ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

NHK の広場、10、ドイツ語(09、二重否定の問題)

2005年07月12日 | NHKの広場
 2002年度には一橋大学教授の田辺秀樹さんが「歌で楽しむド
イツ語」という題で1年間、中級講座の1つを担当しました。
歌の方の解説は素人の私にはありがたかったのですが、ドイツ
文法の説明には問題が多かったと思います。これから発表しま
すように、一々質問をしました。

 返事は全然来ませんでした。最後に私は「返事を寄越さない
のは公共放送のあり方としておかしいのではないか。このまま
では法的手続きを取らざるをえない」と書きました。そうした
らようやく2003年03月初めになって、係の方の長い手紙と田辺
さんの(全部ではなく)いくつかの質問に対する短い返事とが
きました。

 ここでは、私の1つ1つの質問に対する答えの部分だけ、そ
の返事を先取りして、付けます。そして、批評を書きます。
(2005年07月12日)

 田辺 秀樹 様

 前略
 貴下のドイツ語講座「歌で楽しむドイツ語」を楽しく聞かせ
てもらっています。
さて、9月27日放送の Hobellied(テキスト80ページ~)に
ついて質問します。
最初の4行は次の通りです。

  Da streiten sich die Leut herum
   oft um den Wert des Gluecks,
   der eine heisst den andern dumm,
   am End' weiss keiner nix.

この4行目の意味を貴下は「結局だれにも答えはわからな
い」と訳しています。私も賛成です。しかし、文法的な説明が
ありませんでした。

関口存男氏の『独作文教程』(三修社、 121頁)には次のよ
うに書かれています。

「否定詞が既にあれば、それを強める第二の否定詞は不定詞
を用いる」。
 そして、次の例文が掲げられています。

1. Meine Privatangelegenheit geht keinen etwas an.
  僕の私事は誰にも何の関係もない)
   ここで、keinen nichts, niemand nichts は誤り。

2, Kein Mensch hatte mich je in diesem Tone angeredet.
 (未だ曾て我が輩に向かってこういう調子で話しかけた奴は
  なかった)

3, Ich habe in meinem Leben nie jemand betrogen.
 (僕は一生涯未だ曾て人を欺いたことは一度もない)

4, Ich habe mich kaum jemals um meine Gesundheit ge-
kuemmert.
 (僕は自分の健康を気に掛けた事はほとんどない)

 もしこの関口氏の説明が正しいとしますと、この Hobellied
の歌詞のドイツ語は「間違い」ということになります。これは
間違いなのでしょうか。それとも通俗調ではこういう言い方も
あるのでしょうか。それとも脚韻の関係で「間違いと知りつつ
こうした」のでしょうか。教えて下さい。

 尚、私の集めた範囲の用例をみますとやはり関口氏の言う通
りで、英語でも同じ事があるようです。

5. Was das fuer ihn bedeutete, sollte er erst spaeter
erfahren. Vorlaeufig ahnte weder er noch einer seiner
Reisebegleiter etwas davon.
( Die Unendliche Geschichte. S.310)

英・hat the consequences for him would be, he wouldn't
learn until much later. For the present, neither he
nor his companions hat any idea where they were go-
ing. (The neverending story. Puffin books, p.284)

よろしくお願いします。
                       草々
2002年10月03日
                    牧野 紀之

 田辺さんからの返事(2003年03月04日付け)の該当部分

─ Hobelliedの weiss keiner nix:二重の否定詞について
は、文法的には、関口氏の説明の通りと考えます。したがっ
て、この文は文法的に見れば「間違い」ということになるでし
ょう。歌詞などのドイツ語には、この種の「通俗調」、「破
格」がとりわけ多いようです。─

 批評

 田辺さんは関口さんの説明も二重否定の問題も、多分、知ら
なかったのだと思います。私はその後、こちらの意見は書かな
いで、問題点だけ指摘するようにしました。この点はいずれ述
べます。

 田辺さんは、放送の中でこの点を指摘しなかったことを反省
していません。これが拙いと思います。この番組は音楽番組で
はなくドイツ語講座であり、しかも中級の講座なのですから。

 しかも田辺さんはドイツ語教師なのにその後もこの問題に気
をつけていなかったのでしょう。2004年度にも一年間、同じ題
で放送をしましたが、そしてその時も、大部分の選曲は前回と
同じで、この歌も出てきましたが、説明には何の新しい点もあ
りませんでした。

 私はその後、更に先に進みました。Duden の文法書で既に論
じていること、ピンカーの「言語を生み出す本能」(NHKブ
ックス)の中で英語での二重否定を論じていることを知りまし
た。

 詳しくはHP「哲学の広場」の中の「NHKラジオドイツ語
講座の発展的学習」に書きました。

  (2005年07月12日)

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