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“21世紀枠出場”利府高野球部を高野連はセンバツから追放すべきだ!

2009年03月30日 | Baseball/MLB

 

 

 

 2001年の第73回大会から、選抜高校野球にはあらたな出場枠として「21世紀枠」が以下の趣旨で設けられている。

 

 部員不足などの困難を克服したチームや、他校の模範となるチームを、基本的に各都道府県の秋季新人大会で、参加校数が128校を上回る都道府県ではベスト16、それ以外の県ではベスト8以上のチーム。各ブロックから1校ずつ出してもらい、その中で2校(東日本~東海以東・西日本~近畿以西各1校。2008、08年は3校)を「21世紀枠」として選出し、出場させる。

 

 現在、甲子園球場で開催されている第81回大会にも、彦根東(滋賀)、大分上野丘(大分)、利府(宮城)の3校が21世紀枠で選出・出場を果たし、利府はベスト8に進出して、早稲田実業と対戦する。

 

 その利府高野球部でベンチ入りしている部員のひとりが、自身のブログに、1回戦で対戦した掛川西について、「変な顔のやつばっか、笑 昭和くさい」などと、およそ“模範的”とはいえない書き込みを行なったことが発覚し、主催者の日本高野連は利府高を口頭で厳重注意。学校側も高野連に高野連に事情を説明し、校長が掛川西に電話で、さらに教頭が掛川西を直接訪問し、謝罪したという。

 

 過日、WBCの日韓戦についてのエントリーで、私は第2ラウンド初戦の日本戦に勝利した韓国代表チームが、試合後マウンドに韓国国旗を立てた行為を、「ノーサイド」の精神が尊重されるべきスポーツマンシップに反するもの」と批判し、また決勝戦のあと両チームがフィールドでお互いの健闘をたたえ合うシーンが見られなかったことにも苦言を呈した。それでも、韓国チームが国旗を立てたことは、彼らの韓日戦にかける気持ちがオーバーヒートしたためと理解できないこともないし、決勝戦終了後の両チームも、全身全霊をかけて戦った直後で、心の余裕がなかったり、セレモニーの進行を急かされていたりなどの事情があったのだろう。

 

 だが、この利府高野球部員の行為はまったく同情に値しない。スポーツマンシップのカケラもなく、人間としても品性下劣、人格劣等としか言いようがない。

 

 いま社会では、お笑い芸人のブログに悪意や虚偽に満ちた書き込みをして「炎上」させ、挙句の果てには脅迫行為を行なった連中が書類送検されたり、ネット上の「いじめ」によって自殺者が出るなど、深刻な問題が起こっている。当Blogにおいても、ごくごく一部の人間から悪意に満ちたコメントを寄せられたり、一時は真剣に法的手段に訴えようかと思ったほどの脅迫に等しい書き込みを行なわれたことがあった。

 

 そうした社会状況を鑑みると、今回の利府高野球部員による対戦相手への中傷は、主催者による「厳重注意」で済ますべき問題ではないと思う。まして彼らは、「地域の清掃活動に積極的に参加し、運動部員が小学校へ出前授業を行ない、生徒が梨農家の手伝いをしている」などの“模範的行為”が評価されて出場しているのだ。今回のネットでの相手高中傷は、その選考理由を台無しにする“反社会的行為”そのものだし、21世紀枠、いやセンバツ大会そのものの趣旨(なぜ夏の大会と違って、選抜大会出場校が「選考」によって選ばれるかを高野連首脳はもう一度確かめるべきだろう)にも反する。

 

 この部員は“言葉の暴力”を、しかも負かした相手に対して振るったのだ。もし大会中に相手チームに(球場の内外を問わず)暴力行為を行なえば、その学校は当然出場辞退に追い込まれるだろう。本来、「連帯責任」的な考え方は好まないが、高野連は「高校野球は教育の場」をモットーとしている以上、21世紀枠の設立趣旨に反し、反社会的な行為を行なった野球部に対して、少なくとも準々決勝出場を自主的に辞退するよう促し、それに応じなければ大会から「追放」するくらいの毅然とした姿勢を見せるべきではないのか。

