昇交点

五藤テレスコープ的天文夜話

虹色でわかる宇宙

2013-07-20 17:42:25 | 天体観測

Staranalyser

Neptune_spectrum

3c273_spectrum

タイトルだけだと何のことかと思うかも知れませんが、今回は分光観測を取り上げてみます。

分光観測は天体観測の柱の一つですが、その要となる分光器が高価なのと扱うにも技術が必要とされるため、アマチュアではなかなか手が出せない分野と思います。

社長のsuzuは昭和40年代から当時のアマチュアではいち早く分光器を自作し、長時間露出でいろいろな恒星や彗星のスペクトルを記録している猛者でした。しかし40年ほど経過してもアマチュアで分光観測をする方は国内ではあまり聞いたことがありません。

そんな時、筆者は2011年8月号のスカイ&テレスコープの記事「Spectroscopy for Everyone」を見つけました。この記事はCCDなどの撮像センサーの前に100本/mmの回折格子を置き、それでスペクトルを撮影・解析して分光観測をするというものです。とても簡易的な方法ですが、それでも海王星大気中のメタンによる波長吸収や様々な恒星の輝線と吸収線スペクトル、ひいてはクエーサーのスペクトルの赤方偏移など、自分自身の手で観測ができるというわけです。

これなら自分にもできるかもと思った筆者はネット(海外通販)で回折格子と解析ソフトを購入し、チャレンジしてみたところいままで見たり撮影していた天体が記事のように分光観測ができ、天文学者の気分で天文学を楽しむことができました。

その中でもお気に入りはおとめ座にあるクエーサー3C273で、そのスペクトルを撮影すると天体撮影でおなじみのHα線の輝線スペクトルが16%も長い波長にシフトしていることが確かめられ、そこから後退速度44000km/s 距離19.3億光年を求めることができました。クエーサーの距離がとても遠いことは分かってましたが自身の観測でそのことを確かめられたというのは改めて感動を覚えた次第です。

というように思いついた感じで分光観測もかじっているのですが、先に書いた球状星団の変光星観測の話と同様に科学館や公開天文台でワークショップ活動に取り入れると天文学を実体験できるイベントになるのでなかなか面白いと思いますがいかがでしょうか。(kon)

画像1:100本/mmの回折格子(アメリカンサイズ)

画像2:海王星のスペクトル 6cm屈折望遠鏡で撮影

画像3:クエーサー3C273のスペクトル 45cm反射望遠鏡で撮影


マークX物語(6)

2013-07-11 11:54:19 | マークX物語

Markxcoldtest

第6話 耐寒テスト

天体望遠鏡は例えば砂漠での日食観測から、氷点下数十度の寒い環境でも使われる機械なので、使用される温度の範囲が非常に広いのが特長です。現在の赤道儀は殆どがベアリングを軸受にしており、これが熱膨張のバッファになっていますが、Mark-Xを開発した当時は大型赤道儀を除いてベアリングが使用されることはまれでした。軸と軸受はJIS h7・H7と規定される嵌め合い公差で精密に削り出されていたのです。

当時、五藤光学研究所の小型赤道儀は軸受に鋳鉄かアルミ、軸には鉄が使用されていました。赤道儀を極端に冷やすと、軸と軸受の熱膨張率が大きく異なる材料では、収縮して動かなくなってしまうことが判明しました。Mark-Xではほぼ同じ膨張率の材質を使うことで、低温でも動きのスムーズな軸受ができたのです。

更にこの時小型望遠鏡では初めて、高温から低温域まで滑らかさが損なわれない二硫化モリブデン系のグリスを用いたり、モータードライブの回路に耐低温特性を持たせたりしました。

添付の写真は零下25度の冷凍庫で、試作したMark-Xの耐寒試験をしている27歳当時の私の写真です。五藤光学本社の系列会社の大東京綜合卸売センターにあった大型の冷凍室があります。暑い夏のに日にここで耐寒テストをしたのは懐かしい思い出です。(suzu)

画像:耐寒テスト中のマークX