ごとりん・るーむ映画ぶろぐ

 現在584本の映画のあくまで個人的な感想をアップさせていただいています。ラブコメ、ホラー、歴史映画が好きです【^_^】

マジェスティック(フランク・ダラボン監督)

2007-12-30 | Weblog
ストーリー ;1951年、アメリカでは非米活動調査委員会がいわゆる赤狩り(マッカーシズム)の嵐が吹き荒れていた。「サハラの盗賊」でスタジオから一定の評価を得た脚本家ルークは次回作「灰から灰へ」のクランクイン前に共産主義活動の疑惑をかけられ、その前途を閉ざされ、恋人の女優からも別れ話を切り出されて、酒を飲んで海岸線をひた走る‥。
出演;ジム・キャリー、マーティン・ランドー、ローリー・ホールデン
コメント;コメディ俳優のジム・キャリーがハリウッドの暗い歴史である1951年当時のハリウッドを描く。1951年は朝鮮戦争が勃発した年でもあり、アメリカとソ連は朝鮮半島で代替戦争をしていたともいえる。マッカーシズムにより、ハリウッドでは「ハリウッド10」とよばれる10人の映画監督や脚本家らがいずれも失業したり投獄されたりした。この映画の巻頭でさりげなく撮影されている「アフリカの女王」の監督はマッカーシズムと戦ったジョン・ヒューストン。台本の端々に「ドレフェス事件」「エミール・ゾラ」「Dデー」‥といった当時の世相を象徴する言葉が描き出される。
 ジム・キャリーはローソンという街で映画館の復興に携わるが、そこでかかる映画もまた「欲望という名の電車」(エリア・カザン監督)や「地球の静止した日」(ロバート・ワイズ監督)などいろいろ「深読み」ができる構成で、しかも映画中の映画「サハラの盗賊」ではイスラム教徒とキリスト教徒が戦うシーンで「この異教徒め」といった台詞まで用意されている。
 
 とにかく老人役がいずれも渋くしかもかなり多くの重要な役割を演じている。街自体が若者が第二次世界大戦で戦死したという設定のせいかもしれないが、こうした老人役の多数の起用はこれまでハリウッドが忘れてきたもの。そしてまた、懐かしい蒸気機関車の走るシーンもまたすばらしく、車窓からみえる緑の木々がまた美しい。お相手役のローリー・ホールデンはブロンドの美女を演じるがこれもまた1951年にふさわしい設定だ。再興される映画館の名前が「マジェスティック」(威風堂々)。この厳しい思想統制の時代に、脚本家はいかなる形で「威風堂々」を貫こうとするのかが見もの。また、「アメリカ独立宣言」を「契約」と表現するのはかなり意味が重い。世界中で唯一「社会契約説」にのっとって国家を設立したのがアメリカ合衆国。その契約を重んじるか「紙切れの一枚」とするかでは意味合いが日本とまったく違う。そして映画館をフレッド・アステアなどの神々が降臨する神殿にたとえるのもユニークだ。

 この1951年当時にはハリウッドは思想的に非米活動委員会に圧迫され、商業的にはテレビの進出に圧迫される。この苦しい時代の暗い部分をかなり暗く、そしてまた一抹の救いをもって描いたのがこの作品。疑惑をかけられたことで自殺した映画人もいたらしいので、この映画の主人公のような真似は自分であれば‥多分、できない。ただし、おそらく1954年をピークに下火になっていったこのマッカーシズムもおそらく本当の神(社会契約説に唱える「神」、つまりアメリカ合衆国憲法)の前には「歴史上の汚点」としてのみ記録される結末となった。あれから約50年。21世紀にこうした映画が撮影される意味は政治的に大きく、そしてまた映画の中できらめきをみせる水の青い光や緑色の光は、セピア色の写真ではかもし出せない美しさをみせる。

 この映画のモデルは「ハリウッド10」の一人であるダニエル・ゴランボ(「ローマの休日」)とされているが、物語の伏線はさらに別なところにも多々用意されており、映画ファンなら楽しめること間違いなし。

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