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日本政府の放射線基準 (福島第一原発事故の処理)

2011-04-29 11:41:08 | 科学

小佐古敏荘(こさこ・としそう)・東京大教授(放射線安全学)が 内閣官房参与を辞任した。
日経朝日読売毎日

主張を見ると納得できる。
未成年の年間許容線量は総量5ミリシーベルトとする国が多い。
この数値には自然被爆と人工被爆の両方が含まれている。
自然被爆は年間3ミリシーベルトで、人工的な被爆(レントゲン写真など)が1ミリシーベルト弱。
従って許容されるのがあと1ミリシーベルトとなる。
ちなみに上記NRCサイトではミリシーベルトではなく mrem を使用している。
(100 mrem = 1 mSv: ミリシーベルト)

どうして、政府が20ミリシーベルトという非常に高い数値を選んだのかが理解できない。
政治家ならともかく、良心的な科学者がこの数字を出してくるとは思えない。
「自分の子どもをそんな目に遭わせるのは絶対に嫌だ」と訴えた小佐古教授の本音に同感だ。
ジャーナリスト達も勉強して、この基準の危うさを市民に訴える責務がある。
これからの世代に対する影響を決定するという意味で看過できない。
日本の将来にとって重大な意味を持っている。

放射線の単位には色々あるので混乱する人もいるかもしれない。
ここに簡単にまとめてみたい。

  • グレイ (Gy) :国際単位(SI)= J/Kg
    1kgの物質に1ジュールのエネルギーを与える線量。
    これを基本にして他の単位を考えたい。
    ちなみに、病院の放射線治療ではこの単位を使うことが多い。
  • ラド (rad) :昔よく使われた。単に1/100グレイ (1 Gy = 100 rad)
  • シーベルト (Sv) :国際単位(SI)= J/Kg
    グレイに似ているけれど少し違う。
    人に対する影響という観点で決めている。
    1グレイのレントゲンと同じくらい人に悪影響を与える線量。
    線の種類によって人が受けるダメージが違うことによる。
    例えば、アルファ線ならダメージが20倍なので1グレイが20シーベルト。
    一方レントゲンなら1グレイが1シーベルト。
  • レム (rem) :単に1/100シーベルト (1 Sv = 100 rem)
    単位が大きいので実際には mSv (0.001Sv), µSv (0.001mSv), mrem (0.001rem) などが使われる。
  • レントゲン (R) :1ccの空気を 1 esu (電気量)電離できる線量。
    今ではほとんど使われない。

細かいことは抜きにして、放射線量はエネルギーの大きさで表されると考えて良い。
それを物理学的に(グレイなど)表すか、生物学的に(シーベルトなど)表現するかの違いだ。

 

 

サイエンス・プロジェクト

2011-02-19 20:17:03 | 科学
ようやく爪楊枝の橋も完成し (Math Project) 残るは二つ。
社会学はよく分からないので放っておくとして、サイエンスは手伝うことに。
丁度、電場・磁場の勉強をしているというので、少しでも理解の助けとなるようにコインソーターを創ってみることにした。

目的は一つ。
アメリカのコインは磁石に引き寄せられないが、磁場内を移動する時には力を受けるということを実感させたい。

まず合金組成を調べさせた。
鋳造局のデータから:

Penny: copper plated zinc

Nickel: 75% copper and 25 % nickel

Dime: 92% copper and 8 % nickel

Quarter: 92% copper and 8 % nickel

まず、それぞれのコインを磁場の中で転がしてみる。



ダイム(10セント)とクオーター(25セント)はかなり減速する。
ただ、組成が同じなので減速具合に差がない。

ニッケル(5セント)は全く影響を受けずに磁場を突っ走る。
ペニー(1セント)はクオーターとニッケルの中間だ。

これはかなり有望な結果だった。
クオーターとダイムは大きさがかなり違うので、十分減速すれば受け皿の部分で区別が可能だ。

コンセプトモデルを作ってみた。
ボルトとクリップだけで組み立てたのでいかようにも改変できる。



(動画のリンクを貼ってみた)

