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「キューバ抜きの国際大会」の無意味さ

2006年01月22日 | Baseball/MLB

(小泉総理にもカストロの「気骨」ぐらいは見習って欲しい。根性あるよな)

ワールドベースボールクラシック(WBC)への参加が危ぶまれていたキューバの米国入国が、一転認められ、当初の予定通り16カ国代表による本大会が開催されることになった。国際アマチュア野球連盟(IBAF)がキューバ不参加の場合は大会取り消しを示唆したほか、プエルトリコ、ベネズエラほか中南米の各国がこぞってキューバの入国許可を求めたのに米政府も折れた形だ。

キューバは単なるアマチュア最強チームではない。革命前はミニー・ミノーソ(ホワイトソックス)など数多くの一流選手をメジャーに輩出し、現在もオルランド(ホワイトソックス)とリバン(ナショナルズ)のエルナンデス兄弟などの亡命選手が、第一線で活躍していることからも、プロのレベルでも国際舞台で十分に好成績を残せることが期待できる。もちろん、WBCの楽しみの一つとして、キューバ代表がアメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、日本といった優勝・上位進出を期待されるチームとどのような好試合を見せるかもあるはずだ。

1980年、東京でアマチュアの世界選手権が開催されたことがある。このときの日本代表は、石毛宏典(プリンスホテル/のち西武)、中尾孝義(同/のち中日)といったのちにプロ野球でも大活躍する社会人野球界の精鋭で占められ、大学生から唯一選ばれたのも原辰徳(東海大/巨人)といった、おそらく日本のアマチュア野球史上最強のメンバーだった。しかし、それをもってしても当時すでに「世界最強」の名をほしいままにしていたキューバには歯が立たず、自国開催にもかかわらず2位に甘んじている。このとき、キューバ代表のエースだったロドリゲスという投手の速かったこと! 速球が常時150kmを超えることなど、当時日本プロ野球最速といわれた小松辰雄(中日)でもなかったことで、おそらくノーラン・ライアンと互角、あるいはそれ以上に速かったのではないだろうか。
日本では故障などで実力を発揮できなかったが、「キューバの至宝」と呼ばれ、国会議員でもあったオマール・リナレスの全盛期も、まさにメジャーのトップクラスに比肩する完璧なプレーヤーだった。若いうちにメジャーでプレーする機会があれば、三冠王も狙えたのではないだろうか。三塁の守備も一流だった。

今回の不参加問題でハッキリしたのは、アメリカが自分の庭先と考えていた中南米の諸国からどう思われているかである。南米ではチリ、ボリビアなど、かつて親米の軍事独裁政権に支配されていた国で左翼政権が誕生し、深刻な経済危機に陥ったアルゼンチンはアメリカ主導のグローバリゼーションによる経済の建て直しを拒絶し、自力更生の道を歩んでいる。カナダやブラジルは近い将来、数百年分の埋蔵量を持つ油田の開発が見込まれており、そうなればアメリカと中東諸国の綱引きに左右されていた国際石油市場も様相が一変するだろう。

そもそも、傀儡独裁政権を使って握っていたキューバでの権益が、カストロやゲバラによってキューバ国民の手に取り戻されたことを逆恨みして、国際社会でも非難の的になっている過酷な経済制裁を続けたり、20世紀はじめに一方的に押し付けた不平等条約をタテに、キューバ本土にあるグアンタナモ基地を革命後も占領し続け(より不利な条件で権益を独占していたパナマ運河でさえ返還されているのに)、テロリスト容疑者への拷問まで行なわれているらしい。対米従属政権が半世紀以上続いている日本ではあるが、日本人はそろそろ「アメリカ」というフィルターを通じて、特に中南米問題を見るのは考え直したほうがいいのではないだろうか。カン違いしている人も多いのだが、確かにアメリカとキューバは国交を断絶しているが、日本とキューバは革命後も外交関係を維持し続け、政権や国民は日本や日本人に悪感情を抱いていないのである。だからこそ、リナレスをタブーとされていた日本のプロ野球に派遣したのだ。

さまざまな問題を抱えてはいるが、とりあえずWBCが「国別世界一決定戦」を名乗る形は出来た。あとは、フェアですばらしい試合とプレーを見せてくれれば、どの国が初代王者になろうと、私は満足だろう。



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