goo blog サービス終了のお知らせ 

元外資系企業ITマネージャーの徒然なるままに

日々の所感を日記のつもりで記録

(SLS - 5) 10年目の同窓会

2014-07-31 22:26:38 | ショートショート
大学を卒業して10年目の同窓会の案内状が実家の両親から転送されて来た。案内状には、クラスメイトの名前と住所、勤務先が記載された名簿も同封されていた。卒業して三年後にアメリカに来た俺の住所は実家であり勤務先は何も書かれていない。10年目の同窓会は、卒業式の日にクラスメイトと約束した事だ。わざわざアメリカから帰国してまで出席しようと思ったのは、彼女の名前と住所が大学時代と同じで変わっていないからだ。結婚したと噂で聞いたが、まだ結婚していないのか、それとも離婚したのか?いずれにしても大学時代に付き合っていた彼女が、まだ結婚していなくて、幸せではなさそうなのは悲しい。
俺は同窓会を明日に控え、彼女とよく一緒に行った大学近くの喫茶店や大隈庭園を訪れた。安い木造アパートがマンションに代わり、数多くあった喫茶店がマックとかドトールのようなチェーン店に代わったが、ここ早稲田大学の正門前辺りは昔と何も変わっていない。学生時代俺達はここでよくいろいろな事を話した、とても懐かしい。彼女と最後に別れたのも、ここ大隈庭園だ。彼女のバックに大隈講堂の時計があったのがシルエットとして鮮明に覚えている。あの時の会話が蘇ってくると、本当に明日彼女に会えるのだろうか?と不安が蘇って来る。卒業して二年、あの頃俺は就職もせずにぶらぶらしていた。ただ夢だけはいっぱいあった。研究室の教授のお情けで研究室の機器を借りて、いろいろなコンピューターの試作機を作っては日本のメーカーに売り込みに行ったが、どこもろくに話を聞いてはくれなかった。彼女は銀行に就職していた。結婚にはまだ早い年齢だが、ぶらぶらして就職もしていない貧乏の俺との結婚は考えられないのだろう。彼女の言葉の節々に俺は別れの予感を感じていた。そしてついに「同じ職場の先輩に今晩食事に誘われているの。彼はT大を出たエリートでもうすぐ30歳になるんだけど、銀行員って早く結婚した方が出世出来るみたいなの」。俺は彼女はその銀行員と結婚を考えているんだなと感じた。俺は何も言えなかった。
「あなたの夢が叶ったら連絡ちょうだいね」彼女の最後の言葉だ。大隈講堂の時計をバックに彼女は去った。その後アメリカに渡って成功を収め、俺の夢は叶った。あの時気が動転して、頭の中が真っ白だったが、今思い出した。彼女は去る時何か言った。「さよなら」と言ったのか、「待ってるわ」と言ったのか、明日彼女に確かめてみよう。

(SLS-4) Are you lonesome tonight? (今夜は一人かい?)

2014-07-29 22:34:49 | ショートショート
エルビスと言う名前のお店が茅ヶ崎の国道134号線沿いに出来て三年たつ。茅ヶ崎駅から海に向かう道、通称加山雄三通りをまっすぐに行くと海に出る。海に出たら右に曲がって茅ヶ崎野球場方面に4分ぐらい歩いたところにある。店の名前のとおりエルビス・プレスリーの曲しかかからない。夏の間は金曜日、土曜日、日曜日と地元の生バンドが入り、エルビスに扮した歌い手が曜日毎に代わる代わる登場する。エルビスの店のオーナーは、太田和也と言ってラグビー部三年生の橋本圭介と同級生太田武司の父である。最初のオーナーは和也の父であったが彼の死と共に店も閉めた。エルビスの曲ばかりでは客が来なくなったからである。それが近所のボーリング場が潰れて、その一角を安い値段で借りて和也が復活させた。定年退職した金のある中高年が昔を懐かしがってサーフィンにこうじたり、大型バイクに乗って湘南に遊びに来た帰りにエルビスに寄って帰ると言うパターンが多い。週末はボーリング場のレーンがライブハウスとなる。橋本はこの近所に住んでいて、和也に頼まれてギターを弾いている。内田智子の姉の内田玲奈も同級生の太田武司に頼まれて開店当時からウエイトレスのアルバイトをしている。
「よく来たわね。こんな古臭いエルビスなんて」とカウンター越しに玲奈が言った。沙織と智子、それに智子が呼んだ慎一は多少緊張しながらカウンターに座っている。
「古臭いおじんばかりだと思っていたけど、若者の方が多いじゃん」と智子が店内を見回しながら言った。
「それにしてもみんなリーゼントなのね」
「そう古きも若きもエルビスになり切る為にライブのある時はリーゼントでおしゃれして来るの、ツイストを踊ったり見ているだけで楽しいわ。最初はお金の為のアルバイトだったけど、今では楽しんでる。」
「沙織ちゃんだったわね、バンドは夜の七時から始まるわ。お目当ての橋本くんのギターも見ものよ」
沙織は橋本先輩目当てに来ているのが見え見えで恥ずかしくなった。
「今日のボーカルは志賀直士と言って政治家の志賀次郎の息子なんだけど、彼が歌うバラードは最高なの。特に「今夜はひとりかい?」と言う歌。昔のエルビスの歌だから君達は聞いた事がないと思うけど、「今夜はひとりかい?寂しくないかい?俺と寄りを戻したかったら、帰ってやってもいいぜ」見たいな、とっても腹の立つキザで自分勝手で嫌な男のタイプの歌なんだけど、彼が歌うと最高なの。なんて言うのかしら、逆に男の優しさが出ると言うか、弱さや寂しさが出て母性本能がくすぐられると言うか、まあとにかく聞いてごらん」
「やだお姉ちゃん、そんなに男を見る目があるの?」
「これ実は私が言ったんじゃなくて、とても素敵なおばさまが言ったの、そうちょうど今沙織ちゃんが座っているカウンターで彼の歌を聞き終わった後に。男がこの歌を歌っているのを聞いたら、その男が、どんな男なのか分かるわって、嫌な気分がしたらダメ、そいつは自分勝手で優しくはなく女の敵、素敵ないい気になったら、その男に何処までもついて行きなさいって。きっと幸せにしてくれるから」
「へえーそんな事を言うおばさんが居るんだ。今日は来てないの」
「そう言えば最近来てないわ」
その人は母かもしれないと沙織は感じた。母は湘南が好きでよく、鎌倉から茅ヶ崎当たりをドライブする。一度「今夜はひとりかい?」を母が運転する車で聞いた事がある。その時「やっぱりエルビスは最高だわ」と母は言っていた。「エルビスはロックの神様として扱われているけど、本当は繊細でナイーブで優しいのよね。奥さんと別れちゃって、その時子どもも取り上げられちゃって、寂しかっただろうな、この歌を気分良く聞けるのはエルビスしかいない」。母の言葉を思い出す。やっぱりきっとその人は母に違いない。
「これは噂なんだから気にしちゃダメよ、特に沙織ちゃん、いいい。その素敵なおばさまの恋人が橋本くんじゃないかって」

