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ダークフォース 第一章 Ⅰ、Ⅱ

2020年12月09日 22時55分57秒 | ダークフォース 第一章
   <序>
 
  美しいものは、人の心を奪う。
  美しきものに、人は愛を求めてしまう。
 
  美しさとは、ヒトのモノだけではない。
  生きとし生けるもの、動物、草木、あらゆる全てが、それを強く求める。
  美しさこそ、進化の象徴。
  そして、進化の先にまた、さらなる美しさがある。
 
  世界の王と呼べる男、彼は言った。
 「この世の果てにいる異界の女神は、
   この世で最も強く、
      そして、この世で最も美しい」
 
    ― ミストレウス帝国皇帝・覇王サードラル
              『エクサーとの邂逅』より抜粋 ―



   Ⅰ

 そこは、エグラートの名で呼ばれる大地。
 古代文明の遺産群と、豊かで美しい自然とが調和し、緩やかな時を刻んでいる、
 そんな世界の物語・・・。

 世界は、八つの国家がそのエグラートの大地を八分し、皇帝を擁するノウエル叡智王国によって、国々は一つにまとめられ、人々は戦争を知ることも無く、穏やかに暮らして来た。
 だがその数百年という長い安寧の時も、大陸の国家群を八つから七つへ減らそうとした時、降りかかる戦火によって、エグラートの大地は再び、その境界線を大きく書き換えられようとしていた。

 南東の大国・フォルミ大公国が、代々、神聖不可侵とされた小国のスレク公国に侵攻したのは、大陸暦4095年の初春である。
 
「スレク公、お討死にッ!! フォルミ軍二万が怒涛の勢いにて我が方に攻めかかってきます!!」
「ば、馬鹿なッ!! 殿下は、戦士レベルが87にも達する大陸屈指の猛者であらせられるぞ。そのクラスの戦士である殿下が、二万もの大軍を集めたとはいえ、フォルミの雑兵ごときにやられるハズはないッ!!」
 石造りの荘厳なる古城の中で、騎士たち怒号が飛び交い会う。
 『ミストレウスの古塔』と呼ばれるスレク公の居城を取り囲む、二万のフォルミ軍は、堅牢な城壁を打ち破り、雪崩を打ったように、城内へと攻めかかった。
 古城の中央には、城の名の由来ともなった巨大な塔がそびえており、僅か千足らずのスレク公国兵たちは、決死の覚悟で塔への侵入を食い止めようとしている。
 古塔の上部にいるスレクの騎士たちは、階下に見える光景に唖然とさせられた。
「城門はアダマンタイト鋼で出来ておるのだぞ! どうしてこれ程にたやすく・・・」
「報告!! 敵、フォルミ軍の中に高レベルの戦士が一名確認された模様。・・・その者がおそらく、アダマンタイト鋼を引き裂いたものかと」
「フォルミ大公・レオクスが、自ら出陣しているのか!? 大陸広しといえど、殿下を凌駕するほど勇者など数限られている!!」
 そうこう慌てている間に、騎士たちはその者の姿を目の当たりにすることになる。
 素早く城兵たちを打ち負かし、騎士たちの元へと現れたのは、年の頃が15にも満たなそうな、一人の金髪の少女だった。
 金髪碧眼の少女は、騎士たちに問う。
「公女はどこにいる? エスト公女さえこちら渡せば、我らフォルミは兵を引こう」
 堂々とした少女の言葉に、騎士たちは一瞬、凍りついたように少女の方を見つめた。
 騎士たちの背筋を駆け抜けたのは、圧倒的強者に対する恐怖である。
 この金髪の少女が発する絶大なる剣気は、スレク公のそれすらも凌駕し、何度かスレクの騎士たちも謁見かなったことのある、大陸最強の剣王と名高い、ティヴァーテ剣王国・剣王バルマードのそれとも見紛うばかりの威圧感である。
 バルマードの戦士レベルは95。
 少女がそれに近い戦士であることが、スレクの騎士たちにも容易に感じ取れた。
「フォルミ大公はこれ程の戦士を配下に抱えているのか!?」
「私の実力を読めるそなたらであれば、抵抗がいかに無意味であるかも容易に理解出来よう。我が名はリシア。フォルミ大公国・大公レオクス殿下に仕える戦士。戦士レベルは94。そなたらになら、この数字の意味は説明するまでもなかろう」
 『戦士』とは、この世界にあって、超越者にのみ贈られる称号である。
 人間としての限界を遥かに超え、『ライトフォース』という自然界に存在する質量、エネルギーを自らの力として、人ならざる力を発揮する者たちの呼称である。
 戦士には、戦士レベルという強さの指標が存在し、これにより高レベルの戦士たちは互いの実力を知ることで、無用な争いを避ける傾向にある。
 戦士レベルの最高値は100とされ、人が達した最高値はティヴァーテ剣王国の剣王バルマードの、95である。
「94!? ノウエル皇帝陛下と同じ戦士レベル!! 馬鹿な、皇帝陛下は人類で二番目の戦士レベルをお持ちなのだぞ。・・・いや、しかしこの圧倒的な剣気。フォルミ、なんという大国・・・」
「公女を渡すのだ。我らとて、無用の流血は避けたい」
 そうリシアが降伏を勧告した刹那、一人のスレクの騎士が何かしらの装置のようなものに触れた。
「まだ、負けと決まったわけではない! エスト様はすでに、ティヴァーテに向かって発たれておるわッ。・・・公国の意地を思い知るがいい!!」
 美しい模様をした大理石のパネルに掘り込まれた古代文字のような文様が、虹色に輝き始めると、慌てて別の騎士がその操作を止めに入る!!
「ば、馬鹿な真似はよせッ! 殿下無きとはいえ、公国そのものを消滅させる気かッ!!」
「それは、何の装置だ?」
 リシアの問いに、その騎士は素早く答えた。
「あれは異界の扉を塔周辺に開くもの! フォルミの戦士よ、装置を破壊してくれッ!!」
「ギ、ギーガ(悪魔の総称)をこの地に召喚するつもりかッ!! スレク公国そのものが、この大陸から消滅してしまうぞッ!」

