飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

(続)連載小説 「幸福の木」 その244話 暴かれた長老の過去?

2020-05-24 23:59:51 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いやいや遅くなってしまいました、えっ、アッシじゃないですよ、ウチの先生の原稿がです、もうまもなく0時、アッシも今日中に終わりたいと思っていたんですが、もう誤字や脱字があるかも知れませんが、すっ飛ばします。
そうそう、まもなくコロナ休みも解禁になりそうで、何よりです。
はい、てな訳?で、早速、小説に参りたいと思います。
はいでは、始まり、始まり!

244 暴かれた長老の過去?

「おーい、ハナ、早く帰って来ーい!」
聞き慣れた太郎の声は、ハナの耳に残っていた。
ハナの心は、自分でも驚くほどどんどん変わって行った。
太郎の声を聞いた時、初めは嬉しくて涙が溢れてきた。
しかし、いろいろ思い出して懐かしさが満たされてくると、次第にうるさく思えてきた。
「さあ、娘よ、どうするんじゃ?このまま洞窟へ帰るか、それともワシと一緒に遠い未来を見に行くか、どちらじゃ?」
大婆は、相変わらずストレートに聞いてきた。
その時に、またハナの耳に太郎の声が響いた。
「こらー、ハナ、早く帰って来ーい、何してるんだ?」
初めと違って、ずいぶん乱暴な口調だった。
その言葉を聞くと、ハナはムッとして決断した。
「大婆さん、私はすぐには帰りません。大婆さんと一緒に未来へ行きます」
ホームシックとか、里心とかが湧いて迷っているかと思っていた大婆には、思いがけない答えだった。
「よーし、それなら決まりじゃ、帰るのをもう一日延ばして未来を覗きに行こう、垣間見るだけじゃから、それで十分じゃろう」
大婆は、すっきりと機嫌よく答えた。
「はい、大婆さん、そうします」
ハナも、もう心が決まった。
大婆とハナがにっこりと笑顔で向き合っていると、また嫌な声がした。
「おーい、こらー、ハナ、聞こえるかー?早く、帰って来ーい!カンカンカン」
何かを打ち鳴らすような物音に、大婆もハナも訝しんだ。
「っつたく!うるさい奴等じゃ、放っておけばあきらめると思ったが、・・・実にしつこい奴等じゃ、何とかしなきゃ?」
大婆は、苦虫を噛み潰したような顔になった。
一方、地上の洞窟では、こんな事が起こっていた。
皆は、竹の子と岩魚と山菜と山芋の縄文パエリアのような夕食をたらふく食べ終えた。
そして、一休みした後、太郎が言った。
「おい、やっぱりまだハナは目ざめないぞ、こんな美味しそうな臭いにも目覚めないなんて、やっぱり肉体の中は空だ。さあ、皆でハナを呼びもどそうぜ」
太郎のかけ声に、皆は寝ているハナの傍に集まった。
「おーい、ハナー、聞こえるかーい?早く帰って来ーい!」
太郎の呼び声に続いて、皆もハナを呼んだ。
「ハナちゃん、早く帰って来てー!」
「ハナさーん、待ってるよ、早く帰って来てー、ワンワンワン」
ゴクウやケンまでが、寝ているハナに向って呼び続けた。
しかし、寝ているハナは、何の反応もしなかった。
そのうち、皆は疲れて飽きてきた。
「おい、ハナナよ、本当に天にいるハナに聞こえているのかい?全く返事も反応も無いじゃないか?」
初めは張り切っていた太郎も、少し拍子抜けしてきた。
「ああ、確かにあたいには皆の声が聞こえたわ、一度だけだったけど・・」
ハナナが思い出しながら答えた。
「えっ、一度だけだって?そんなはずはないだろ?お前の時も皆で何度も呼んだはずだ」