一応、仕分けが出来ている。
後は、見せ方だ。
とりあえず、液体の磁性体を買ってきて磁力線を目に見える形でプレゼンするようにしよう。

既に一定の電場は電気負荷に差がある定常状態で(動かない時に)生じることは習っている。
これを使って、磁場は電気的付加のある物質が移動する時に発生する、ということを体験させたい。
磁石にくっつかないクオーターが磁場内を移動しようとすると強いブレーキがかかるのを見ればきっと理解してくれる。



進化論とID(インテリジェント・デザイン)

2011-02-07 20:17:12 | 科学
少し気づくのが遅れたが、先月末のサイエンスに気になる記事が出ていた。
"Defeating Creationism in the Courtroom, But Not in the Classroom" M. B. Berkman and E. Plutzer
Science (2011) vol. 331, pp. 404-405

アメリカの高校では積極的に進化論を教える生物学の教師は28%に過ぎない。
さらに、13%もの先生が創造論を教えるというのだ。
大多数(60%)の教師は、当たらず障らずという態度を取っているという。

2005年にあったペンシルバニア州ドーバー学区での裁判沙汰は、ID側の全面敗訴に終わっている。
判決を要約すると「IDは創造論そのものであり、公立学校で教えるのにふさわしくない。」ということになる。
つまり、宗教の分離を謳う憲法に反するというのだ。
まさにその通りなのだが、 Discovery Institute 自体もは聖書が絶対だという態度を取りつつ、自分たちは宗教とは関係ないという。
今でも活発に科学の名のもと布教に専念している。

この有名な裁判 (Kitzmiller vs. Dover Area School District) が記事の題名の前半部分だ。
それを前提として、タイトルの後半を考えなければいけない。
ID(キリスト教の神が世界を作ったという説)を学校で教えるのは憲法違反だという司法判断が出ているにもかかわらず教育現場では未だにIDを教えようとする教師が少なからずいるというのだ。

アメリカはキリスト教の国だからどうしてもそういう圧力があるのは分かるが、IDを科学と呼ぶことにやはり抵抗を感じる。
ID論を唱える人の1/3は生物学をきちんと履修しているというのも驚きで、啓蒙すれば進化論を学校で教えやすくなるというものでもないことが分かる。
要するに信じたくないのだ。
まさに、宗教は人を盲目にさせる。

爪楊枝で造る橋(3)

2011-02-04 22:14:49 | 科学
爪楊枝で橋を造るプロジェクトの続き。

1週間かかって試作モデルが完成したので、ビデオで撮影しながら壊してみた。
1週間の苦労が何分の1秒かで水の泡となる。
少し寂しいが仕方がない。

ビデオでよく観察してみると意外な発見があった。
少し考えれば分かることだが、圧迫する力と引っ張られる力の2種類がある。
重さを下から支えることばかり考えていたので上に引っ張り上げる力が必要なことをうっかりしていた。
爪楊枝を木工用ボンドでつないだだけでは張力に抵抗できない。
思ったより簡単に壊れてしまった。



まず青色矢印の部分が張力で外れた。
続いて桃色矢印の部分が同様に張力に負けている。
そして、緑色矢印の部分で竜骨が折れた。


時間がないので大きな欠点だけ改善していることに。
どうしても対処しなければいけないポイントは次の2点。
一つは「まず加重を分散させる」仕組みがうまく働かなかった点。
もう一つは、張力を押さえるための強度が足りない点。

前者に対しては加重点にトラスを使って5x5cmくらいの領域で加重を受けるようにしてみる。
後者に対しては、揺れに対する抵抗力は不要なので硬直した構造にして、張力が最もかかるところを3角形につる構造に代えてみる。

