永遠に、幸せになりたい。    by gorosuke

真夜中、いいおっさんが独り海に向かって延々と竿を振る。
アホだな。でもこのアホ、幸せなんだよなあ。

荒れた海はドラマチックだった。

2012-10-24 | アオリイカ
大阪から友人向井一家と彼らの仲間玉ちゃんがやってきた。

以前から遊びに来たいとは言っていたが
アオリイカシーズン真っ最中のタイミングである。
遠路はるばる都会からやって来たからには釣り立てのイカを腹一杯食わしてやりたいと思うし、それは約束でもあった。

というわけで、旦那の貴彦さんと釣りに出た。
彼は釣りをしているわけではなかったが、イカ釣りには興味津々、是が非でも一緒に行って自分も釣ってみたいと言う。

正直なところ、今のイカ釣りの状況は初心者にはキビシイ。
成長したイカは用心深くて簡単には掛かってくれないし、底を取るというのが鉄則だが、その感覚も分からないだろう。
まして夜の釣りである。
昼でも釣れないわけではないがこの時期のイカは夜の方が活性が高いし、昼は海が荒れ、風向きも悪かった。夜の方が可能性が高いのだ。

しかし、初心者にとって暗闇の釣りは極めて厳しい。
第一、暗闇にキャストするのであって、ルアーがどのように飛んだのかさえも分からないし、エギが海中をどのように動くのかなんて想像もできないだろう。
さらに、予報では1.5メートルの波、穏やかな海ではなかった。

そのようなことを一応説明するのだが、彼はひるむどころか
顔は好奇心に輝き、やる気満々なのであった。

というわけで、現場に着いたのは3時だった。
ポイントの磯に行ってみると、予想外に海は荒れていた。
乗っかる岩礁の周囲は轟々とサラシが渦巻き、1.5メートルどころではなかった。
一瞬、アブナイな、やめようか、とも思ったが、
やる気満々の彼の顔を見るにつけ、ともあれ行ってみることに。

乗っかる岩礁に渡るのが難しい。
波が押し寄せて行く手を遮断しているのだ。
波が大きく引くタイミングを見極め、
その瞬間、今だ!!
とデコボコの磯を忍者のごとく走り渡らねばならない。
タイミングを間違えれば、波にさらわれてしまう。
ちょっと緊張するのだったが、彼は恐れることもなく、私の号令に従ってうまく渡った。

いつもの一番前の釣り座ではもろに波を被るので、下がって高いところを選んで立ち、暫く様子を見た。
右手も左手もサラシの渦だったが、潮の流れと突き出た岩礁の形のせいで正面だけはぽっかり穴が開いたようにサラシが出来ていない。
風はうまいこと真後ろからの追い風である。
周囲の岩礁はみんな波を被っていたが、我々が立っているところだけは不思議と波が上がって来ない。
いや、時々上がって来るが大したことはない。膝下が濡れる程度。

よし!!なんとか釣りが出来そうだった。

リールの使い方、投げ方をレクチャーし、とにかくキャストしてもらう。
ふむ、初めてにしてはちゃんと飛んでいる様子。

次にシャクリをレクチャー。先ずは二段しゃくり。こいつは流石に上手くはいかない。
まあそのうち慣れるだろう。

と、私もキャストを開始した。

追い風でルアーは飛んでくれるし、荒れてはいるがルアーは沈んでくれなんとか釣りになりそうだった。
しかし、アタリは来なかった。

ライトで海面を照らしてみる。濁っていてはイカは釣れない。
海面の上下運動が大きくてよく分からない。でも荒れているということはいつもより濁っているに違いない。

こんな状況ではイカはどこかへ避難しているかも知れない。
釣れないかも・・・・不安がよぎる。
まして、彼は釣ることは出来ないだろう。
是非イカを釣る体験をしてもらいたかったが、タイミングが悪過ぎる。

しかたない。次の機会だな。
日本海の磯に立っただけでも悪くはないのだ。
などと考えていた時だった。

彼のロッドの先が曲がっている。
あら!根掛かりか!
いや、違う。ロッドの先がグングンとお辞儀している。
そして彼はリールを巻いている。
イカだ!!