「でも、大婆さんとの話に夢中になっていると、気づかないのよ。声が聞こえるって言っても、心に届く声だから、近くで呼ぶような声じゃないから」
ハナナが、そう答えると、太郎がまた発案した。
「えっ、そうなのかい?それじゃ、もっと大声で、しかもここのハナの耳元に向かって呼ぶ方がいいんじゃないかな?なあ、そうだろ?経験豊富な長老さんよ?」
急に言われて長老は慌てた。
「えっ、ああ、そうじゃな、その方が音も大きくなっていいかも知れないな。あっ、そうじゃ!何か大きな音の出る物を叩いたらいいんじゃないかな?」
「えっ、音の出る物?それなら、外で何か探して来るか、いや、もう外はまっ暗だ、あっ、そうだ、焚き木に集めた太い竹がある、これを木で叩けば大きな音が出るぞ」
と太郎が乾いた太い竹を持ってくると、タタロもまねて乾いた丸太を探してきた。
長老も二本の短い木を持ってきて、拍子のように打って音を出した。
「おお、皆なかなかやるな!いいぞ、いいぞ、これだけの音を鳴らせばハナにもうるさいほど聞こえるだろう、さあ、やるぞ!」
太郎のかけ声に、皆はそれぞれ音を打ち鳴らした。
「ドンドン、カンカン、おーい、ハナー、ドンドン、カンカン、早く、帰って、ドンドンカンカン、来ーい!ドンドン、カンカン」
やり始めると、皆は面白くなって大笑いした。
そして、まるでサンバや踊りの音楽のように楽しく嬉しくなってきた。
最後には、久々の祭のような大騒ぎになってしまった。
ハナナは、あまり気乗りがしなかったが、かと言って止める理由も見つからなかった。
「ドンドンカンカン、ドンドンカンカン、ドンドンカンカン!」
皆は、天にいるハナや大婆に届くようにと大騒ぎしているので、その音は寝ているハナの耳を通して天上へ伝わった。
さて、その天井では、
大婆やハナの耳に、その声や音が鳴り続けていた。
「っつたく!何てうるさい奴等じゃ、まるで雨乞いじゃ」
大婆は、ますます機嫌が悪くなっていった。
「あの、大婆さん、私が一度洞窟にもどって、皆に静かにするように言って来ましょうか?」
ハナが言うと、大婆は首を横に振った。
「いや、娘よ、それはまずい、今、お前が帰れば、もうここへはもどって来れないじゃろう」
「えっ、いえ、私はすぐにでも戻るつもりです」
「いやいや、娘よ、それは無理じゃ、皆の願いにお前の心も変わってしまうからじゃ、まあ、それがお前達のいい点なんじゃが・・」
大婆は、少し褒めているようなので、ハナは嬉しかった。
その時、さらに大きな声が聞こえてきた。
「ドンドンカンカン、ハナよ、帰って来ーい、大婆さんが止めていても、帰って来ーい、ドンドンカンカン!」
その言葉に大婆の顔色が変わった。
「えっ、何?ワシが止めているって?誰じゃ?そんな事を言っているのは?この声は、ひょっとして・・」
大婆がハナに聞いた。
「ドンドンカンカン、大婆よ、ハナを解放せよ、ハナを返せ、ドンドンカンカン」
その声は、明らかに長老と太郎の声だった。
洞窟内では、長老が自分の造った酒をこっそり飲んでいたが、機嫌が良くなって、太郎やタタロにも振舞った。
ハナナやゴクウが止めたが、太郎達は聞き入れずどんどん飲んで酔っ払ってドンチャン騒ぎ状態になってしまった。
「ドンドンカンカン、大婆よ、ハナを返せ、魔法使い婆よ、早くハナを返せ、ハッハッハー!」
それを聞いたハナは震え上がった。
案の定、大婆の顔色は真っ青から真っ赤になり、とうとう堪忍袋の緒が切れた。
「娘よ、ワシはたった今、行ってくる、すぐもどるから」
と言うと、突然、大婆の姿が消えた。
「えっ?」あっと言う間だった。
あまりの素早さに、大婆の怒りの大きさを感じ、ハナは震え上がった。
さて、洞窟では、そんな状況も知らずに、長老や太郎達は、相変わらずドンチャン騒ぎを続けていた。