あと1週間しかないので、次の作品を使ってぶっつけ本番としなければならない。
少し不安もあるがどうなるか楽しみ。


爪楊枝で作る橋(2)

2011-01-30 19:29:56 | 科学
今日は実際にアーチ橋を作ってみた。
(未完成)

短いアーチが二つ。
長いアーチが1つ。
短いアーチをつなぎ合わせて下の台を作るところまで。

平らな爪楊枝の両端の幅が違うので2枚張り合わせて部品をつくたが、作り置きの分を使い尽くしたので終了。
明日のために、材料作りに励む。
思っていたよりも丈夫だ。
うまく組み合わせれば、橋の形を残したままで十数キログラム重はいけそうだ。

コーティングと前処理が禁止なので、中国製の平爪楊枝750本で目標は15キログラム重としておこう。
今日スペイン製の平爪楊枝を買ってくるので、それで20キログラム重を目指す。

爪楊枝で作る橋

2011-01-28 21:39:29 | 科学
小学校4年生のプロジェクトで、つまようじと木工用ボンドだけで橋を造るという課題が出た。
長さ30cm、幅5cm、高さ5cmの箱を乗り越える形でなおかつ橋の幅が箱の幅より広くなければならない。
橋の総重量をはかり、どれだけの重さを支えられるかを測定する。
効率(支えられる重さ/橋の重量)が一番大きい橋を作製した人が優勝。

ひもを使えないので吊り橋は難しそうだ。
三角錐を組み合わせたアーチ橋も考えたが重くなりそうだ。
横からの力を無視して良いので細長ピラミッド啓のアーチ橋を試作することになった。

中央にかかる荷重を均等に分散させることが難しい。
どうやら三角関数が必要だ。
直感で肋骨部は60度と鉛直とすることにして、ドラフトを作ってみた。



左が横から見た図で、右が正面から見た図。
下のアーチは正面から見ると3角形、上から見ると4角形となっている。
上のアーチは下のアーチと同じ曲線で長さが違うだけ。
下のアーチから3角形の形で支柱が伸びている。
どうだろうか?

専門家ではないので、アーチがどの曲線にするべきかが分からない。
衛星のアンテナのように放物線?それとも円弧?指数曲線?三角関数
全く無知である。
いくつか、実際の橋の写真を検索してみたがよく分からない。

支柱についてもどう配置すれば均等な加重分散になるかが分からない。

かくなる上は、模型をいくつか作って試行錯誤するしかない。
橋の壊れ方を見て工夫するか。

デニソバ人

2010-12-24 02:19:11 | 科学
シベリアのデニソバ洞窟で発見された化石のDNA解析の結果が 12/23 付けの Nature に出ていた。
いくつか面白い点があった。

デニソバ人はネアンデルタール人との関連が深いのでこの点をまずまとめてみよう。

ネアンデルタール人は数十万年前、歴史に登場した。
その後、イベリア半島にある洞窟で2万数千年前に生活していた痕跡を最後に歴史から姿を消している。
絶滅したのだ。

分子生物学の手法を使った解析で、以下のことがわかっている。

ネアンデルタール人は現世人類とは独立してアフリカから出てきた。
シベリアからヨーロッパまで広いところに分布するようになったが、中東に残っていたグループは、後から出アフリカした現生人類と混血している。
2010年5月のサイエンスの記事によると、現代人は1-4%ほどネアンデルタール人の血を引いているという。

さらに今回の記事には、クロアチアやロシアから発見されたネアンデルタール人のDNA解析で遺伝上のボトルネックがあったことがわかったと書かれている。
つまり、Effective Population (子孫を残すことに参加する人の数)が急激に減少して、遺伝的多様性が失われたということだ。
このような状態になると環境の変化や疾病の流行に対する適応力が衰え、絶滅の危険性が増加する。
例えばチーターがその例だ。
チーターの個体間では移植時の拒絶反応も起きないし、異常な精子の数も大変多い。
未だに生き残っているのは奇跡といえる。
ネアンデルタール人が地球上から姿を消したことと関係があるかもしれない。