 

 利府高野球部全体のことを考えても、全国的な知名度を持つ早実との試合に集まるであろう5万人近い観客、テレビ観戦する数千万人単位のファンから、相当厳しい視線が彼らに対して浴びせられることが予想され、ひとりの不心得者のために、不要なプレッシャーが部員全員にかかることになる。セキュリティー面を考慮しても、彼らをこれ以上試合に出すべきではない。

 

 日体大陸上部など有名大学運動部で続発した大麻事件など、学生アスリートの反社会的行為も社会的問題になっているご時世である。今回のネット中傷という愚かな行為を含めて、なぜ学生アスリートがそうした非常識・反社会的、ときとして犯罪行為にまで走るのか、その原因を学校、競技組織関係者やメディアだけでなく、スポーツを愛好する一般市民全体が追究し、分析し、改善・解決策を考えていかなければ、こうした問題が根絶されることは決してないだろう。高野連はこの問題で自ら襟を正し、組織としての社会的役割を全うすべきではないだろうか。

 

 

 

 

 

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今回だけは賛成しません (YYT)
2009-03-31 12:36:36
“21世紀枠出場”利府高野球部を高野連はセンバツから追放すべきだ!、には賛成しません。

これが監督や部長など利府高野球部の指導層がやったことであれば大いに賛成ですが、ベンチ入りしている部員のひとりでしょう。(選手でも主将のやったことなら追放を検討すべきだとおもいますが)

この部員を出場停止(そしてベンチ入りの人員の補充は認めない)または退部(かつ復帰は認めない)させれば済むことだとおもいます。
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「選抜」大会の意味 (Ryo Ueda)
2009-03-31 15:57:59
今回、かなり過激な主張をしたのは、「選抜」大会が、夏の「全国」大会とは違った趣旨で開催されているからです。夏の大会が各都道府県予選を勝ち抜けてきたチームが代表の座を得るのに対し、(もちろん最近は形骸化していますが)選抜はそもそも“21世紀枠”などというものを設ける以前に、野球の強弱、巧拙以外の、チームの「品位」が求められると思うのです(もちろん理想どおりになっていないのは確かですが)。今回の利府高野球部の中傷ブログ問題は、選抜に、しかも通常の代表チーム以上に「模範的行為」を評価されて選出されたチームとして、「社会的責任」を果たす必要があると私は思うのです。今日の試合も早実を破って準決勝に進出しましたが、正直なところゲームやプレーにおける「強弱」「優劣」「巧拙」以外の感情がどうしても入ってしまい、愉快ではありません。このまま彼らが最後まで勝ち進むことで、今回の行為に対する自己反省がなおざりにされて、祝賀ムードのなかで「勝てば官軍」になってしまうのを私は憂慮するのです。

別に高野連のように「高校野球は教育の一環」などと主張するつもりはありませんが、対戦相手のチームを侮辱(しかも負かした相手に!)し、せっかくのゲームを汚したのは確かなのですから、「ベースボールの名誉」を守るためにも、野球部全体に心からの猛省を促す措置があっても良かったと思います。

まあ、実際に利府高野球部が大会から追放される可能性は皆無だったでしょうが、それでも「これだけ怒り心頭に達している大人がいるんだ。子供のイタズラじゃすまないんだぞ」というメッセージを発信するために、私はあえて「追放」を主張したわけです。ネット社会がもたらす社会的悪影響や犯罪行為に警告を発する意味も含めてです。

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了解です (YYT)
2009-03-31 17:48:22
> 子供のイタズラじゃすまないんだぞ」というメッセージを発信するために、私はあえて「追放」を主張したわけです。ネット社会がもたらす社会的悪影響や犯罪行為に警告を発する意味も含めてです。

了解です。

ネットは公共の場である。ネットでの発言には子どもでも責任を持てということですね。
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