最近山登りに興味がわいてきて近くの山に登ったりしている。一応登山靴をはいて、着るものも綿ではなくすべて化繊、汗がすぐ乾くように配慮する。とは言っても登る山は500メートルくらいだから、一時間くらいしかかからない。気温が25℃くらいあれば、頂上に着くころには結構な大汗をかいているから、頂上を吹き抜ける風で結構な爽快感を感じることができる。
里山に登るくらいなら一人で登山してもそれほどの問題もないのだろうけど、高い山になると何人かのパーティで行った方が良いと聞く。何せ相手は自然である。道に迷ったりけがをしたりと、予想していなかった事態が起きた時に、皆で力を合わせることができればどれだけ心強いだろう。複数の人が登山する時には、一番後ろに最も経験を積んだ人がつき、先頭で2番目に経験を積んだ人がリードするのが良いとされている。私のようなシロウトは、彼らエキスパートの間に挟まれて歩くことになる。こういう最後のポジションを「しんがり」という。そういえば、戦国時代、負け戦で撤退を余儀なくされた時に、最後に撤退をする部隊のことも同じように「しんがり」という。言うまでもなく、追ってくる敵の攻撃に直接さらされる最も危険なポジションである。
登山でも戦でも「しんがり」に求められる資質とはなんだろう。参考文献によれば、「誰かに犠牲が集中していないか、リーダーが張り切りすぎて皆ついていくのに四苦八苦しているのではないか、そろそろどこからか悲鳴が上がらないか、このままで果たしてもつか、といった全体のケア、各所への気遣いと、そこでの周到な判断」をすることなのだという。
ビジネスの世界では、リーダーに求められる資質の話がいつもされている。現代のような先行き不透明な時代には、なおさら遠くを照らすことのできるリーダーが求められている。ビジョンを描き、そこに向かって邁進する姿こそが、現代のビジネスリーダーに求められる資質なのである。
でも、日本の人口はピークを越え減少に転じて久しいし、シニア世代の人口比率がどんどん高くなって、世界有数の老人国になりつつある。東京と地方の格差もどんどん広がるばかりだ。もちろんグローバル化で海外に活路を見出すこともあるかもしれないが、当然リスクも高い。そんな中で、「ダウンサイジング」や「撤退戦」というシナリオもありという考え方を社会全体で考える必要があるのではないかというのが、参考文献の著者、元大阪大学学長である鷲田氏の主張であり、そういうシナリオの中では、リーダーよりもフォロワー、あるいは「しんがり」の立ち位置が重要なのだという。「リーダーに、そしてシステムに全体をあずけず、しかも全体をじぶんが丸ごと引き受けるのでもなく、いつも全体の気遣いをできるところで責任を負う、そんな伸縮可能なかかわり方」、それは上位下達や指示待ちの対極にある行動様式であるとも言っている。これからの時代を生きているためのヒントになるのではないかと思った。
参考文献:鷲田清一、しんがりの思想(反リーダーシップ論)、2015、角川新書