飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

連載小説「幸福の木」 344話 江戸村?

2023-03-19 14:51:03 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、暑さ寒さも彼岸まで!の彼岸が来ました、寒暖両方みたいな感じですけど、wbcもいよいよアメリカで本番ですが、はい、余談はこのくらいで原稿が届いたので、小説に参ります。文字オーバーでしたらご勘弁を、はい、では、開幕開幕!

344 江戸村?

突然武家や老婆人形達が速く動き出し、以前のセリフの声も音も鳴り出した。
「ピカッ、ピカッ、ドンドンドンドン」
舞台では、青空が急に曇って暗くなり、大きな雷鳴と共に、老婆が変身して恐ろしい鬼の姿になった。
そして見るからに恐ろしい形相のまま切られた腕を持って塀に飛び移った。
その時だった。
ピカーーーッドンドンドン!」
舞台以外の外側に閃光と大音響が鳴り響いた。
その天地の音と共に、会場が真っ暗になった。
「あっ、停電だ!」
「シャーーシャーードンドンドン!」
突然、大粒の雨が、屋根やジャリやイスの上に降り注いだ。
「夕立ちだー、夕立ちだー!」
皆は雨の中を慌てて建物や軒下に逃げた。
「あれって、きっとあの鬼だわ、本物が出て来たんだわ、恐いー、恐いー!」
ハナナとハナ達の目には、恐ろしい鬼の顔が焼き付いていた。
しばらくして、雷鳴も夕立ちもおさまり、皆も落ち着いた。
古民家の中へ逃げ込んだハナや太郎達全員が、休憩を兼ねてコーヒーを飲もうと喫茶店へ集まる事になった。
それまで閑散としていた喫茶店に、ハナやハナナ、太郎やタタロ、村長や長老や修験者達が勝手に座り出した。
遅れて、母親と子供達、それに木花咲姫と侍女、さらにゴクウとケン、さらに遅れて外国家族達が空いている席に座り、ほぼ満席になってしまった。
応対に来た1人の店員が、驚き慌てて応援を呼んだ。
すると、あのピアニストの妹と発明家の兄も駆けつけた。
そして、皆のテーブルに水とオシボリを置いて、注文を取り始めた。
村長のテーブルに来たピアニストが注文を取ると、遠慮がちに尋ねた。
「あのー、村長さん、竹原文楽はいかがだったでしょうか?皆さん方は気に入られたでしょうか?」
村長は、応える前に、向かい合って座っている木花咲姫や侍女の顔を見た。
二人は飛びっきりの笑顔でうなづいていた。
「ああ、皆さん方は大変気に入ったようじゃ、興味深く真剣に見ていたようじゃ、じゃが・・・途中で中断したのは残念じゃったのう、あれが無ければ良かったのに、あれは何とかせんといかんのう・・」
すると、木花咲姫が、
「はい、そうでしたね、あの中断が無ければ、あの小さな人形歌舞伎は外国人の方達にも喜ばれる大変素晴らしいエンターテイメントでしたね」
と言って隣の侍女と合槌を打っていた。
「えっ、途中で中断したのですか?」
ピアニストの妹が驚いた。
すると村長が、
「ああ、それはおそらく、ワシが急に無理やり頼んだからじゃ。準備が不十分じゃったのじゃろう。次回からはうまく行くと期待しているよ、何せ、数十年ぶりの復活じゃからな、はっはっはー!」
と弁解しながら大笑いした。
すると、その話を聞きながらコーヒーを運んでいた発明家の兄が、遠くから、
「あー、あの復活は、まずいですよ、少しやり方が古臭過ぎますよ、昔ながらのカラクリじゃなくて、もっと最先端の現代的な方法に変えるべきですよ」
と大声で言った。
「ほほう、現代的なやり方って、どう言う事じゃ?」
村長が聞くと、
「いや、それにはいろいろなやり方があって、今ここで一言で説明するのは難しい・例えば・・」
と応え始めた。
その時に、あっ、コーヒーに唾が?との座っている母親の顔に気づいた。
すぐに兄はそのブーイングを避けるように、口をしっかり閉じて、コーヒーを配るバイト業に専念した。
しばらく静寂が続いた時に、木花咲姫が話し出した。
「あのー、わたくしが想いますには、日本の昔ながらのカラクリ人形は、江戸時代からの伝統的な工夫や仕掛けだと想います。それは手作りのアナログ技術なのです。
それはそれで大変興味ある面白い仕掛けなので、そのアナログのまま復活させて、その舞台裏のカラクリ構造も、お客さん方に見てもらえるようにすれば、もっと面白くなるのではないでしょうか?」
それを聞いていたグー太が、大声を出した。
「おいらも見たいよ、見たいよ!どうやって婆さんが鬼になるのか?どうやって鬼が塀まで飛んで行くのか?それを見たいよ」
すると太郎が、
「おー、グー太よ、お前達は舞台裏にいたんだろ?だったら、見たんじゃないか?」
「いや、おいら達は、まだ見ていないよ」
「へーっ、やっぱり子供だな、肝腎な事を見逃して、俺だったらヘマしないんだけど、まあ、しかたないか」
