最近、手塚治虫の漫画を2つ読みました。
どちらも暗くて救いがないのですが、名作だと思います。
まずは『MW』。
映画化!ということで、うちの本屋さんでも山積みになっています。
バイト仲間から「BL(ボーイズラブ)なんですよ~(萌)」的な話を聞き、手塚治虫ってBLも描くんだ~という興味から読んでみました。
いえ、BLって読んだことがないんですけど。
エライ漫画でございましたよ、コレは。
■■「MW」という毒ガスが漏れたことにより島民が全滅したかにみえた島で生き残った二人の少年。成長した彼らのうち、一人は神父になり、もう一人は希代の悪者となった。悪者になった青年・結城は、自分の人生を狂わせた「MW」に関係した人々を、手段を選ばす調べ上げて復讐していく。「MW」の後遺症で自分の命が残り少ないと感じた結城は、最後にさらに恐ろしい計画を実行しようとする。少年のころに結城を犯し、そのまま同性愛の関係になっていた神父・賀来は、結城を救い、計画を止めようと画策するが…。■■
とにかく悪い男です、結城。
美貌をいいことに、男でも女でも誘惑します。
そして、人を殺すことにためらいがありません。
復讐を遂げるひとつの手段として奥さんを殺すのですが、身元がすぐにバレないように、手首から先を切り落とし、顔を焼き、新幹線に轢かせるということをサラッとやってのけるのです。
また、誘拐した子供を殺したり、一家心中につながるようなことをしでかしたり、彼の非道さは、まったくフォローのしようがありません。
「MW」は戦争のために作られた毒ガスです。
その毒ガスによって人々が無残に死に絶えた様子を目の当たりにし、さらに脳を侵された結城が悪の塊のような人間になったということ。これは、人間の悪意が、悪意そのもののような人間を作り出したのだということではないでしょうか。
かなり後味の悪いラストですが、私にはものすごく面白い漫画でした。
MW(ムウ) (1) (小学館文庫)手塚 治虫小学館このアイテムの詳細を見る |
もうひとつは『奇子』。
『MW』が面白かった!という話をしていたら、バイト仲間に勧められたので読んでました。
■■GHQ占領下の日本。復員してきた天外仁朗を故郷で待っていたのは、乱れ切った家族の姿だった。自分がいない間に生まれた妹・奇子(あやこ)は、父と兄嫁との間に出来た子であり、兄は妻を父に差し出すことで、財産を得ようとしていた。仁朗はGHQが絡んだ犯罪に加担するが、その証拠となる出来事を女中と奇子に見られ、女中を殺してしまう。一族から犯罪者が出ることを恐れた兄は、仁朗を逃がし、奇子を死んだことにして土蔵に幽閉する。20年後、ようやく外に出た奇子は…。■■
農地改正や下山事件を絡めて、戦後を舞台に地方の旧家を描いた、『MW』同様に救いのない漫画です。
旧家の主のものすごい権力と影響力、そして一族の繋がり、それは良い方向に進むこともあるのでしょうが、ここでは旧弊が描かれます。
息子の妻を求める父親。そして妻を差し出す息子。身内から犯罪者を出したくないばかりに、幼い子供を死んだことにして土蔵に幽閉することに異を唱えない一族…。
土蔵の中の奇子は「出たら殺される」と言い聞かされ、外に出ようと言われても恐ろしくて出ることができなくなります。彼女が一番落ち着くことのできるのは、暗くて狭い土蔵のなかになってしまったのです。
他に男性を知らない奇子は、土蔵に食べ物を持ってきてくれるすぐ上の兄(仁朗の弟)と近親相姦の関係になります。土蔵から出たあとも、男性への好意をそういった行為で表わそうとします。他に手段を知らないのです。
何が奇子を歪めてしまったのか、それはやはり一族の持つ歪みなのでしょう。
最終的に、奇子は外に出ることができるのですが、その後の彼女の辿る運命と、一族の陰惨な結末…。
本当に救いのない漫画です。お勧めできませんが、お勧めします。
奇子 (上) (角川文庫)手塚 治虫角川書店このアイテムの詳細を見る |