一方、同じネアンデルタール人類に分類されているデニソバ人はこのボトルネックを経験しいない。
前述のネアンデルタール人はデニソバ人と分岐してから急激な人口減少が起こったと考えられる。
人口減少の原因については、火山説や戦争説などいろいろあるが、いずれの説も推定だけで決定的な証拠を持たない。

さらに、現在のメラネシア人には多くデニソバ人の遺伝子が存在し。10%以上もの混血状態が続いている。
ニューギニア人は出エジプトを経験しておらず、アフリカ南部から直接東向きに航海したという説も一部にはあったが、ニューギニア人の遺伝的特殊性はこのデデニソバ人混血説で科学的に説明できる。
地球上から消滅したと思われていたネアンデルタール人の遺伝子が脈々と受け継がれていた。

結論としては、まずネアンデルタール人の一部が出エジプトした。
彼らの一部は中東に残り、一部は遠くシベリア周辺まで進出した。
ネアンデルタール人の出エジプトはその後も続き、現生人類が10万年ほど前に出エジプトするころには中東からヨーロッパ、東アジアにまで広く分布していた。
現生人類は中東でネアンデルタール人と希に混血しつつ世界中に広がった。
東アジアでは、デニソバ人(ネアンデルタール人)と現生人類の混血も見られ、一部がニューギニアで生存している。

数万年前にネアンデルタール人は人口減少を経験しその後、南ヨーロッパを除いて絶滅する。
デニソバ人も、東アジアでは生き残れなかったようだ。

以上のように、現代人類 (homo sapiens) の歴史を一瞥することが出来る。
失われたと思った遺伝子が見つかる話はクニマスにも似ており、生命活動の不思議を感じる。


神経細胞

2010-11-29 23:00:29 | 科学
神経細胞を撮った写真集が出版された。
その写真の一部がニューヨークタイムスで紹介されている

その中から、プルキンエ細胞を見てみたい。



Fluorochrome (蛍光タンパク質と標識タンパク質を使ってプルキンエ細胞だけを染めている。
その他の細胞が写らないので解剖学で習ったとおりの形態と配列がはっきりと観察できる。

狂犬病のウィルスを利用して、一個のニューロンとそれに接続している神経細胞を染めた写真もある。



中央の桃色の細胞が元の細胞。
それに直接接続している細胞が黄色で描出されている。

DNAの構造解析でノーベル賞を受賞したフランシス・クリックは後に、神経科学に転向したが、「今の神経学に欠けているのは一つの細胞から直接情報を得ているいる全てのニューロンを染め出す技術だ。」と記している。
これがまさにその技術だ。

これらの写真には不思議な魅力があると思うのは自分だけだろうか?






パンダ

2010-11-28 22:49:19 | 科学
ワシントンにいるパンダは元気がいい。
今日は活発に動き回り朝食を摂るパンダを見ることが出来た。
目の周りの模様の形と鼻に入っている白い筋の数で名前がわかるらしい。



東京でパンダが見られなくなってどのくらいだろう?
来年の春には新しいパンダがお目見えするらしいが。

白黒模様の熊は子供達に人気があるようだ。
ワシントンでも数組の親子連れがパンダを見ていた。
他の動物はせいぜい1-2組が眺めていれば多い方なので、人が集まっているといえるだろう。
日本では考えられないが。
昔パンダ舎の前では「立ち止まらないでください」と声をかけれれながらパンダを一瞥した記憶がある。
こんなにゆったりと、また時間をかけてパンダを鑑賞できる環境は恵まれている。
しかも入園料は無料だ。