(SLS-3) 砂に書いたラブレター

2014-07-29 18:25:24 | ショートショート
私は山下沙織と中高も一緒で今も同じ大学に通う内田智子、理学部数学科のいわゆるリケジョ、沙織は政治経済学部政治学科、将来はジャーナリストになりたいと言っている。沙織は可愛くて目立つので、そんな彼女と一緒に海に来たものだから、いろいろな男たちがしょっちゅう声をかけてくる。まあ女の子が二人で海水浴に来たら、声をかけてねと言っているようなものだが。アイドルみたいに可愛い彼女は声をかけられることに慣れているので全く相手にしない。しょうがないのでついつい私が相手をしてします。
「もう何で答えるのよ、黙殺していれば、そのうち諦めてどこか他へ行くのに」と彼女は怒る。声をかけらられることに慣れていない私は、相手がかわいそうになっていちいち答えてしまう。
「ねえねえ、お嬢さんたちお暇?」またしょうもない茶髪の男が声をかけてきた。
「砂に書いたラブレターゲームしない。波に消されなければ僕たちに付き合うってのはどう?」
何とアホなゲーム、もう引き潮が始まっているのに、そのうち砂に書いた文字は波に消されなくなく。あなた達リケジョの私に、そんないんちきが通用すると思っているのかしら。
「じゃ花占いゲームしない。願いが当たったら僕たちと付き合うのはどう?」
またまた、アホなゲーム。どうせ奇数の花びらを持つ花を持ってくるのでしょ?付き合う、付き合わないって花びらを千切っていたら奇数の花びらなら、必ず付き合うになる。もう論理的でないあんた達はあってへ行って。沙織に習ってここは黙殺。何故か同じ数学科のうんちく野郎、川島慎一を思いだしてしまった。いつもはうんちくばかりでうざいのに、何故か彼の論理的にすっきりする思考が恋しい。
「ねえ沙織、川島も読んでもいい?」
「川島って、いつも智子が言ってるあのうんちく野郎?」
「そうなんだけど彼は隣の藤沢市に住んでるから、すぐ来れると思うの、彼が居れば、こんなに声をかけられらくて済むんじゃない?」
「いいわよ、約束通り今夜「エルビス」に一緒に行ってくれるのなら」
「エルビス」とは沙織が唯一興味を持っているラグビー部三年生の橋本先輩が週末にアルバイトでギターを弾いている店だそうだ。彼と同じ年の私のお姉ちゃんもアルバイトでウエイトレスをしている。そのお姉ちゃん情報で沙織が橋本先輩に会いたくて、今回の海水浴、そしてその後「エルビス」に行くことになっている。

