"Little Bee" は二人の女性、16才の少女 (Little Bee) とジャーナリスト (Sarah) を中心に語られる。
同じ場面をそれぞれの目を通じて描き直す手法も用いられている。
物語はイギリスの入国管理センター収容所から始まる。
自らを "Little Bee" と呼ぶ16才の少女はナイジェリアからの難民だ。
彼女は収容所を出てナイジェリアの浜で一度だけ会ったことがあるジャーナリスト夫妻を訪ねていく。
ナイジェリアで何があったのか?
そして浜辺で起こった凄惨な事件とは。
物語の前半には読者を惹き付けるだけのストーリーが織り込まれ、独特の語り口と相まって興味を失わずに一気に読み進めた。
本の半ばを過ぎた頃から、様子が一変する。
何気ない出来事が積み重ねられ、進展のない話が堂々巡りを始める。
大団円を迎えると思われた最終章は意外な結末に終わり、呆然とさせられた。
土壇場でのどんでん返しといえば聞こえが良いが、真実は拍子抜けである。
題材、テーマ共に面白いだけに、もっと強烈に訴えかける小説に仕上がっても良かったはずだ、と残念でならない。
人は肩書きや社会的地位を失って裸になった時本来の姿を現す、というテーマを持った小説なら、Suite Française (Irène Némirovsky) の方がずっと洗練されている。
目に見えない恐怖に追われているサスペンスというわけでもない。
筆者がインタビューで答えたように、パスポートはIDとなるばかりでなく、国外で持ち主を守る力となる。
バックに国の支援があるからだ。
パスポートのない難民はどうなるのだろうか?
この小説を書き始めるきっかけはこの疑問からだったという。
筆者の意図したテーマは Globalization と Passport だったかもしれないが、この小説の真骨頂は Little Bee と Sarah の関係にある。
決して同じ側に立っているわけではない二人が助け合おうと思った理由。
そして、そのための努力と障壁。
二人は何とか乗り越えようと苦闘する。
この辺りの描写が最も胸を打つ。
この小説のポイントは秘密が少しずつ明らかになる点にもあるので、これ以上筋書きを暴露できない。
「とても光っている部分を持ち、面白い題材を上手に語り始めながら、尻すぼみに終わってしまった駄作」というと厳しすぎるか。
読みやすく書かれている点と、目の付け所の良さを勘案して三つ星かな。
★★★☆☆