   ズドーーーンッ!!

 リシアは超人的な速さで、パネルと騎士を外壁ごと吹き飛ばし、古塔に風穴を開ける!
 が、時すでに遅し・・・。
 風穴の向こうの地平には、漆黒の闇ともいえるドス黒い亀裂が、いたる所に発生し始めていた。
「なんという巨大な亀裂・・・。一体、どれほどの数のギーガが溢れることか」
 止めに入ったスレクの騎士は、兜の音がガシッと鳴るほど額を石畳に擦り付け、リシアに向かって懇願した。
「フォルミの戦士よ、ギーガの侵入を食い止める為、我らに力を貸して欲しい! 殿下おられぬ我らに、ギーガと戦うだけの力は無い。無理は承知の上!!」
 リシアはすぐに頷く。
「承知した。ギーガと対するに、国家の境界など関係はない。・・・しかし、これ程に巨大化した闇に、私一人で対することが出来るだろうか。決死の覚悟で挑んではみるが、結果は期待しないでくれ。あと、双方の軍に我が思念波(テレパシー)を遅らせてもらうぞ」
「・・・す、すまん」
 リシアは風穴から階下の全軍が見下ろせる位置に立つと、兵たちに向かって思念を送った。
 その声は、両軍の兵たちの頭の中に、直接鳴り響く。
『我が名は、フォルミの戦士リシア。承知のように、今、ギーガが異界から溢れ出そうとしている。スレク、フォルミ全将兵に告げる! 全力を持ってギーガども対し、死力を尽くして戦うのだ!! ・・・家族を、故郷を、この地に生きるもの全てを! 漆黒の闇から守り抜くのだ!!』
 リシアはそのまま、塔の風穴から直接、最も大きい亀裂へと向かって飛び出した。
 リシアは巨大な闇の中心へと向かいつつ、心の中でこう呟いた。
「・・・任務失敗だな、もう、公女エストを追う余裕はない。生き残る為に戦い、その間にレオクス殿下への言い訳でも考えさせてもらうか」と。

   Ⅱ

 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる、ある朝のこと。
 その豪奢な石造りの一室を照らす日の光は、角度を上げるごとに、やわらかさが眩しさへと変化し、そこに眠る愛らしい少女のまぶたを強く照らした。
 まぶたをこすりながら、ふわ~んという声を出して半身を起こすその少女は、新緑のように萌える、鮮やかな長い髪を持ち、その薄く開いた瞳は、日の光もあってか、とても澄んだ水色に見える。
 光に包まれた少女のその姿は神々しいまでに美しく、端整に整った顔立ちに、淡いピンクの唇が、よだれによって潤っていた。
 ・・・潤い過ぎていた。

  ジュルルルルーーッ!!