光速より速くワープ移動した大婆は、洞窟の天井付近で、しばらく皆の様子を観察していた。
ハナナとゴクウとケンは、ただならぬ気配を感じて静かに見守っていた。
「ドンドンカンカン、返せ、返せ、ドンドンカンカン、魔法婆よ、鬼婆よ、ドンドンカンカン、ハナを返せ、早く返せ、ドンドンカンカン、ハッハッハー」
長老も太郎もタタロも、大婆が見ている事も知らず、酔っぱらって真っ赤な顔で大笑いしていた。
「おのれ、長老め!」
鬼のような形相になった大婆は、すぐに寝ているハナの肉体の中に入った。
そして、全身に神経が行き渡ると、ムズムズと手足を動かした。
「あっ、ハナちゃんが帰ってきた!」
真っ先に気づいたのは、傍のハナナだった。
「あっ、本当だ!」
ゴクウとケンも驚いて傍に寄った。
太郎達は、相変わらず竹や木株や木拍子を叩いて大声を上げて楽しそうに大笑いしていた。
もう久々の鬱憤晴らしと言う感じで、ハナの変化などは、もうどうでも良かった。
大婆がハナの肉体に入ってから形相が見る見る変わっていった。
「ハナちゃん、大丈夫?疲れたでしょう?」
と優しく肩を起こそうとしたハナナは、ハナの顔の変化に気づいた。
そして、パチッと開いた目を見た時、
「あっ、大婆さんだ!ハナちゃんじゃないわ、大婆さんだわ」
慌てたハナナは、肩を起こそうとしていた手を止めた。
「フン、お前も元気そうじゃ、それにしても、全くあきれた奴等じゃ・・」
と大婆は、はななの手を払って、自力で上半身を起こした。
そして、怒った眼差しで太郎達を見ていたかと思うと、ハナナやゴクウが見守る中、粛然として立ち上がった。
さらに、ドンチャン騒ぎの太郎達をにらみつけていた。
その姿に、太郎達もようやく気づいて、叩く手を止めた。
「えっ?ハナ?」
洞窟内は、突然、水を打ったように静まり、緊張が走った。
「これ、男達よ、何の馬鹿騒ぎじゃ?恥ずかしくないのか?お前達は何をしているのじゃ?」
ハナの顔は、大婆の怒りの顔だった。
それに、声も大婆の怒りの声だった。
「えっ?ハナ?ハナじゃないのか?えっ、いったいどうなっているんだ?」
太郎が途方に暮れ、思わず長老に聞いた。
「えっ?・・ひょっ、ひょっとして?」
長老も言葉につまった。
「これ、長老よ、久しぶりじゃ、分かるか?大婆じゃ」
「・・・?」
長老は、誰か分からない様子だった。
「ああ、もうかれこれ何十年にもなる、お前が若い頃に世話した大婆じゃ」
「えっ、もっ、もしかしたら?」
長老は驚いた。
「そうじゃ、お前が死にかけていた頃、天界で世話した大婆じゃ、もっともその頃は若い姿じゃったが・・」
「・・ひょっとして?」
長老は少し思い出したようだった。
「そうじゃ、遠い昔の事なので、おそらくお前は夢だったのだろうと忘れてしまっているじゃろうが、夢ではなかったのじゃ」
「もっ、もしかして?」
「そうじゃ、お前の魂が天界にいた時に、長居し過ぎて地上の肉体が腐ってしまったのじゃ。それで、ワシが慌てて神様に頼んで、今の肉体を使わせてもらえるように必死に頼んだのじゃ。ずいぶん骨の折れる世話じゃった」
その話を聞いて、ハナナが思わず聞いた。
「えっ、大婆ちゃん、前に聞いた、天に長居し過ぎて帰れなくなってしまった人って長老さんの事だったの?」
「そうじゃ、帰れなくなっておいおい泣き出してしまって、ワシも困ってしまったんじゃ」
すると皆が長老を見た。
「でも、長老さんは、今はこうして元気に生きているけど、どうして?どうなったの?」
すると大婆が面倒臭そうな顔で答えた。
「まあ昔の事で、本人もすっかり忘れてしまっているような顔じゃが、いろいろ苦労したんじゃ。最終的には神様にお願いをして、無理な事を聞き入れてもらったんじゃ」

