最近の出来事

ニュースや新しいテクノロジー、サイエンスについて感じること。

「小さな命が呼ぶとき」 (Extraordinary Measures)

2011-03-07 00:12:47 | レビュー
昨年見逃した Extraordinary Measures を見る機会に恵まれた。
不治の病に冒された患者の周囲で起こる人間ドラマだ。
この映画の特色は、現実味にある。

まず、グリコーゲン代謝に異常を来すポンペ病の描写が正確だ。
病因は、GAA遺伝子の変異によってその産物である Alpha-1,4-glucosidase (酸性マルターゼ)酵素機能に異常を来すことにある。
細胞レベルでは液胞内で処理されるはずのグリコーゲンが分解されずにそのまま貯蔵される。

変異の種類によって酵素機能が異なり、発症時期や重症度に差が出てくる。
乳児発症型や重症例では酵素欠損が普通だ。
従って、欠損或いは機能低下している酵素を補うというのは自然な発想で、どうやって酵素を細胞内に導入するかが最大の難関だった。

ハリソン・フォードが演じるウィリアム・カンフィールド博士(映画の中ではストーンヒル博士)はERT(酵素補充療法)用の酵素開発に専心している。
彼の理論によれば、酵素蛋白を過剰にリン酸化することによって細胞内への移行を効率的に行わせることが出来るという。
現実に、彼の研究成果が Genzyme によって商品化され世界中で糖源病 II 型(ポンペ病)の標準治療薬 (Myozyme/Lumizyme) 開発につながった。
映画の中でも Phosphorylation (リン酸化)という言葉が頻出する。
この辺りにもハリソンフォードの Scientific accuracy (科学的に正確な映画)に対するこだわりを見た。

映画内の主人公ジョン・クロウリー(ブレンドン・フレイジャー)がカンフィールド博士と共に苦労しながら新薬を開発して、新たなバイオテック会社を立ち上げる事実は、ハーバード大学ビジネススクールのケーススタディーとして使われていることを見てもわかる通り、サクセスストーリーの一つとして広く語り継がれている。
その話を、人情ものとして描いたのがこの映画だ。

まず、この映画で扱われているのは小児型の症例だが、患者ミーガン(ジョンの長女)は愛らしく描かれ、必死で病気と闘うまなざしに共感を覚え無い人は少ないだろう。
メーガン役のメレディス・ドローガーが堅実な演技で見る人を惹き付けている。
映画の中で両親が全てを投げうって、また多大なリスクを冒してでも娘と共に戦おうと決断しているが、ミーガンの描写の効果か、この筋書きに違和感を覚えない。

俳優陣を見てみよう。
母親アイリーン役のケリー・ラッセルは好演だ。
会社を辞めてでも、娘と共に病気と闘うジョンをしっかり支える賢母が似合っていた。
ハリソンフォードは久々の非主役だが、見ているだけで楽しい。
彼の名前がクレジットの冒頭に登場しないのはおそらくスターウォーズ・エピソード6以来だ。
残念なのは、主役のブレンドン・フレイジャーが力不足な点。
他と比較されるので評価が厳しいのは可哀想だが仕方がない。

監督は、作品をうまくまとめた。
下手をするとただのセンチな映画になるところを心温まるストーリーとして語ってくれた。
オリジナリティーに欠ける点はあるが、力のある監督だ。

★★★☆☆