ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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国立大病院改革について

2007年08月07日 | ハ行
   国立大病院改革、文科省の実質支配が問題だ

          医師、元東大医学部教授 柴田 洋一

 安倍内閣は「教育再生」を最重要課題として教育再生会議で審議
を開始した。しかし私は、それより前に教育行政を担当する文部科
学者の適格性こそを、まずは検証すべきだと考える。

 以下の事例を経験し、その非民主的な行政手法や隠蔽体質を痛感
したためだ。

 2002年03月に国立大学病院長会議から国立大学病院の合理化案で
ある「提言」が発表された。その中で焦点になったのは、輸血部や
薬剤部、臨床検査部といった中央診療部門のリストラだった。同部
門はチーム医療の質を保持するために重要な基盤部門だが、提言で
は「専任教官を置かなくてもよい」などとしたため、猛反発が起こ
った。

 折しも、薬害エイズ事件への反省から血液新法の法案が審議され、
輸血医療の重要性が唱えられていたころである。とりわけ日本輸血
学会は「専門家を養成できなくなる」、「医療の国際的常識に反す
る」と強く批判した。

 輸血医学が専門の私も国民医療に重大な悪影響を及ぼすこの提言
に抗議し、2002年末に東大医学部教授と東大付属病院輸血部長の職
を辞した。

 そして2003年01月、病院長会議の議事録を情報公開請求した。会
議に出ていた文部官僚が提言作成を誘導したとの疑いを持ったから
である。しかし同年03月、「記録はない」として不開示決定通知を
受けた。

 文科省は、国会議員の質問主意書への答弁書などでも「記録はな
い」と説明していた。だが2003年04月、その存在を週刊誌が暴露。

 ここにきて当時の遠山敦子文科相は議事録の存在をようやく認め
て国会で陳謝し、虚偽答弁書作成の責任で同省の官僚7人を処分し
た。

 その後、私は入手した議事録を読んで、文部官僚が「まだまだ実
弾が入っていないので込めてもらわなければならない。検討が足り
ない部分について記載させていただいた」などと発言し、会議を誘
導していった過程を実際に知った。

 だが文科省は、2003年05月に再提出した政府答弁書でも「官僚の
関与はない、提言は病院長会議が自主的に作ったものだ」と主張、
国会審議は幕引きされてしまった。

 私は「議事録隠しの不開示決定は情報公開法違反」として提訴し
た。そして、今年03月の東京高裁判決を受けて私の勝訴は確定した。

 判決文は「会議の後半以降、文部科学者が会議を主導していった
こと、同省の意図が本件提言の内容に一定程度反映されていること
が認められる。(中略)同省ないし医学教育課としては、本件議事
録が公にされ、本件提言策定の過程が明らかにされることは避けた
いとの意向を有していたことがうかがわれる」と認定している。

 ところが、この判決後も同省は説明責任を全く果たしていない。

 文部官僚の主導を許した背景には、予算配分権を握る文科省によ
る国立大学の実質支配がある。法人化後も国立大学は同省の事務官
を受け入れているばかりか副学長や副院長などに昇格させている。
同省が大学を評価し、交付金を決める権限を握っているためだ。こ
うした構図にメスを入れない限り「教育再生」はあり得ないと考え、
あえて問題提起する次第である。

 (2007年06月14日、朝日。私の視点)

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