それにしても、よく見るとパンダは結構怖い顔をしている。

銀河系の秘密

2010-11-13 12:34:48 | 科学


先日のNASA記者会見でこれまで知られていなかった不思議な構造が見つかったと発表された。
フェルミ望遠鏡(ガンマ線宇宙望遠鏡)での観測結果を解析したら、銀河系の中央からガンマ線が両軸方向に放たれ、まるでシャボン玉が2個吹き出しているかのように見えるということだった。
このガンマ線は弱い光 (Photon) と電子が衝突して発生していることまでは知られているが、この電子がどこから来たものかは不明だ。
高さは2万5千光年(銀河系の半径の半分弱)もあり、せいぜい数百万年程度の年齢で比較的新しい構造だという。
何よりも、その境界が鮮明であることがこのバブルの謎を深めている。

物理学者の間ではこの構造について、「爆発的星形成 (starburst) の際に放出されるエネルギーが変換されたものだ」とか「銀河中心部のブラックホールから放出されていたエネルギーの名残だ」などと、様々な推測が述べられている。

少なくとも、これまで天の川銀河は電波銀河とは考えられていなかった。
つまり、中心部のブラックホールは燃料切れ(低光度活動銀河核)だと思われていたので、高エネルギーのガンマ線がバブル状に大量に存在すること自体が意外だったし、しかも最近出来たものだという結果は説明できないということだ。

また一つ、知らないこと(訳のわからないこと)が増えた。





マイクロモンスター

2010-11-11 08:23:56 | 科学
Tom Jackson の Miromonsters という写真集はユニークだ。
Telegraph で紹介されていた。

要するに、走査顕微鏡の写真に色がついていると思えばよいのだが、裸眼では見えないミクロの世界をいきいきと写し出している。
気色悪いという感想も多いが、見慣れていないせいもあると思う。
だにの体に波状の模様がついていたり、シラミの卵に穴が開いていたりと、新鮮な発見も多い。
アリマキの写真を借用した。
よく見ると精悍な顔つきをしている。





とぼけ気味のハエとはかなり違う。





白いリンゴ

2010-11-10 11:05:17 | 科学
青森の白いリンゴ「サイレントホワイト」が東京にお目見えする。
新聞記事には「ピュア・ホワイト」と出ていたが本家では名前が違うらしい

もちろん白いリンゴはあったのだが、白い間は甘くない。
リンゴは日光を浴びて成熟し赤くなるとともに糖度が増す。
甘くないのは白いからなのか、まだ成熟していないからなのか定かではない。
言い換えるとリンゴは白いから甘くないのか、ただの独立した結果なのかはわからない。

これまでのリンゴ農家は、リンゴが赤くなったら甘くなるという先入観をもっていた節がある。
さらに、歌にもあるように消費者にはリンゴは赤いという固定観念があり、白いリンゴに市場価値があるとも思えなかった。
大人としては、白くて甘いリンゴを作ろうとは思わなくても当然だ。

白いリンゴを開発したのが高校生のグループだと聞いて納得した。
若くて柔軟な頭ならではの発想だ。
市場価値を考える前に作ってみたかった。
独特の色や形で消費者の興味を引く可能性さえあればそれでいい。
十分な動機だ。
まずこの着眼点がすばらしい。
つまり、大人が作ろうとしないものを作ってみようという計画だ。

さらには実行力においても秀逸だ。
まず、袋をかぶせて日光を遮断してみるというのは素直な発送だ。
それだけではない。
そのほかにも、細胞内のエネルギーの使われ方にまで工夫が凝らされている。

残された問題はそれで甘くなるかどうかと言うこと。
色と甘みに直接因果関係はなくても、日光照射が色彩と味の両方に関与しているとしたら袋をかぶせれば糖度が上がらないことになる。
結局、通常は剪定する実の周囲の葉を残すことが必要だという。
こういう実用的な発見は地道な努力のたまものである。
惜しみない拍手を送りたい。

