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福島第1原発事故に関する事実

2011-03-18 13:17:10 | 日記

福島第1原発事故に関して事実を整理して報道する新聞を見かけない。
政府発表はこうだったとか、専門家の意見はこうだというものばかりでその意見の根拠も示されていない。
従来より、日本の新聞社には科学的なあるいは論理的な考え方が欠けているという恐れを抱いていたが、肝心な時を迎えても少しも改善が見られない。

アメリカの各新聞にはわかりやすい図説が出ているので紹介しておく。
まずはウォールストリートジャーナルの原子炉の損傷状況についての図説から。

See Reactor Status: 原子炉の状態 
(上段から、使用済み燃料貯蔵プール、建屋、格納容器、燃料棒の順)
色について。
赤:損傷もしくは溶融
橙:損傷の可能性
黄:過熱
白:異常なし

これを見ると、3号炉、4号炉がもっとも逼迫していることがわかる。
高放射線源は4号炉だ。
5号炉、6号炉も日本での報道は少ないが危険な状態だ。
冷却装置が働いていない上に、その修復が高線量の放射線に阻まれて思うようにいかないからだ。
実際、5号炉では59˚C、61˚C,63˚C(16日)と連日水温上昇が見られる。
沸騰する前に対策を講じることができるだろうか?
少なくとも、水温(事実)を正確にまたリアルタイムで公表していくべきだ。

次に放射線量について、ニューヨークタイムスから
このリンク上の数字(右端)は毎時あたりの線量をミリシーベルトで表している。(多くが正門前の測定値)
ちなみに自然被曝量はおおよそ年間2ミリシーベルト(毎時1万分の2ミリシーベルト)だ。
言い換えると右側の数字「2」は自然界の1万倍の高線量と言うことになる。
東電の発表ではあるが少なくともこれまで5回ほど、敷地外で毎時2ミリシーベルトという莫大な量が観測されている。
以前より予測されていたとおり、炎が上がると、線量が増大することもわかる。
敷地内ではこれらとは比べものにならないくらいの線量が観測されているはずだ。
東電が人員撤退を決めたのは当然の判断だった。
「撤退はあり得ない」と檄を飛ばした首相は特攻隊でも率いているつもりなのだろうか。

最後に、保管中あるいは使用中だった核燃料の数(量)について。
1号炉:原子炉内に400本+使用済み292本 (プール内に50トン)
2号炉:原子炉内に548本+使用済み587本 (プール内に81トン)
3号炉:原子炉内に548本+使用済み514本 (プール内に88トン)
4号炉:原子炉内に0本+休止中548本+使用済み931本(プール内に135トン)
5号炉:原子炉内に548本+使用済み826本 (プール内に142トン)
6号炉:原子炉内に764本+使用済み1136本 (プール内に151トン)

この事実を前にして思うことは放水車での水の補給(せいぜい数十トン)がどれだけ効果があるだろうかという疑問だ。
高校で物理を習ったことがあれば理解できると思うが、数百トンもの過熱した核燃料を数十トンの水で冷却しようという試みはまさに「焼け石に水。」
白煙(水蒸気)があがって終わるのではないか。
むしろ、最悪の事態について議論するのを避けるための時間稼ぎに見えてくる。

政府関係者は現場でがんばっている人についてどう考えているのだろか。
事故初期の判断ミスを他人に押しつけている現政府に幻滅した。
放射線量が毎時数ミリシーベルトという劣悪な環境で必死に戦う彼らの身が案じられてならない。

災害対策全体にも同じことが言える。
野党も沈黙を続けているし、日本政府としての意志決定システムも機能していないように見える。
陣頭指揮をとろうという人もいない。
被災者支援も草の根活動に頼っているが実情だ。


福島第一原発周囲の放射線量

2011-03-18 00:33:38 | 日記

アメリカ軍が Global Hawk drone (無人飛行機)と Dragon Lady (高飛行高度機 U-2)を飛ばして福島第一原発の周囲で放射線量を測定した。