「えっ、無理な事って?もしかして肉体を元にもどしてもらったとか?」
ハナナが聞いた。
「いや、そんな天地の立法に反する事はできない。その頃、若い村長がたまたま重い病気で死にかけていたんじゃ。そして、村人達が早く治るように祈っていたんじゃ。その村長はもう寿命で死ぬ事が分かっていたんで、その肉体を借りる事ができるように、神様にお願いして特別に許してもらったんじゃ」
「えっ、それじゃ、その村長さんとして生きる事になったの?でも、その村長さんには恋人か奥さんがいたんでしょ?また家族もいたんでしょ?その人達には別人だと分かるでしょ?」
「そうそう、それで、いろいろ考えて、病気の高熱で頭が少しおかしくなったと言う事にしたのじゃ。有り得る事じゃ。
元々、若くして村長になったくらいだからずいぶん賢い人だったんじゃけど、病で愚かになってしまったと言う事にしたんじゃ。
そうすると、頭の程度がこの長老とうまく合う事になったんじゃ。
いやいや、実にうまく解決がついたと言う訳じゃ」
と大婆は、自分の采配のうまさを自慢した。
「・・・・」
話を聞いていた皆は沈黙していた。
「まあ、何はともかく、死ぬ寸前の村長が生き返っった事で村人達や家族は大喜びで、この長老も再び地上にもどる事ができて大喜びで、万事うまく行ったと言う訳じゃ」
とハナの口を借りた大婆の声の話が終わった。
すると、興奮した様子で太郎が言い出した。
「ああ、それで、俺も納得がいった。今まで、どうしてこんな変な人が村の長老なんかになれたんか不思議だったんだ。ふつう長老って賢くて落ち着いていて威厳があるのに、この長老は全く反対だから、どうしてかな?ってずっと疑問だったんだ、ああ、ようやく、その訳が分かった、ハッハッハー」
と太郎が大笑いした。
すると、大婆も笑いながら、付け加えた。
「しかし、恋人や家族には、やはり別人と思われて別れてしまったようじゃが、それは仕方ない事じゃ、信頼を得るための本人の努力が足りなかったんじゃからな、ホホホホホ」
「おい、長老よ、そう言う事だったのかい、おい、黙ってないで何とか言ったらどうだ?」
と太郎が、まるで友達のように長老の肩を叩いた。
長老は忘れかけていた昔の事が改めてはっきりして、有難かったのだけど、太郎や皆の前で愚かさが暴露されてしまって恥ずかしくて何も言えなかった。
「ハナちゃんの中の大婆さん、話過ぎて喉が乾いたでしょう、ちょっとお酒臭いかも知れないけど、水はいかがですか?」
とハナナが差し出すと、大婆は一気に飲み干した。
「ああ、久しぶりに美味しい地上の水じゃった、これで一息ついた・・・そうそう、ワシはこんな長老の昔話をするためにここへ来た訳じゃない。大事な話を忘れるところじゃった、っつたく!」
とハナの中の大婆は長老をにらんだ。
長老は、さらに小さくなった。

(つづく)

ハイハイハイハーイ、いやいや、今日は長老さんのひとり舞台でした。
やはり長生きする人は、いろいろな人生が重なっているもんですね、はい、急ぎますので、これで。
はい、では、またのお運びを願いまして、バイバイバババーイです!