と太郎が子供を見下げるように言った。
そんな会話を遮るように、村長が言い出した。
「そうじゃ、そう言えば思い出した!飛騨高山祭のカラクリ人形じゃ、あれは立派な屋台の上で披露されるから、皆も知ってるじゃろう。
それがじゃ、何と小僧の人形だったか、空中を飛んで別の場所へ舞い降りたんじゃ、あれこそどうやっているんじゃろうか?糸なんか見えなかったが、あれこそ一度でよいから、楽屋裏を覗き込んで見たいもんじゃ」
その時、外国家族の弟が言い出した。
「僕達も高山祭を見に行く予定だから、僕はその時に楽屋を見せてもらおう」
すると村長が、
「ほほー、あなた達は高山へ行く予定なのかい?しかし、高山祭は春と秋しか行われないから、見逃さないように気をつける事じゃな」
と忠告すると、姉が、
「あのー、私達家族は旅行の日にちが短いので、明日にでも高山へ行く事になりました。なのでここにいられるのは今日までです、弟もここの水族館で岩魚を見る事ができたので大変良かったと想います」
と皆に告げた。
その言葉にハナやハナナはもちろん、長老や太郎達も驚いた。
「えーっ、そんな、急に!」
ハナやハナナ達が予想外の事に動揺して声も出せないでいると長老が言い出した。
へえー、まいった、いやいやあんた達はもう出発してしまうんかい、えーっ、それは悲しいのう・・・それじゃ、早速今夜はお別れパーチィーじゃな、のう太郎よ?」
「えっ、パーチィーって?」
太郎も、不意の質問に言葉が出なかった。
「ほらっ、あの歌のうまい運転手さんやママさんが言ってたじゃろう?あのママさんの店へは、まだワシ等も行っていないから、今夜はその店でお別れパーチィーじゃ、そうすれば約束も果たせるからな」
長老の嬉しそうな言葉に、修験者も笑顔で合槌を打っていた。
ようやく、ハナナが甲高い声で抗議した。
「それって、飲み屋でしょ?アタイ達は未成年だからお酒は飲めないわ、私達は別の場所でお別れ会をするから、お酒の飲みたい人達だけで行ったら?」
結局、お別れパーチィーは、二手に別れて、ママさんの飲み屋と音楽資料館の傍のレストランで行う事になった。
ママさんの店はと言えば、酒とカラオケが主だから、当然、二十歳以上の長老達と太郎、タタロそれに外国の夫妻が主で、あの運転手さんと水族館の案内嬢などおなじみのお客さん達だった。
一方レストランでは、外国の姉と弟を主に、村長、木花咲姫と侍女、そしてハナとハナナ、グー太とゴクウとケン、そして子供達と母親達がいた。
早速、村長があいさつをした。
「今日はお姉ちゃんと弟さんはここでの最後の夕食じゃから、特別に地元の和食を準備してもらった、和食と言っても子供達が多いから、特に好きな肉料理を増やしてもらった、飲み物もいっぱいあるから遠慮せずに、どうぞ好きなものを腹いっぱいごちそうになってください!あっ、せっかくじゃからカンパイしよう、はーい、では、カンパーイ!」
ジュースの乾杯と子供達の満面の笑顔で、夕食が始まった。
「あの、お替りもたくさん準備してありますので、もっと欲しい人は、こちらへ来て自由に皿に取ってください、飲み物も自由にセルフサービスでお願いします」
店員の女性の言葉に、子供達はさらに笑顔になった。
肉のコーナーに行くと、猪肉、鹿肉、雉肉、鶏肉、豚肉がカラアゲや串焼きになって山のように準備してあった。
飲み物コーナーには、各種ジュースの他に地元ワインや地元酒、地元ビール、それにノンアルコールビールや発泡酒もあった。
ハナが、いろいろな肉のカラアゲや串焼きを皿に取りながらつぶやいた。
「ああ、もしかしたら、お兄ちゃん達も、こっちの方が良かったかも?ビールだって、ワインや酒だってあるし、それに酒の魚の料理もいっぱい揃っているから、飲み屋では無理よ、知らせてあげたいくらいだわ」
「そうね、あたい、後でたっぷり自慢してやるわ」
ハナナも嬉しそうに、様々な肉のカラアゲを皿に取っていた。
ハナ達がテーブルにもどると、木花咲姫が外国の姉達に尋ねていた。
「あなた達家族は高山へは、汽車で行くのですか?」
「いえ、自動車です、運転手付きの大型の乗用車がここまで迎えに来ます、それで行きます」
それを聞いていた傍の侍女が提案した。
「それなら、せっかくですので、この奥にある江戸村や平安村も見て行ったらいいんじゃないですか?ねえ、そう想いませんか、木花咲姫様?」
「ああ、そうですね、それは名案ですね、自動車なら、それほど時間もかかりませんから、それに、せっかくここまで来たのですから、奥の村々も見て行ったらいいと想いますよ、きっと気に入ると想いますよ、ぜひ、そうなさってください」
と心から強く推した。
すると、その熱心さを感じて姉は、
「はい、それなら、是非、両親に話してそうしようと想います、ありがとうございました」
とお礼を言った。
すると、会話を聞いていた母親達が話しに入ってきた。
「私達も、明日は隣の奥の江戸村を見学する予定