色彩の保存については、商品化を考えれば必要な処置だが、酸化を防げばいいわけだから真空パックという通常のアプローチで十分だ。
あとは市場開拓だが、こちらも話題性が十分なので成功しても不思議ではない。
日本には紅白を尊ぶ習慣があるのも追い風だ。

最後に、高校生にこれらの研究をする場を提供した周囲の大人達にも賞賛を送りたいし、感謝したい。
日本でこういう機会を得ることが難しいのを知っているだけにこういう活動が存在することをうれしく思う。

肺癌と胸部CT

2010-11-04 14:33:11 | 科学
国立がん研究所(NCI)のサイトに肺癌死を胸部CTスクリーニングで減少させられるという記事が出ていた。
これは画期的な発見で、これまでの「胸部レントゲン写真などスクリーニングで肺癌の発見が増えても致死率には影響がない」という定説を覆す。

喫煙者5万3千人を対象にした Randomized trial の第一回報告だ。
治験者には、年一回の検査として胸部レントゲンかCT(正確には Low-dose heilcal computed tomography だが)を2年間に3回受けてもらう(植木算)。
5年後の肺癌死の数をみるとXP検査群で442人、CT検査群で354人となり有意差があった。
検討会で、これ以上治験を続けるのは倫理的に問題があるとされた。
つまり、不利益だとわかったXP検査を治験のために受け続けさせるのは倫理上好ましくないというわけだ。
わずか2年間、3回の検査という段階で差がついたことは意外であったし、深刻に受け止める必要がある。
このペースで行くと、10年間CT検査を続ければ肺癌死の8割近くが防げる計算だ。
CTという侵襲性の比較的少ない検査でこれだけ肺癌死が予防できるなら、国としても積極的に行動を起こすべきだ。

ちなみに肺癌はがん死でダントツの一位だ。
全米で年間16万人が肺癌によって死亡する。
この数字は乳癌、大腸がん、前立腺がん、膵臓がんを全て合わせた数より多い

各新聞などでは、喫煙者に対してこういう検査を行うと医療費の増大につながるという意見も載っていたが果たしてそうだろうか。
早期発見すれば、化学療法費用も進行癌よりも安いだろうし、生存した人の生産性も無視できない。
一概に社会の損失とはいえないのではないか?
たとえ医療費に対する影響が不確実だとしても、これだけ有益だとわかっている検査をしないというのは倫理的におかしいのではないか?
CT検査の成人検診への導入は一考に値する。

遺伝子と特許

2010-10-29 21:08:33 | 科学
アメリカ政府が今日、「遺伝子に関する特許は成り立たない」と正式に発表した。
これは大きな転換である。
これまで見つかったヒト遺伝子の約20%が特許申請されてきたことを考えると影響は大きい。

この複雑な倫理問題は、経済と生物学の衝突だ。
基本的に、遺伝子は自然のものであり発明ではない。
その点に関して論争はない。
両陣営の言い分はこうである。

特許を認めるべきだという立場は製薬会社などに多い。
分子標的製剤等は開発期間、マーケティングを通して特許によって保護される。
うま味が大きいから当然だろう。
根拠は、遺伝子は体の中から取り出された化学物質(DNA)であり、合成も可能だ。
自然の一部ではなく特許の対象となりうる、というものである。

それに対して、遺伝子の特許申請に反対するのは、哲学者や神学者、生物学者に多い。
遺伝子は自然の一部であり誰の所有物でもない、と主張する。
さらに、抽出されたDNAは自然界の化学物質と性質が同じで、綿花から採取された綿や地球から採掘された石炭と同じだ、と続ける。

