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遺伝子と特許

2010-10-29 21:08:33 | 科学
アメリカ政府が今日、「遺伝子に関する特許は成り立たない」と正式に発表した。
これは大きな転換である。
これまで見つかったヒト遺伝子の約20%が特許申請されてきたことを考えると影響は大きい。

この複雑な倫理問題は、経済と生物学の衝突だ。
基本的に、遺伝子は自然のものであり発明ではない。
その点に関して論争はない。
両陣営の言い分はこうである。

特許を認めるべきだという立場は製薬会社などに多い。
分子標的製剤等は開発期間、マーケティングを通して特許によって保護される。
うま味が大きいから当然だろう。
根拠は、遺伝子は体の中から取り出された化学物質(DNA)であり、合成も可能だ。
自然の一部ではなく特許の対象となりうる、というものである。

それに対して、遺伝子の特許申請に反対するのは、哲学者や神学者、生物学者に多い。
遺伝子は自然の一部であり誰の所有物でもない、と主張する。
さらに、抽出されたDNAは自然界の化学物質と性質が同じで、綿花から採取された綿や地球から採掘された石炭と同じだ、と続ける。

遺伝子に関する特許はすでにビジネスとして確立されている。
Myriad は乳癌に関連する遺伝子、BRCA1とBRCA2の変異を調べる検査を30万円以上で請け負っている。
もちろん、両遺伝子が正常だからだと言って乳癌にならないというわけではない。
実際、9割以上の乳癌細胞ではこれらの遺伝子は変異していない。
最近の技術を使えば両遺伝子の塩基配列を調べるだけならCDSだけでなくプロモーター領域を含めてもせいぜい、数千円で可能だ。
例えば454®(塩基配列を決める機器)を使えば一日で4億塩基の配列を決定でき、その費用は40万円ほどだ。
一人分なら数十万塩基も調べれば十分なので、その前後のDNA抽出や準備を含めても1万円もかからないというわけだ。
特許によって暴利をむさぼっている例である。

家族性の乳癌にはこの両遺伝子の変異が多い。
親類に乳癌の患者が多い場合、親から変異した遺伝子を受け継いだかどうか知りたくなるのはごく自然なことだと考える。
もし、遺伝子の変異がなければ、一生のうちに乳癌になる確率は他の人と同じ約1割。
もし遺伝子の変異が見つかれば頻回に検査をすることも可能だ。
早期発見の乳癌は根治率が高いからだ。
そういう大事な検査を特許だからと言って法外な価格で持ちかけるのは倫理的に許されるのだろうか?
もちろんビジネスなのだから利益を上げるのは当然として、むさぼりはいけないのではないか?

個人的には、遺伝子は特許にはなじまないと考える。