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血迷うたか「老将」ノムラ

2006年01月22日 | Baseball/MLB
(「情けは人のためならず」を実証した大投手ハンター。ノムさんにも見習って欲しいものだ)

過日、このBlog(1/12付)で、著書「野村ノート」を絶賛しつつ、その「暴言癖」をたしなめたばかりだと言うのに(まあご本人は読んでいるわけないでしょうけど=笑)、野村克也監督がまたやってしまった。
東京ヤクルト・スワローズ復帰を決めた石井一久に対し、「年俸を吊り上げるためにウチ(楽天イーグルス)を利用しやがった」と言ってしまったのである。しかも、わざわざ断りの電話をかけてきた石井本人に言ったらしい。

まず、フリーエージェントの選手は、複数の契約打診を検討して、もっともよい条件を選ぶのはプロとして至極当然のことである。「年俸吊り上げ」にイーグルスが利用されたとしても、別に石井はアンフェアなことをしたわけではない。私に言わせれば、石井がイーグルスを選ばなかったのは至極当然で、まずチーム全体がまだプロと言えるレベルに達していないこと、平均水準以上の守備力を持つ正捕手が不在であること、そして打線の援護が依然として期待できず、そのために勝ち星が伸びなかった場合、選手に「インセンティブを払わずにすんだので黒字になった」とオーナーやフロントが喜んでいるチームでは、とうぜんシブチン更改が目に見えているからである。むしろ、吊り上げに利用したというより、「最初から眼中になかった」というのが正解だろう。

おまけにノムさんはこれだけでは言い足りなかったのか、自身の監督就任と出版記念パーティーの席で、「(交流試合で)石井にぶつけてやる」「石井と古田はホモみたいな関係」と公言したそうだ。もし同様の発言をメジャーリーグの監督がすれば、コミッショナーから出場停止や罰金などの重い処分が下される。選手としても監督としても偉大な業績を残した野球人としては、あまりに品位を欠いた発言といわざるを得ないだろう。

オークランド・アスレチックスとニューヨーク・ヤンキースで活躍した殿堂入り投手の故キャットフィッシュ・ハンターにはこんな逸話がある。
1974年のオフ、彼は所属していたアスレチックスのオーナー、チャーリー・O・フィンリーが契約事項を守らなかったために、契約不履行でフリーエージェントの権利を勝ち取った。その時点で4年連続の20勝や完全試合をマークして、アスレチックスの3年連続世界一に貢献していた大エースだけに、さっそく各球団による大争奪戦が始まり、その騒ぎを逃れるため、彼は代理人とともに一時雲隠れしてしまった。
しかしその際、彼が唯一連絡を取った球団関係者がいた。無名だった彼をアスレチックスに入団させ、当時はヤンキースのスカウトを務めていた、いわば恩人である。ハンターと秘密裏に会ったスカウトは、テーブルにあった紙ナプキンにヤンキースの提示条件を書いて彼に見せると、ハンターは黙って握手の手を差し出した。代理人は「その条件の倍の金額を提示してきているチームもあるのに」と言ったが、ハンターは恩人であるスカウトへの恩義を選んだのである。

野村氏は自分の著書で「人間教育」を盛んに説いていたが、そもそも彼が自分の教え子である古田や石井にあまり慕われていないのは、彼自身の人間性にやはり欠陥があるからだろう。上記のハンターのエピソードなどは、野村監督にこそ、真っ先に読んで欲しいのだ。南海ホークス監督解任に際して、どのような因縁があったにせよ、やはり野村氏をテスト生から引き上げてくれた恩人である鶴岡一人氏や、かつてのパートナーだった杉浦忠氏の葬儀に顔も出さなかったのは、それこそ「人間教育」の完成度を疑われる。70歳にもなる偉大な野球人に私のような若造が説教じみたことを言うのもおこがましいが、上記のハンターのエピソードに見られるように、「情けは人のためならず」なのである。

まあ、老将の品位をこれ以上落とさないためにも、パ・リーグの柄本明、じゃなかった小池会長(何度か実際にお見かけしたが本当に似てた!)は、連盟事務所に召喚して説諭ぐらいしてもいいのではないだろうか。少なくともイーグルスとスワローズの交流試合が、野球の本質とは何の関係もない「因縁試合」として騒がれるのは御免蒙りたい。


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4 コメント

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それは必要ですね (節丸裕一)
2006-01-22 15:38:36
日本では暴言やルール違反な発言についての対応が甘すぎます。

プロ野球全体の品位を保つ(というか上げる必要があるでしょうけど)ためにも、コミッショナーやリーグの事務局はもっと権限をもっていいと思います。

コミッショナーは球団合併・球界再編問題のときに、「権限がない」と言っていましたが、権限は自分で作っていくことも必要でしょう。

野村監督の発言ももちろんですが、それ以上にそちらが気になりますね。
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思わず「日米野球比べ」を (ブラウニー)
2007-12-05 01:13:28
読み返しました。そう、ハンターの記事です。
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いえいえ (ブラウニー)
2007-12-06 01:19:12
叱っても怒ってもおりません。「人格」と「能力」は別だと言い切れれば立派な勝負師なのでしょうが、そこまでたどりつくのは大変なことでしょう。あ、自分で書いていてなんですが、最近「勝負師」って言葉、メディアで見かけませんね。あと「人気商売」って言葉も。
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スミマセンでした (Ryo[Middle Unit]Ueda)
2007-12-06 10:43:58
昨日のコメントは、私の勇み足、早とちりでありましたので、撤回いたしました。大変申し訳ありません。
まあ、最近の野村監督は、マー君が高卒1年目から「孝行息子」だったこともあって、だいぶ(あれでも=笑)丸くなりましたけどね。
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