飛騨さるぼぼ湧水

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(続)連載小説「幸福の木」 329話 赤餅、緑餅、黒餅は古代餅?

2022-11-13 14:21:07 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、久々の雨、昨日までは暖かい昼でした、紅葉も迫っています、はい、ウチの先生はダイエットで四苦八苦しているみたいで、餅も美味しい季節になり、はい原稿が届きましたので、早速、小説に参ります、はい、では、開幕、開幕!

329 赤餅、緑餅、黒餅は古代餅?

お膳を覗き込むハナ達に長老は言った。
「ああ、これはじゃ、残り物で作った厨房の「まかない飯」じゃ、ここの厨房は頼まれてあちこちの弁当も作っているので、美味しい材料がいっぱいあるのじゃ、なのでちゃっかりおすそ分けしてもらってきたのじゃ、ハハハハ!」
お膳の一品一品をしげしげと見ていたハナが、
「あーっ、美味しそうなおにぎりだわ、でもどうしてこんな黒っぽい色なの?」
と気になった。
「ああ、それはおコゲだからじゃ、大きな釜の弁当用の炊き込みご飯のおコゲが残っていたので、ワシがおにぎりにしたのじゃ、おコゲの方が香ばしくて美味しいからな、欲しいと言ってもあげないよハハハハ!」
と長老は美味しそうに一口食べてみせた。
ハナとハナナ達も同じように生唾を呑んだ。
「これは形が崩れた失敗の甘露煮の魚、これはダシ巻き卵の残り物じゃ、これは鯛のアラに残り飯で炊き直したお粥じゃ」
と修験者も説明して、いかにも美味しそうに口に運んで見せた。
その美味しそうな食べっぶりに、皆もしばらく見とれていた。
皆と一緒に見ていた侍女が、フと思い出して質問した。
「あの、長老さん達、昨夜は、ここまでどうやって来たのですか?歩いてきたんですか?かなり夜更けだったんでしょ?」
すると、長老は茶碗のお茶をゴクッと軽く飲んで、一息つくように答えた。
「そうそう、ワシも驚いたんじゃが、この村にはネコタクシーと呼ぶ夜中でも走っているタクシーがあるんじゃ。
しかもじゃ、それが自動運転の運転手のいらない無人の車で、呼ぶのも行き先もボタンを押すだけでいいんじゃ。店のボタンを押せば、タクシーが来るし、乗ったら行先ボタンがあるから、それを押せば、それでokなんじゃ、昨夜はママさんと運転手さんとワシ等でそのネコタクシー一台で送ってもらったんじゃ」
すると、今度はハナが質問した。
「それはそうと、長老さん達はもうアルバイトをしなくてもいいんでしょ?どうしてまだアルバイトをしてるの?」
すると今度は修験者が答えた。
「ああ、それは、アルバイトをしなくても良い事が分かったのは昨晩遅くの事じゃった。もう既にここでの朝のアルバイトを頼んでいたから、ここのワシ等の宿泊代を割安にしてもらおうとしたのじゃ。ワシ等は朝は早くてする事が無くて退屈なので、厨房にいた方がいろいろ手伝う事があったり、美味しい料理をつまみ食いしたりして楽しいのじゃ、なので、今もアルバイトを続けているんじゃ。楽しいからお前達もそうしたらどうじゃ?」
と勧めてきた。
長老も思い出したように、
「おお、そうじゃ、朝食が終わったら、厨房の土間で餅つきをするのじゃ、その餅で花餅を作るのじゃ、それに売店や旅館用の餅もじゃ、お前達も手伝うか?」
と誘ってきた。
「えっ餅つき?見たい見たい、どうやって作るの?」
好奇心いっぱいのグー太が大声で答えた。
「そう、面白いぞ、ここでは昔ながらの木の臼と杵を使うんじゃ、まき割りの斧のように振り下ろして突くんじゃ、迫力があるんじゃ」
と長老は両手を振り上げて、餅つきのマネをした。
「ピピピー、ぴぴぴー、ニャーニヤー!」
その時、外から車のような音が聞こえた。
「あっ、弁当を運ぶねこたくしーが到着したんじゃ、早速、弁当を載せなきゃ」
長老と修験者が慌てて厨房へと駆けた。
しばらくすると、また同じようなタクシーの音がした。
「ニャー、ニヤー、ピピピー、ぴぴぴー、ニャー!」
皆が窓の外を見た。
ガラスごしに黄色のネコの姿の車がゆっくりと走り去るのが見えた。
と思うや、長老達がもどってきた。
「よかったよかった!弁当が間に合って、ああ、お前達も見たかい?あのネコタクシーは、それぞれ名前があって、姿や色も少しづつ違ってるそうじゃ、あれはキロロと言う名で、キロロは注文の弁当をひとりで取りにきたんじゃ、えらいもんじゃ。
この村では、品物や荷物だけでなく、幼い子供でもお年寄りでもネコタクシーが送ってくれるそうじゃ、もし何かがあったら、車に話しかければタクシー会社の係が声で応えてくれるそうじゃ、実に便利なもんじゃ」
と言って、長老はお茶を少し飲んだ。
そして、中断した朝食をまた食べ始めた。
「何か変だわ」
とハナが、鼻をクンクンさせながら、長老のお膳の茶碗に近づいた。