「ゆっくり巻いて!!ゆっくり、ゆっくり!!」と思わず叫ぶ。

左手で巻くことに慣れないのでぎこちないが
数秒後、ラインには確かにアオリイカがぶら下がっていた。

いや、驚いちまった。
この状況で、彼が先に釣りあげるとは・・・・



サイズは小さかったが、彼の初アオリイカであった。

自分で釣り上げながら何が起きたのか状況がよく呑み込めていない様子ではあったが
とにもかくにも釣ったのだ。


彼の目標はひとつ釣り上げるということだったが、
それはいとも簡単に実にあっさり達成出来たのだった。

暫くして私にも掛かった。
深いところ。根掛かりのような重さ。底から引き剥がす。でかい!
引きも強い。ロッドがグウン、グウンとしなる。
玉網は持って来ていなかったが、それほどでもないだろう。
抜き上げると予想外に重かった。




ヤマシタ、エギ王Qオレンジ3.5号に糸錘を4~5重巻きにしてカウントは45くらいだろうか。
この荒れでは、それでやっと底に達する。

底を感じ、意識しながらしゃくる。ダート幅は小さく、誘うように。

すると再び乗った。

そいつも重かった。




そこで最初のやつとこいつを計ってみた。
24センチと22センチだった。
24センチは勿論今期最大。




その後もいい感じで数杯ヒットする。






しかし、彼にヒットしない。

エギをディープタイプに替えてもらい、
カウントも30から40、深いところを狙うように。

暫くすると、ヒット。
今度はいいサイズ。


(この写真を撮るのが私の目標だった。)


その直後、アクシデント。
私がロッドを置いて墨を吐かせるために放置していた数杯のイカをクーラーボックスに入れていると、ガチャン!!という衝撃音。
何事かと思いきや、私のロッドが飛んでいた。
彼がキャストした拍子にエギが私のロッドのラインを引っ掛けたらしい。
危うく海に落下しかけたロッドは救ったが、ラインはブレイクしていた。切れた先のラインとエギは近くの岩に引っ掛かっていてラッキーだったが、
よく見ると、ロッドの穂先が折れ、トップガイドと二番目のガイドが無くなっていた。



しかし、ここで釣りをやめるわけにはいかない。
三番目のガイドをトップガイドとして使うべく、ガイドの先に残っている部分をプライヤーで切り取り
やんわりとキャストし、やんわりとしゃくってみた。
少し堅いが、案外しゃくり易いし、なんとかなりそうだった。

いや、実際、それで問題なくイカは釣れるのだった。


これも22~3センチ。


元気よく水を噴射する。

その後も入れ食いとはいかないが、
いい感じでヒットは続いた。


彼もぼつぼつと釣り上げている様子。

見るとキャストもシャクリも次第に様になって来たようで
ロッドが風を切る音が小気味いい。
いや、大したもんである。

初めての釣りで、これほど早くものにしたやつがいたか。しかも暗闇の中でである。

周囲に夜明けの気配が流れ込んで来る頃には
ヒットする頻度は私とあまり変わらなくなっていた。

時にダブルヒットすることもあった。

心底楽しそうな彼であったし、私とて大いに心は弾むのであった。




明るくなって想像以上に波がきついことに気が付いた。
波の上下を観察すると2.5メートルの波である。

改めてこんな状況で釣りをしていたのかと。



すっかり明るくなってアタリは止まった。
前回もそうだったし、前々回もそうだった。
明るくなるとどうして釣れなくなるのか?

成長したイカは警戒心が強く、明るくなるとさらに警戒するのか?
この朝まづめに大敵である青物が来ているのか?

バッグの中に入れていたデカメバル用のアイスジグ7センチを付けて潮目に投げてみた。
前回、ひょっとしてと思い、そいつを投げてみるとバラしたが確かに何かが食いついたのだ。

イカの連続ダートと同じ要領で引いて来る。ワインド釣法だな。
と、ゴツンと衝撃。ヒットした。
走った。イカとは違い、鋭く強い引きだった。
今回はバレずになんとか引き寄せ、えいやっと抜き上げた。
果たして、そいつの正体はフクラギだった。



その後も数投してみるが、ヒットしたのは一投目だけだった。

イカは既に釣れる気配がなくなっていたが
釣果はもう十分すぎるほどで
そこで終わりにした。

思えばいろいろあった釣りだった。

荒れた海。
ティップが折れたロッドでの釣り。
貴彦さんも根掛かりラインブレイクでラインが短くなり、フルキャストが出来ない釣りだった。
しかし、今季最大も釣れたし、彼もイカを釣る体験が十分に出来た。
フクラギのオマケもある。

貴彦さんは時折岩の上まであがって来る波にジーパンの裾も運動靴もびしょ濡れであったが、ひるむことなくひたむきに釣りに集中していた。
釣りなどやったことのない都会の青年である。その彼がこんなにも釣りに没頭し、この厳しい状況をものともせずイカ釣りをなんとかものにしたのだ。



楽しいと彼は言う。
この海が気持ちいいと彼は言う。
彼の顔が朝日に輝いていた。

彼を連れて来てよかった。

心底そう思った。




(昼飯は釣り立てイカ刺し宴会。右は貴彦さんの嫁さんひとみさん、左は玉ちゃん。)