白井さんはよく、
『色で好きなのは緑。』
と仰る。今日は真新しい“フォレストグリーン”のジャケットだ。
唐突だが、ここで私の“白井さん考”を。
『クラシックなものを愛される白井さんは“古い物”がお好きなのでは?』
と思われる方がいるかもしれないが、“クラシック=古い”という解釈は間違っているし、白井さんは“古い=良い”とはお考えではないだろう、と私は感じている。白井さんはまず、直感的感覚的にご自分が“良い”と思われたものを選び、それらを長く使ってみて、その上で尚“良い”と思ったものを“良いもの”と評されているのであって、決して“クラシックなら何でも良い”とは思われていないし、ましてやマスコミが“クラシック”と謳っているものを盲目的に“良いもの”などとは決して思わない方だ。白井さんが長年使われているものは、白井さんが“良いもの”と感じられたからこそ長く愛着を持って使われ、その結果として“古く”なったに過ぎず、それらの中に“クラシック=正統”なものが多かった、というだけなような気がするのだ。そして、それより何より白井さんにとっての“良いもの”とは、御自分がまずそれを“好き”かどうかということが最初の関門として最も重要視されているのではなかろうか。
私は、白井さんは寧ろ、
“新”
がお好きだと思っている。誤解されては困るのだが、決して“新し物好き”という意味ではない。何故そう思うのかと問われてもこれだ!といえるような明確な理由がある訳ではない。日頃から接していて“なんとなく”そう思うのである。
“新”という漢字は、立ち木を斧で断った時のその切り口の瑞々しさを表現しているそうだ。
白井さんは、まず自身の“感性”“感覚”が第一、そして日頃からそれらを磨くことが大切、と仰っている。それは“お洒落”や“着こなし”についてはもちろん、ご自身の“哲学”“精神の在り様”も同時に語られているのかもしれない。その日の着こなしはその日の朝に決める処、こだわりは在ってもつまらないルールでご自分を雁字搦めにしない処、いい加減な情報や態度を嫌う処、好奇心旺盛な処、更により良い着こなしを求め日々実践されている処・・・私が存じ上げている白井さんは“古”よりは“新”という文字が良くお似合いになる方なのだ。
そんな白井さんが一番お好きな色が“緑”というのは何となく頷けるような気がするのだが如何であろうか。
今期から白井さんのワードローブに加わった真新しいジャケットは、信濃屋オリジナルのパターン・オーダーで製作されたもの。私も白井さんがバンチサンプルをご覧になっている時に同席させていただいた。確か生地は英国製のものだったと記憶している。
『夏は着るものが全然無くて。』
と仰って瞳を輝かせておられた(笑)。
『ブルーかグリーンどちらにしようか・・・。』
ああ、白井さんでも悩むのか、新しい品を決めるときのワクワク感は、白井さんも私のような初心者も等しく同じなのだと感じた貴重な体験だった。まったく関係ないことを思い出したが、昔読んだ塩野七生さんのエッセーに、確かネクタイか何かについての項で“日本人の男性に一番似合うのは緑だと思う”みたいなことが書かれていた記憶がある。因みに塩野七生さんは白井さんと同年だ。以上余談までに。
超細番手の白いポプリンのシャツ。
『最近は白が多くなったね。もちろん縞のシャツを好んで着ていた時もあったけど、歳を取ると白いシャツのほうが顔や肌の色が映えるよね。』
ネクタイはフランコ・バッシ(伊)。イタリア・コモに在るバッシの工場に赴かれた際に購入されたものだそうだ。これは私見だが、バッシのネクタイは発色や配色のセンスの良さが頭一つ分抜け出ている気がする。もちろん、これまで白井さんのネクタイを多く見てきているからそう思えるのだが。
『なかなかないよね、こういうの。バッシは好きだよ。』
と白井さんも仰っていた。
細かい点だが、貝ボタンにもご注目。
黒のタッスル・スリップオン。ジョンストン&マーフィー(米)の最上位モデル・アリストクラフトシリーズで、つい最近白井さんがご購入された“おニューの靴”だ。
こちらの靴は現地、つまりアメリカ合衆国のジョンストン&マーフィー社が取り扱っている正真正銘のメイド・イン・USA。当然、現地でしか購入(通販も可能だが)できない品とのことで、以前、“アラモの砦のパンフレット”を白井さんへのお土産にされた粋なお客様“H様”が、これまた米国御出張の折、白井さんの依頼で白井さんの為に買い付けてきてくださった靴なのだ。
H様がこの靴をお届けに信濃屋さんにご来店された際も私は同席させていただいた。
『この形が好きなんだよね~へへ~いいでしょう(笑)。あげないよ。』
と、白井さんは嬉しそうに仰っていた(笑)。
この日は、信濃屋さん(馬車道店)のサマーセール初日ということもあり、店内はだいぶ賑やかだった。今日の白井さんのジャケットと同じような生地感の茶のジャケットをさらりと羽織られたモダンな紳士で、沖縄からご来店されたお客様から、いつもこのブログをご愛読いただいているとお声を掛けていただき、私の悪い癖なのだが、恥ずかしさと恐縮さとでしどろもどろになってしまった。が、よく考えればこれもまたなかなか得難い貴重な、そして嬉しく、ありがたい経験である。
さて、白井さん。お帰りの際カメラを向けると、
『子供店長。』
と仰って、今を時めく名子役の物真似を(右上の写真)。
そして、弾けるように笑って帰路に就かれた。
“新”
やはり白井さんにはこの言葉がよくお似合いになる、と私は思う(笑)。