ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

病院評価

2008年11月03日 | ハ行
 最近、多くの医療過誤が報道され、医師と病院に対する国民の不信を招いている。過ちを起こすのが人間の常とすれば、医療過誤を完全になくすことはできないかもしれない。しかし、多くの医療過誤は、病院が周到な防止対策を講ずれば防止できる。特に病院の医療機能を院内、院外から定期的に評価する態勢を充実させることが必要だ。

 過去50年余、米国のすべての総合病院は、安全で効率的な医療経営を維持するため、民間財団の米国医療機関認定合同委員会(JCAHO)から3年ごとに、病院の全診療機能の厳格な審査を受けてきた。もし病院に欠陥があり、早急に矯正されないときには、公式に認定されず、経営破綻に陥るのである。

 さらに、公的医療保険制度(メディケア、メディケイド)の診療報酬を支払う連邦医療財政庁(HCFA)は毎年、州政府衛生局に委託して、抜き打ちにすべての総合病院の医療機能、医師の質を検閲する権限を与えられている。HCFAの検閲は、JCAHOの評価を踏まえてさらに綿密な調査を行い、病院における医療管理の万全を期している。

 これらの二つの医療機能評価機構は審査項目として、病院の設備、医師・看護婦数と資格、カルテの充実度、死亡率・罹病率、手術数と合併症数、院内感染、救急医療体制、誤診・輸血ミス・点滴ミスなど院内で発生したすべての医療事故の報告、危機管理体制、医師・看護婦の医学教育制度などが、詳細に検閲される。

 その結果と認定は公表される。認定されなかった病院は、政府ならびに民間の保険機構から診療報酬の支払いを停止されるから、破産に追い込まれざるを得ない。

 また国民は、これらの報告に基づき作成された病院ならびに医師のデータ・バンクの情報をインターネットでアクセスでき、患者の病院選定に大きく貢献している。

 私は在米中しばしば、JCAHO、HCFAの厳しい病院医療機能審査の実態を体験した。病院長はもちろん、医師、看護婦、その他のすべての病院職員が、これらの厳しい審査に神経をとがらしていた光景を忘れられない。これらの機能評価により、どれだけ病院の医療機能が改善され、医療ミス防止に役立ったか分からない。

 約15年前、日本でもJCAHOをまねた組織づくりが厚生省・日本医師会の指導の下に企画され、ようやく1997年に日本医療機能評価機構(JCQHC)が発足した。しかし、過去3年間に、全国の病院9358のうち認定を受けたものは、わずか318病院(3.4%)にすぎない。認定を受けるのは希望制で、ほとんどの病院は認定されてもされなくても病院の収益に影響しないと考え、評価を受けないのだという。

 そればかりか、JCQHCの審査評価査定は、米国JCAHOおよびHCFAの審査に比べてあまりにも甘いことも問題である。このような、病院機能や医師の質の評価がほとんどの病院になされていない現在、医療ミスを防止する体制がおろそかにされ、医療ミス頻発の大きな原因になっていると言っても過言であるまい。

 日本の診療報酬が、病院の実際の機能や医師の質の評価を無視して診療報酬請求明細書(レセプト)を支払い基準にしているのに驚く。架空、付け増し、振り替えなど、病院の不正請求が多いのは免れない。

 日本では過去しばしば、週刊誌などに「有名病院」「名医」の名が掲載されてきたが、機能や質の評価に基づかない格付けでは、信用度に問題があると言わざるを得ない。第三者機構による病院機能評価がなされていない状態では、避け得るべき医療ミスが頻発し、患者さんたちが安心して治療を受けることのできる病院を選ぶことは不可能である。

 厚生省、日本医師会が、病院機能ならびに医師・看護婦の質の評価制度を強化し、認定病院と医師のデータベースを作成し、早急に公表されることを切望する。

  (朝日、2000年07月12日。論壇。投稿者・中野次郎)
 (中野氏は北摂総合病院理事、内科医、元オクラホマ大学数授)

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。