ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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藤原和博氏の「よのなか科」の限界

2007年01月04日 | ハ行
 東京の杉並区立和田中学校の校長に民間出身の人が就任して大きな改革をしているとのことで、大評判になっているようです。校長の名は藤原和博さんで、リクルート出身のようです。

 彼が教育にかかわるようになったきっかけは、自分の子供のだったか、忘れましたが、ともかく社会科教科書の内容があまりにも現実離れしているので、自分たちで代案みたいなものを作ったことだったようです。

 その後、杉並区の教育委員になり、3~4年前に校長になったようです。任期は5年だそうです。

 就任した当時は、廊下を自転車で走る生徒がいるような荒れた学校だったようですが、いまや学校選択制の同区で多数の入学者を集める学校になったようです。

 1校時を45分(普通は50分)にして授業のコマ数を増やすような時間割を作ったり、地域の人達の応援を得て土曜日に補修授業のようなものを開いたりしているようです。

 そして、その改革の中心が藤原さん自身が教壇に立つ「よのなか科」だそうです。藤原さんは教員免許を持っていないので形だけは専任教員が付いているようですが。

 この「よのなか科」について、先日放映されましたNHKの番組を見て考えたことをまとめます。これは3年生だけの授業ですが、多分、全員を一度に相手にして大教室で行っているのだと思います。

 そこで取り上げられていた課題は「自分がハンバーガー店の店長だとして地域に支店を開くとしたらどこに開店するか」といったことでした。生徒はどこかの駅長か誰かに、授業中に実際に携帯電話を使って乗降客数を調べたりもしていました。

 その他のテーマでは実際にあった殺人事件についてその犯人を裁くディベートのようなものもあったと思います。この時は実際の弁護士が何人か応援に来ていました。

 私はこのような現実の生活から出発する授業に賛成です。そして、実際藤原さんの授業は成果を上げているようです。これを確認した上で、この授業の限界と思うものを2点指摘したいと思います。

 第1は、授業に外部の人の応援を頼んだり、外部の人の所へ行ってインタビューしたりするのは、とても好いように思えますが、多くの学校でこういう事をするようになったり、総合学習のように毎年、そういう事が繰り返されると、同じ人が何回も協力させられるわけで、迷惑になることもあると思います。

 その意味で、これは藤原さんの授業だけで成り立つやり方で一般性がないと思います。基本的に授業は担当者と生徒とでするべきだと思います。私も現実の問題を出しますが、必要な場合には関係した新聞記事を読んだりビデオを見たりすることに止めています。

 第2に、根本的な問題として、藤原さんの「よのなか科」で取り上げるテーマは民間の仕事に関係したものがほとんどではないかと思いました。もしそうだとしたら、やはりそれは大欠点だと思います。

 「世の中」は官と民とから成り立っています。しかし、その時、両者は並立しているのではありません。官が作った枠組みの中で民は活動しているのです。換言するならば、官が作った土台の上で民は踊るのです。従って、官のあり方で民間の活動はしやすくもなればしにくくもなります。

 それに官は何よりも税金でまかなわれているのです。「販売」を考えなくていいのです。この根本的な違いを見落としては困ります。

 これらの点で日本と北朝鮮との違いは官の領域の大小にすぎません。

 ですから、本当の「よのなか科」では民だけでなく官についても勉強しなければならないと思います。いや、何よりも官のあり方を学び、官のあり方を批判的に見て考えて行動する方法を学ぶことが中心だと思います。

 しかし、日本の学校では官の本当の姿を教え、それに正しく対処する方法を教える努力はほとんどなされていないと思います。

 それは教師自身が官だということもあると思います。私立学校の教員でも給与や年金などで公立の教師に近く、一般の勤労者とは違う待遇を得ています。

 そういう理由もあって、ともかく、日本の社会科教育では官の本当の姿を教えないで、制度を教えるだけだと思います。

 藤原さんの「よのなか科」でも、現に、杉並区の学校選択制の是非でディベートをしているようには見えませんでした。愛知県犬山市のように選択制ではなく「学ぶ喜び」を力にして「すべての学校を良くしよう」という方針の所もありますが、それと比較して考える授業もないようです。

 更に、東京都教育委員会の君が代・日の丸の押しつけ方針について考える授業もないと思います。

 学校や役所のホームページにおける情報公開を検討する授業もないようですし、自分たちで「カウンター・ホームページ」を作る授業もないようです。

 これがこの授業の根本的な欠点と言うか、限界だと思います。察するに、藤原さん程の人ですから、この欠点は自分で知っていると思います。そして、この欠点を是正するには、自分がもっと上の地位に就かなければならないことも知っていると思います。

 藤原さんは後少しで退職するはずですが、その後どうするのでしょうか。その時の行動を見れば、藤原さんの認識がどの程度だったかが分かると思います。

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