遺伝子に関する特許はすでにビジネスとして確立されている。
Myriad は乳癌に関連する遺伝子、BRCA1とBRCA2の変異を調べる検査を30万円以上で請け負っている。
もちろん、両遺伝子が正常だからだと言って乳癌にならないというわけではない。
実際、9割以上の乳癌細胞ではこれらの遺伝子は変異していない。
最近の技術を使えば両遺伝子の塩基配列を調べるだけならCDSだけでなくプロモーター領域を含めてもせいぜい、数千円で可能だ。
例えば454®(塩基配列を決める機器)を使えば一日で4億塩基の配列を決定でき、その費用は40万円ほどだ。
一人分なら数十万塩基も調べれば十分なので、その前後のDNA抽出や準備を含めても1万円もかからないというわけだ。
特許によって暴利をむさぼっている例である。

家族性の乳癌にはこの両遺伝子の変異が多い。
親類に乳癌の患者が多い場合、親から変異した遺伝子を受け継いだかどうか知りたくなるのはごく自然なことだと考える。
もし、遺伝子の変異がなければ、一生のうちに乳癌になる確率は他の人と同じ約1割。
もし遺伝子の変異が見つかれば頻回に検査をすることも可能だ。
早期発見の乳癌は根治率が高いからだ。
そういう大事な検査を特許だからと言って法外な価格で持ちかけるのは倫理的に許されるのだろうか?
もちろんビジネスなのだから利益を上げるのは当然として、むさぼりはいけないのではないか?

個人的には、遺伝子は特許にはなじまないと考える。



フェルミ推定

2010-10-27 10:54:54 | 科学
小学校4年生の宿題 (Math Project) が Fermi Questions だった。
大人と子供では考え方が異なるので、対処に難渋した。

例えば、下のピザ屋の問題について言えば、需要と供給のバランスとか、パイの分配とかという概念が子供にはない。
どうやって推定したらよいのか。
明らかに無理があると思われる仮定を使うしかないのか。

第一段階
全部で3問あったが、その中から一つ。

<ニューヨーク州にはピザ屋さんが何軒あるか?>

大人の回答:
マーケットの大きさを推定して、ピザ屋一軒あたりの年間売り上げで割れば概数が推定できる。
ニューヨークの人口:2000万人で約9割の人(ほぼ全員として計算)がピザを食べる。
平均して月2回、一人あたり$10弱/回ピザ屋に支払うので、1年を通して一人あたりピザレストランで$1000使う。
従って、マーケットの大きさは$20B(B: billion) 。
ピザ屋1軒あたりの売り上げは平均50万ドルなので、ニューヨーク州内のピザ屋の総数は4万軒となる。

子供(小学校4年生)への説明:
この町の人口は2万人
ピザ屋の数は30軒
ニューヨーク州の人口は2000万人
ピザ屋と人口の比率がニューヨーク州どこでも一定だとするとピザ屋の総数は3万軒となる。

比率が一定だというのはかなり無理があると思うが仕方ない。
マンハッタンと山間部では違うと思うからだ。(多分、都市部や郊外の方が人口の比率が高い)

第二段階
自分で問題を作る。(全部で5問)

アメリカ国内の年間新生児の数を推定するとか、前庭に生えている芝生の葉の総数を概算するとか、象1頭と釣り合うペニー硬貨の数を推量するという問題を思いつくのは何とかなった。
それらの回答を自ら作成するのに四苦八苦した。

第三段階
実数を調べる。

新生児の数は統計がある(約430万人)
芝生の葉の密度も知られている。
象の体重とペニー硬貨の重さは調べればわかる。


ここまで子供につきあって考えたこと。
日本の小学校の時にこういう宿題が課されたことはなかった。
つまり、正解のない問題を一生懸命考えると言う宿題。
日本では、学校の宿題にいつも「正解」があったのだ。

みんなが違う答えを持ち寄ってくるこちらの学校の宿題は面白いだけではなく、現実的に重要な事ではないだろうか。
実生活では正解のない問題に直面することが頻繁だからだ。
また、知識をつけると言うよりも考える力をつけさせるために努力しているのが窺われる。

日米の教育方針の違いをまた一つ見つけた。