを上向かせる作用もあるため、内臓下垂による胃もたれ、倦怠感、起立性低血圧といった症状にも効果を発揮します。
「暑さでやる気が出ない」「寝ても疲れが取れない」「集中力が続かない」という方は、一度補中益気湯を取り入れてみるのも良いでしょう。
夏に取り入れたい薬膳と生活の工夫
漢方薬と並んで重要なのが、日々の食生活です。夏は体の水分とエネルギーが失われやすい季節。口当たりのよい冷たいものに偏りがちですが、体を冷やしすぎないようにしながら、潤しつつも消化に優しい食事を意識することが大切です。
例えば、はと麦は利水効果がありながら胃腸の働きを整えてくれる夏の定番食材。とうもろこしのひげ茶は利尿作用があり、体の中にこもった熱や余分な水分を排出してくれます。山芋や長芋は気を補いながら消化吸収を助けてくれます。夏野菜では、ゴーヤやトマト、きゅうりなども体の熱を取ってくれますが、冷えがちな方はスープや炒め物で調理するとよいでしょう。
また、夏場でもシャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで汗腺の働きを整え、睡眠の質を高めることができます。冷房は体の芯を冷やしすぎないよう28度前後に設定し、足元が冷えないようにレッグウォーマーや腹巻きを活用するのもおすすめです。
「養生」とは、特別なことをするのではなく、日々の暮らしの中でちょっとした“バランスを意識する”こと。夏は「陽」が盛んな分、どうしても体が頑張りすぎてしまうので、「ほどほどに休む」ことも大切なセルフケアです。
体調の変化を見逃さず、早めのケアを
気候が厳しくなると、どうしても不調を我慢してしまいがちですが、漢方の視点では「ちょっとおかしい」と感じたその時点こそ、対応のチャンスです。疲れやすい、眠りが浅い、胃腸がすっきりしない…そんな未病の段階で漢方を取り入れることで、大きな不調を防ぐことができます。
生脈散と補中益気湯は、どちらも「気」を補う処方ではありますが、症状や体質によって使い分けることが大切です。汗が多く、喉が渇くようなタイプには生脈散を。胃腸が弱り、だるくて元気が出ないような方には補中益気湯を。それぞれの体質や状況に合わせて使い分けることで、より効果的に夏を乗り切ることができるでしょう。
夏は、自然の陽気に満ちあふれ、活動的になれる反面、体にとっては非常に負担の大きい季節でもあります。知らず知らずのうちに気を消耗し、水分バランスを崩し、胃腸を弱らせていることが多いのです。
そんな夏にこそ、漢方の力を活用してみませんか。生脈散と補中益気湯というふたつの処方は、まさに“夏の漢方の王道”。必要なタイミングでしっかりと補えば、夏バテや熱中症を未然に防ぎ、元気に毎日を過ごすことができるはずです。
暑さに負けない体づくり、そして、心も体も軽やかな夏をお過ごしください。フォームの終わり
夏バテ予防におすすめの薬膳食材とレシピ
- はと麦ととうもろこしの薬膳スープ
効能:利水・健脾・疲労回復
- 材料:はと麦(大さじ2)、とうもろこし(1本分)、鶏ささみ、しょうが、塩
- 作り方:はと麦は一晩水に浸けておき、鶏ささみとともに煮る。仕上げに塩で味付け。
🔸 はと麦は体の余分な湿気を取り除き、胃腸を整える作用があります。
🍚2. 枝豆とクコの実の薬膳ごはん
効能:気血を補い、夏のだるさを回復
- 材料:白米1合、枝豆(むき身)、クコの実(大さじ1)
- 作り方:炊飯時に枝豆とクコの実を入れて炊くだけ。
🔸 クコの実は目や肌にもよく、夏の疲れにぴったり。
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