 顔に似合わず下品な音を立てて、少女はよだれをシルクの袖で拭き取ると、ぼーっとした表情で小さく可愛らしい置き時計に目をやった。
「じゅっ、十時半!? がはっ、寝過ごしたぁぁ!! つか、目覚ましなってねーーーっ」
 血相を変えて少女は天蓋付きのベットから飛び起きると、急いで身繕いを始めた。
 ・・・十分ほどかかりそうなので、その間に彼女の紹介等々をさせていただく。
 彼女の名は、エスト。二ヶ月前の「スレク公国の乱」で無事逃げ延び、南西の大国・ティヴァーテ剣王国に身を寄せる、元公女である。
「元を付けるなっ! 今でも公女殿下じゃわい!!」
 コホン、公女殿下である。
 ティヴァーテ剣王国は大陸でも一、二を争う強国で、その統治者・剣王バルマードは大陸最強を冠する無敵の戦士である。
 戦士の中で最上位を意味する『マスタークラス』の称号を持つ唯一の人間で、彼以外のマスタークラスは、全て人以外ということになる。
 つまりそれは、神界フォーリナの神々(セバリオス・ジラ・フェルツ)と、魔界ファールスの魔王ディナス、その魔王配下の四天王の三名(マベル・ホーネル・マイオスト)の名を指す。
 まあ、めちゃくちゃ強いのです。
「最後は、小学校の作文みたいなオチだな。まー、つええよ、バルマード様は。だから私はマクラを高くして眠れるのだよ、にしし・・・」
 ということで寝坊した公女殿下は置いといて、
「ああ、置いといてくれ。あたしゃ、身支度に忙しい。・・・まあ、しけた田舎の公国の姫で終わるより、都会でリッチでドデカい、このティヴァーテ剣王国に潜り込めただけでも、しめたもんって思っちゃいるがね。ビジョン(テレビ)なんて12チャンネルもあるのよ。ウチなんかたったの2チャンネルだったのに。しかも、スーパーハイパービジョンだし、飛び出せ! 立体映像だし・・・。3Dメガネすらいらないのよ」
 ブツブツと呟きながら忙しそうしている公女殿下は、ホントに横に置いておくとして、このティヴァーテ剣王国は、エグラート大陸全土を統べるノウエル帝とも親密な仲にあり、ノウエル帝は、ティヴァーテ・剣王バルマードの義理の父にあたる。
 次期皇帝は、このティヴァーテから輩出されるであろうと噂されるほどの、まさに超大国である。
 このティヴァーテの世継ぎでもあるウィルハルト王子は、次期皇帝候補の筆頭と言われ、また、抜群の容姿の持ち主でもあり、その姿は、絶世の美女とも見紛うばかりの美しさである。
 鮮やかな赤い薔薇色をした、艶のあるしなやかな長い髪と、魅惑的で吸い込まれそうな黒い瞳の持ち主で、性格はとても明るく、そして、万人に優しく、まさに非の打ち所のない人物である。
 時の皇帝にさえ、たった一人の孫娘を嫁がせたいと思わせるほど、ウィルハルトの王子っぷりは、まさにパーフェクトであり、どこぞの田舎公女が付け入り、玉の輿に乗ろうなど、もっての外の、論外である。
「クックックッ・・・たらし込んで、既成事実さえ作っちまえば、こっちのもんよっ!! メイクは毎朝一時間!! の精神でケバくならず、キュートで可愛い、おぼこ娘を演じきってみせるさぁ! まー、今朝は謁見まで時間ないんで、10分メイクでいくがね。王子が世間のイロハを色々わかっちまう前に、このエスト様ががっちりキャッチしてみせるぜ。うひょひょひょひょ」
 エストは鏡台で、もう一度、自分の姿をチェックする。
「さーて、準備も出来たし、いっちょ、顔でも出してくっかね」
 そう言って、顔をパンパンっと叩いて気合を入れたエストは、セレブなドレスに身を包み、颯爽と王子様の待つ王の間へと向かったのだった。
「毎日こつこつ1ポイントでも恋愛度を稼いでおかんとな、地味な積み重ねを三年もすれば、めでたく、ハッピーエンドってなもんさぁ!」