「あーっ、何だか酒臭い、あーーっ!何だ、これって冷酒だわ」
「えーっ、朝からお酒を飲んでいるの?」
思わず立ち上がったハナナが、皆に聞こえるような大声を出した。
「ああ、とうとうバレてしまったか、まあしかたない。ワシ等は、もう早朝からひと仕事終えてきたんじゃ、ご褒美の酒とちょっと休憩じゃゆるせ、ゆるせ、ハハハハハー!」
と長老達は大笑いした。
やがて、女将が現れた。
「あの、朝食はいかがでしたでしょうか?十分にお召し上がりになりましたでしょうか?熱いお茶をお持ちしました」
と言って、空っぽのご飯のお櫃をちらっと見た。
「はい、とても美味しくいただきました」
木花咲姫が笑顔で答えた。
「おいらは餅が食べたいから、ご飯は半分しか食べなかったんだよ」
グー太が言うと、女将は少し苦笑いした。
「ああ、そうでしたか?お坊ちゃん、餅つきも準備でき次第始りますので、どうぞ、たくさん召し上がってください」
と応えて微笑んだ。
ちょうどその時、外国人の家族が玄関から入ってきた。
女将は早速玄関へ行き、慣れている様子で靴を脱ぐ事から教えていた。
グー太も玄関へ急いで来て、弟やお姉ちゃんに知らせた。
「あのさ、これから餅つきをするんだよ、きっと面白いし、美味しいよ
「えっ、餅つき?餅つきって何?」
お姉ちゃんが興味深そうに聞いてきた。
グー太が応えられず困っていたので女将が答えた。
「あの、モチツキって言うのは、モチ米を蒸して、キネで突い柔らかいダンゴのように塊りにするのよ。それをモチって言うの、それを小さく丸くしたりアンコやキナコで覆ったりして美味しいオヤツにするのよ。昔からこの村でも正月前や春や秋のお祭りの前にモチを作って神様にお供えしたのよ」
それを聞いて姉ちゃんが、
「へえーっ、それを今からやるの?私も見るだけでなく体験できるかしら?」
と片言の日本語で話して喜んでいた。
「はい、たくさん作りますので、誰でも餅つきの体験ができますよ・・そうですね、厨房の土間では皆さん方には少し狭過ぎるので、・・ああ、この玄関前で行えば皆がよく見えますね、それがいいかも知れませんね」
と言う女将の提案で、
玄関前にムシロが敷かれ、その上の大きな臼には蒸したばかりのもち米が入っていた。
それを修験者が杵で押し突いていた。
脇では女将が、杵の邪魔にならないようにシャモジで臼からこぼれそうな米をもどしていた。
その内に、ペッタンペッタン!と杵が同じ調子で打ち音を出していた。
餅つきが慣れて華僑に入った音だった。
「ああ、もう十分突けたな、もういいだろう」
長老が、汗を拭き拭き言った。
今度は長老が杵を振り上げていた。
見守っていた修験者が餅を覗きながら言った。
「よーし、このモチはうまくつけたようだから、これで花餅を作ろう」
それを聞いて女将が、モチを小さな樽に入れてハナ達の前を通って縁側に運んだ。
縁側とその奥の板の間には、広い分厚い板と松の大枝やさくらの枝株が置いてあった。
「お嬢さん達、よく見ててよ、こうやってモチを取って、枝に巻き付けるのよ」
女将が熱い餅にくっ付かないように米粉をかけて、素手で一塊取って伸ばして枝に巻き付けた。
「分かった、分かった!」
熱心に見ていたハナとハナナと姉達は、早速、熱い餅を取って枝に巻き付け始めた。
「今度は、赤米のモチがつけたよ、これも巻き付けると赤い綺麗な花餅になるよ」
と言って、女将が赤色のモチを持ってきた。
太郎に餅つきをまかせて休憩していた修験者が、近寄ってきて赤い餅を見て言った。
「ほほう、赤米を使うとは珍しいのう、赤米や黒米は現在は作らないから古代米と呼ばれているんじゃ。以前は赤色や緑色には食品着色剤を使っていたようじゃ。例えば出来上がったお鏡餅なんかには、筆で表面に塗っていたようじゃが、ここは赤米を栽培しているんじゃろう、本格的じゃ」
と感心していた。
しばらくすると、また餅が運ばれてきた。
「今度は緑色のモチができたよ、これは蒸して乾かしていたヨモギの葉を入れてついたのよ、これで三色揃ったから、花餅とは別に、赤白緑の三段重ねのお鏡餅もできるわよ」
と言って女将は、今度は鏡餅の作り方を教えて見せた。
すると、また修験者がきて、蘊蓄を説明し始めた。
「あのな、鏡餅の三段重ねは火と水と土を表しているんじゃ、なので一番上は赤色で火を、次は緑色で水を、一番下は黒で土を表すのじゃ。昔なら赤米も緑米も黒米も栽培していたのですぐに作れたが、現在は緑米や黒米は栽培していないので、今女将が言ったように、赤と白と緑色に変えてしまったようじゃ。もしかしたら、黒色を嫌って黒米を使わないようになったのかも知れない」
「えーっ、黒米なんてあるの?」
ハナ達は、餅を作りながら、また驚きながら聞いていた。
「ワンワンワンワン!」
ケンが久々に吠えた。
皆がケンを見ると、ケンは来客に向って吠えていた。
それは、杖をつきながら、ゆっくりと歩いてくる男の人だった。
よく見ると、