平凡な父のHitori言

平凡なサラリーマンのありふれた道程の記録

シジミのつぶやき夢物語 「選手Kの復活」

2005年08月31日 21時13分59秒 | シジミの夢物語
 ブログの新カテゴリーとして平凡な父の夢、希望、願いを短編小説にすることにしたよ。我が家の誰かさんが、平凡な父のことをシジミ貝に似てるっていうから、シジミのつぶやき夢物語という題名にするよ。記念すべき第一弾は愛する野球夢物語で「選手Kの復活」だ。

 澄んだ湖の水底で小さなシジミ貝がなにかをつぶやいている。プクプク、プクップクッ、そーっと耳を澄まして聞いてみようか。

 ウォ~~~、ウォ~~~と、どよめく歓声の中で、選手Kはネクストバッターボックスの中で、マウンド上の新人ピッチャーTを睨みつけていた。昨年、甲子園球場を大いに沸かせ、150キロを超えるストレートで三振の山を築いた甲子園のヒーローである。

 九回の裏、ワンアウトから味方のエラーで一塁ベース上にランナーがひとり。今まさに前のバッターが自慢のストレートで三振に討ち取れた場面である。スコアは1対0、まさに最少得点差だ。Kはゆっくりと右バッターボックスに向かおうとしている。そんな刻、Kはひとり、去年のシーズンを思い出していた。

 在京の人気球団でクリーンナップを打ち、ファンからはいつも大きな声援をもらい、登場のときには球場中にKのテーマナンバーの歌声が鳴り響いた。ところが、優勝を期待されたにもかかわらず、開幕当初からチームの不振が続き、最下位寸前の惨状だった。自らの膝の怪我やたび重なる内角攻めのデッドボールにより、打撃不振に陥り、チーム不振の責めを一身に受けた。八月からはレギュラーをはずされた。

 そのシーズン後自由契約となり、安い年俸にもかかわらず、東北の弱小チームRに移籍したのだった。もう限界だ、態度がデカク使いにくい、とか散々マスコミに叩かれ、もうどこも行くところがないと覚悟したが、東北の弱小チームのオーナーの「高い年俸は払えないけど来てもらえないか」の一声で決心したのだった。とにかく野球が好きだった。野球がやりたくてたまらないのである。

 「つい去年のことなのに遠い昔のようだ」ひとり、心の中でつぶやき、バッターボックスに入った。軽く一度素振りをし、ぐっとピッチャーTを睨んだ。Tは怯むことなく澄みきった眼で睨み返してきた。一塁にランナーがいるにもかかわらず、大きく振りかぶり第一球目を投げ込んだ。真っ白なボールがうなりを上げ向かっていく、まさに火の玉だ。さあこれから名勝負の幕開けだ。

 残念ながら続きは明日だよー。プクプク。