 謁見の間へと数分でたどり着いたエストは、玉座に鎮座する剣王バルマードへ向かって、深々と頭を垂れた。
「ご機嫌、麗しゅうございます、バルマード陛下」
 エストは、先ほどとはうって変わって気品ある態度で玉座の主に一礼した。
 玉座へとつながる赤い絨毯の脇に並び立つ重臣たちの顔も、猫かぶりの登場せいか幾分にこやかで、その先頭にいる完璧王子ウィルハルトも、エストと顔を合わすとニコリと微笑み返した。
 剣王バルマードは、黒く鋭い瞳に灰色の髪の人物で、立派な髭を蓄え、腰掛けた姿でもその背丈が190センチをゆうに超えるとわかる頑健な男である。
 いわば、ダンディズムとはこれであると、絵に描いたようなチョイ悪オヤジ風の風貌で、威厳も備えているが、やはり格好良いの方が先に立つ独身男である。
 早くに妻を亡くした彼は、それ以後妻をめとろうとはせず、一途に亡き妻を今でも想い続ける義に厚い男である。
 その生き方さえもサマになっているバルマードが、玉座から軽く身を乗り出すようにして、錆びの効いた声で、エストへと発した第一声はこうだった。
「うーん、エストちゃん、オジサン寂しかったよぉ。もっと早く顔を出してくれないとオジサンの一日は始まったって気がしないのよ。今日も相変わらずいい感じの美少女してるねぇ・・・。オジサンのこのドス黒いまなこも、エストちゃんのおかげで綺麗に洗われるって感じだよ」
「恐れ入ります、陛下。この様な小娘をかくまって頂き、日々感謝に絶えません」
 エストの言葉に、そんなの気にしちゃダメだよーっという素振りで、軽くウインクをするバルマード。
 実は、このバルマードは、かなり気さくな感じのするオッサンで、その寛容な性格で、猛者揃いのティヴァーテ家臣団を上手くまとめ上げている。
 非常に気の回る人物で、仮に彼が無敵の剣王でなかったとしても、彼のカリスマが今のように強固に家臣団を結束させていたに違いない。
 ティヴァーテ王室は、大陸でもトップクラスの権威と実力を備えているが、その中身が実にアットホームなのは、彼の存在抜きには語れないであろう。
 王子のウィルハルトは、その寛容な父の影響を受け、実に心優しく、芯の強い性格に育っており、国民人気も圧倒的である。
 美女顔負けの容姿に、まるで変声期を迎えていないような高く、柔らかい声色。
 寝巻き姿のウィルハルトなど見かけてしまうと、譜代の家臣でさえムラムラとしてしまいそうな、そんな究極の王子様なのです。身長は父親に比べると、頭一つ低いのもチャームポイントと言う事で。
 そのウィルハルトは、澄んだ柔らかな声でエストにこう話しかけた。
「ねえ、エスト。今日も剣術の稽古を付けて欲しいんだ。男がこんな可愛い女の子相手にそういうこと頼むのって、みっともないかもしれないけど」
 エストは、むしろ寝技を仕込んでやるわいッ! と口には出さず、上機嫌そうに、二つ返事でウィルハルトの申し出を承諾した。
「私も、ウィルハルト様との鍛錬はたのしゅうございます。こちらこそ、是非」
「うん、ありがとっ」
 エストはいい加減な性格をしているが、こうみえて実は戦士としての才覚に秀でた、バトルプリンセスなのである。
 彼女の戦士レベルは70以上で、これは各国の将軍でさえ簡単には手におえない次元の強さである。
 せっかく、容姿端麗、実力十分に生まれてきているのに、彼女の捻じ曲がった性格と根性が、それに水を差している。
 いいものは、持っているのに・・・。
「うるさいんじゃ、ボケ!!」
 エストの叫びに少し驚いたバルマードとウィルハルトらであったが、とっさにエストはその場を取り繕った。
「あはは、昨日見たビジョン番組をつい思い出してしまって。あんなに面白いお笑い番組、公国には無かったものでして、」
 と恥らうようにエストが言うと、場は一気に和やかな雰囲気になった。
 エストは白々しく横に目をやりながら小さい声でこう呟いた。
(貴様・・・ハメやがって。ボロ出たらしばくぞ、コラァ!!)
 決してハメてなどいない。
 ただ、常に墓穴だけは用意しておいてやるとだけ言っておこう。
(・・・落ちるのは私じゃない。私の覇道を邪魔する全ての女(敵)どもだよ・・・。くっくっくっ)
 エストがニシシとしたり笑いをする中、親族経営の会社の朝礼にも似た、緊張感の無いティヴァーテの午前の謁見は、何事もなく平穏無事に過ぎ去っていくのでありました。
 おわり。


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