Drone: 

U-2: 

 

その結果、NRCのヤズコー委員長が勧告した半径80kmの避難圏を維持するべきとの結論を出した。
日本政府の発表では、「諸外国は保守的な基準を取っているだけで理解できる」としているが、むしろ日本政府の対応が理解できない。
実際、原発より30kmの地点での放射線量は、全身で年間の自然被曝量 (0.62 rem) の2倍、甲状腺で8倍 (5 rem) の被曝量に達している。
これをもって安全と判断するか否かが問題だ。
日米両国で放射性物質を取り扱ってきた経験からすると、自分の家族が30km圏に住んでいたら、もっと遠くへ逃げろと懇願するだろう。
放射線障害には線量の閾値がないからだ。

日本政府の言う、「健康に影響を与えない線量」というのはそもそも存在しない。
自然被曝量でも影響はある。
それに比べてどのくらい影響が大きいかが問題になる。
つまり、「自然被爆によって生じる放射線障害と差がない」というだけに過ぎない。
5レム(50ミリシーベルト)という被曝量は出来れば避けたい。

アメリカ軍は、北朝鮮の核施設のモニターや、核兵器の使用に備えて、様々な機器を有している。
米軍は、要請があればいつでも協力すると言っている。
日本政府はどうしてそう言う機器を借用しないのか。
さらに、4号炉のプールに残存する水量の確認も可能だと断言する。
さすがに日本政府に無断で原発に近づくことは出来ないらしい。
アメリカ政府は収集可能な情報を得る事が出来ないことに対していらだちを隠していない。
「自分たちは(水の有無についての)疑問に(日本より)もっとはっきりと答える事の出来る技術と機器を持っている」(Jeffrey Lewis)
“I’ve got to think that, if we put our best assets into answering that question, we can do better”

原発内のいかなる作業も高線量放射線との戦いなので困難となっている。
この時点で既にチェルノブイリに次ぐ歴史に残る大事故だ。
東電は電力回復に全力を尽くすと言っているが、「どうしてもっと速くこの手を打たなかったのか?」という疑問が出てくる。
電力が回復しても、冷却装置自体の機能が回復する可能性が低いと判断しているからではないか?
アメリカの専門家も厳しい見方をしている。
「今、福島原発で行われていることは最後のあがきに近い。とりあえず何でもやってみる。危機管理と言うより、神頼みだ」
“What you are seeing are desperate efforts — just throwing everything at it in hopes something will work. Right now this is more prayer than plan.” 

東電の職員が「4号炉には燃料が完全に水没するくらい水がある」と証言しているが、放射線量の測定値と矛盾している。
アメリカ軍が収集したデータは使用済み燃料の空気中への露出を示している。
最近の「神頼み作戦」では核燃料の温度が下がっていない。
衛星からのデータを持っているアメリカ政府は4号炉について、「使用済み燃料が水の枯渇で露出してしまっている」として最大の関心を寄せている。
("the spent fuel pool there has run dry, exposing the rods")
3号炉についても、格納容器の損傷による放射線漏れを疑い、プールの水温も依然として高いとしている。
”Reactor No. 3, which has been intermittently releasing radiation from what the authorities believe may be a ruptured containment vessel around the reactor. Temperatures at that reactor’s spent fuel pool are also high.

ヨウ素−131セシウムー137の検出も悪材料だ。
特にセシウムは半減期が30年なので、出火によって飛び散れば数世紀にわたって住むことの出来ない地域が生じてしまう。

他に打つ手が無く、窮して一か八かの作業しているとすると、我々は祈るしかない。
後は、日本政府であれ、アメリカ政府であれ、プールの水温や原発周囲の放射線量を正確にモニターして、大惨事が起こる前に警告して欲しい、と願う。
この意味でも、最低80km以上の緩衝地域を持ちたい。