(SLS -1) 5枚の花びらのライラック

2014-07-29 09:56:39 | ショートショート
私の名前は山下沙織、母は装飾品のデザイナーをしている。私は中学高校とミッション系の学校だったので、髪型や服装に普段からうるさく学校に行く時はもちろんのこと、休みの時も普段も装飾品を身に付けたことは無い。大学生になった今も、何となく面倒くさくて見に付けていない。同じ学校だった友達の下田由美子は母のデザインが好きで、大学入学と同時に何かいい事があるように4つ葉のクローバーの耳飾りをしている。ラグビー大好き少女だった由美子は早速ラグビー部のマネージャーになった。その耳飾りが効いたのか、彼女に同じラグビー部の同級生のボーイフレンドが出来た。彼女に会うといつも彼の話ばかり聞かされる。名前は上原雄一、理学部数学科の頭の切れる論理的な奴だそうな。
彼女とその上原によると私は可愛いらしいらしくあっという間に男子学生の憧れの的超人気者になったそうだ。確かによく校内でも街を歩いていても、よく声をかけられる。そのせいか彼女にボーイフレンドが出来てもちっとも羨ましいと思わないし、かえって彼氏を持つのは鬱陶しい気がする。かと言って別に男が嫌いって訳でもない。授業と授業の合間などで、たまに由美子と雄一と三人でお茶したり、他のラグビー部のメンバーと飲み会に行ったりもする。かっこいいと評判の二つ年上の橋本秀行先輩がいいなぁと思ったりもする。ボーイフレンドにするならこういう人がいいなぁと単純に思うだけだが、ただ橋本先輩には、もう既に当然のごとく彼女がいる。それも年上の綺麗な大人の女性らしい。そんな訳で私に彼氏は出来ずにいたら、校内で誰が一番先に私を射止めるか?そんな競争が始まった。なんとも馬鹿げだ競争だ。しかもよりによって由美子のボーイフレンドも参戦すると由美子から連絡があった。
「あなた達はいい恋人関係じゃないの?」
「私はそう思っていたんだけど、彼はどうやらあなたが好きみたい」
由美子から電話があった。彼女は泣きながら彼と二人っきりで会ってやって欲しいと、まるで恋の取り持ちをするようなことを由美子にやらせて、私は彼に腹が立ったから会って振ってやると答えた。
次の日曜日ラグビーの試合に応援に行った。橋本先輩は相変わらずかっこ良かったし、一年生のくせに試合に出ていた上原もそれなりにかっこ良かった。試合に勝っても由美子は元気がなかった。
帰りに三人で喫茶店に寄った。
「じゃ私は今日はこれで帰るわ、二人はゆっくりして行ってね」由美子は髪をかきあげて言った。由美子の耳にはいつもの4つ葉のクローバーの耳飾りではなく、白いスズランの耳飾りが見えた。スズランの花言葉は片思いの女の子の涙だ。由美子の初恋がこんな形で終わるなんて悲しい。私はますます上原に腹が立ってきた。
「じゃ」と言って由美子は席を立ち上原に別れの挨拶をした時、由美子の目からキラリと涙がこぼれた。
その涙を見た上原の動揺したうろたえようはおかしかった。彼女の涙を見て始めて由美子への自分の気持ちに気づいたらしい。慌てて彼も席を立って彼女を追いかけて行った。上原は店の外で由美子に追いつき思いっきり胸に抱きしめた。由美子は上原の胸でわんわん泣いていた。
彼女の耳飾りはスズランから、また4つ葉のクローバーに戻るだろう。彼女に負けないように、4つ葉のクローバーとり、もっともっと幸せになる5枚の花びらのライラックの耳飾りを母に頼んで作ってもらおう。


(SLS-2) 雨の日はバスに乗って

2014-07-28 21:36:08 | ショートショート
雨が降らなければ自転車で駅まで通う。雨の日は母さんがバス代をくれるのでバスに乗って駅まで行く。そのバスにはいつも彼女が乗っている。どこから乗るのか知らないが、同じA駅で降りて彼女は自分の学校であるT学園行きのバスの乗り換える。
さすがに進学校の生徒である彼女は、いつも一番後ろの左側の席に座って僕などに目もくれないで参考書を必死に読んでいる。これじゃバスの中での出会いという素敵な恋のチャンスを失くしてしまうと思うけど。
僕は雨が降っていない日に彼女に会うために早めに駅に行って、彼女がバスから降りてくるのを待った。思い切って声をかけて友達になりたい。しかし、いくら待っても彼女は降りて来なかった。次の日も、次の日も、彼女は降りて来なかった。彼女も雨の日だけバスで通学するのかと思って、駅で待つことを諦めて雨が降るのを待ったが、降らない日が続いた。
野球部の僕は土曜日に市内野球大会が、彼女が通うT学園で行われる。T学園は私立なので土曜日でも授業はある。幸い僕は午前中に試合がある。試合が終わった午後に僕は彼女が校舎から出てくるのを待った。そしてついに彼女が出てきた。自転車置き場に歩いている。僕は彼女の後をつけて、今日こそ声をかけてみようと思っている。彼女は自分の自転車にまたがると白いヘルメットをかぶり、黒縁のメガネをかけて、物凄い勢いで、スピード出して走り去ってしまった。
彼女は、奴だったのか?僕は知っている危ない暴走女がいることを。通学時に何度も僕の自転車を抜かして行った危ない運転をする怖いもの知らずの暴走女、ヘルメットと黒縁メガネで全然気づかなかったが、彼女はあの暴走女だったか。そうとわかれば、次の月曜日は彼女と競争だ。