昇交点

五藤テレスコープ的天文夜話

天体望遠鏡博物館のはなし

2016-06-30 09:50:08 | 望遠鏡・双眼鏡



昨日ですが、日本望遠鏡工業会の関係者向けの研修会に参加してきました。

今回は3月にオープンした香川県かがわ市の天体望遠鏡博物館についてで、理事長である村山氏自ら講演をいただきました。

この施設を作った経緯や展示している大型望遠鏡の引き取りなどは同施設のホームページ等で十分語られているかと思うので、今回は運営についてスポットを当てることにしました。

同館の運営のポイントですが・・・
・正職員は置かず、ボランティアスタッフのみで構成。よって基本的に土・日のみの開館
・廃校となった小学校を利用し、過疎化しつつある地域の活性も考慮

こう見ると博物館を呼称するからには、機材の蒐集・調査をする学芸員や来館者対応をするにはボランティアを束ね、接客等を指導をする職員がどしても必要ではないかと思っていたのですが、村山氏の考えは経営リスクを考慮して現在のスタイルに決めたとのことです。

運営コストを最低限にして、経済状況や大家である自治体の方針が変わるなどして、状況が悪くなっても施設維持を優先できるようにするということでしょうか。これは80年代~90年代にかけて全国に文教施設・公開天文施設が多く作られながらその後は運営が厳しいという背景を考慮していると思いました。

また、現在は公共施設運営も民間業者に委託するようになっており、評価の指標として入館者数や運営コスト削減の実績を求める傾向が強く、その尺度のみで考えてし待った場合、天体望遠鏡だけをテーマにした同館の場合は最初から成り立たないのは明白でしょう。その分同館のエリアを核にした地域のコミュニティづくりや望遠鏡を活用した地道な活動を長期にわたって続けていくことが大事かと思いました。

何にせよ、まだ始まったばかりですが、同館が新しい施設運営の好事例となり、他の施設にも影響を与えるようになればと思い陰ながら応援させていただこうと思います。(kon)

関連記事 天体望遠鏡博物館オープン
http://blog.goo.ne.jp/gototelesco/e/a21a0cef1a0f426a46b30296ab4654fa

天体望遠鏡博物館HP
http://www.telescope-museum.com/


温故知新(50年以上前の15㎝屈折赤道儀)

2016-06-08 14:23:34 | 望遠鏡・双眼鏡

現在、南の空には木星・火星・土星と3惑星がそろい踏みですが、関東地方も梅雨入りしてしまいました。火星は接近中だけに、この時期にかかってしまうのは残念ですが梅雨明けまで我慢するしかなさそうです。

さて、先週ですが、都内の高校に用事があり出かけていました。そこには設置されてから50年以上になる五藤光学研究所15㎝屈折赤道儀が設置されています。この日は天候に恵まれていたことと、高校の天文クラブが一晩合宿するということもあり、夜まで残ってこの望遠鏡で実際に惑星を見る機会に恵まれました。

何分古い機材なので、対物レンズはコーティングもなく、口径比1:15のアクロマートレンズと今となっては平凡なスペックです。最近は大口径屈折もアポクロマートレンズが普及しているので、性能を比べてしまうのもいささか無理があるでしょう。

最初は薄暮中ですが木星を見ることにしました。アイピースはLV12mm(187倍)だけ使っています。シーイングも良かったこともありましたが、とても良く見えていたのです。アクロマートなので当然色収差が・・・と思っていたのですが、若干は認められるものの、最近は長焦点と言われるF8クラスのアクロマートレンズようにシャープでも、青~紫色が拡散することでカラーバランスが変わってしまうということもありません。

日が暮れるにつれ、ちょうど大赤斑が出てきただけでなく、衛星ガニメデが表面を通過するようになりました。大赤斑のオレンジ色っぽい色調や縞模様のディテールも口径相応に確認でき、またガニメデも影とは違ってグレーぽい色味で確認できました。

それから高度は低いものの、火星に向けてみました。木星に比べシーイングの影響がありましたが、それでも正面に黒々と大シルチス、ヘラスの白雲、北極冠と火星らしい光景が見えています。大気分散で周囲に赤・青のにじみが出るものの、色収差は木星同様目立ちません。

今回のクラブ合宿は年に何回か実施されるものの、天候になかなか恵まれず15㎝屈折赤道儀でじっくり見るチャンスはなかったとのことで、生徒・先生に大好評でした。特に木星の大赤斑が自転によって位置が変わっていく様子をちょうど観測できたというのは学校内の天文活動ではなかなかないと思います。

筆者としても、意外に思うかも知れませんが、15㎝屈折赤道儀で夜に天体をじっくり見るという機会はなかなかなかったので、タイトル通り「温故知新」の経験となりました。

また、生徒・先生のみなさんにもこの望遠鏡が古いながらもしっかり天体を見ることができるということを知っていただけたのではないでしょうか。これを機にこの望遠鏡を末永く活用していただくことを願ってやみません。(kon)