蓮舫が2016年8月5日午後、党本部で民進党代表選への出馬会見を行った。そのときのどういった党の姿にするかに言及した発言を「産経ニュース」から見てみる。
蓮舫「『野党は一体何のためにあるんだろう』と、今回ずいぶん随分考えた。政権が間違った方向とか、あるいは政権や与党が国民を幸せにしない政策とか、納得できない政治を作ったときに、それを牽制(けんせい)する役割はもちろんある。でも、私たちはさらにその一歩先に対案がある、提案がある、提言がある。
でも、残念ながらこれが国民に届いていない。伝わっていない。私たちは批判ばっかりだと思われている。私は代表として、ここを変えたいと思う。私たちには提案がある、提言がある、対案がある。そして、その案を実現できる、立法できる、具現化できる人材がいる。ここに信頼を付け加えたいと思う。
国民の皆様方に選んでいただける政党にしたいと改めて思う。例えば、大臣が政治とカネでお辞めになられたとき、『その不祥事はおかしいじゃないか』と国民の怒りの声を代弁する役割が、野党にはもちろんある。でも、その先に、何でこれが問題だったのか。政治とカネ。国民がなぜ怒っているのか。解決策はどこか。問題点はどこか。それをしっかりと提案できる政党にしたいと思う」――
与党の政策や与党議員の不正行為等に対して批判のみではなく、与党の政策を上回る提案・提言・対案を行い、同じく与党議員の不正行為等を二度と起こさせることのない提案・提言・対案を行って、信頼を獲ち取っていくと言っている。
そうでなければ、信頼は獲ち取ることはできない。
同じ趣旨の発言を繰返している。
蓮舫「批判ではなく提案へ。批判から創造へ。私はこの政党を選んでいただける、信頼していただける民進党に変えたいと改めて覚悟を持って、今回の代表選に臨ませていただきたいことを決めた」
発言通りに実行できたら、蓮舫民進党は信頼獲得の実効性を上げるはずだ。
蓮舫は執拗なくらい同じ趣旨の訴えを繰返している。
蓮舫「これから先、この民進党をしっかりと選択していただける政党につくっていく。私たちの政策も対案もあります。人材もその人たちの能力も保証されたものだと思っていますので、信頼を1つずつ積み重ねていくことのできる政党にしていきたいと改めて思っております」
蓮舫「これから先、私が向かうべきは巨大与党です。大きな大きな与党と対峙する。人気の高い今の政権と向き合う。
そして堂々と批判ではなく提案、私たちの提案力、創造、国のあり方をもって、しっかりと戦って、選択していただける政党にぜひ一緒にしていただきたいと、改めてお願いを申し上げます」
蓮舫「我々は、批判だけではなくて提案をして、政権とは違う、こういう考え方があるということを声高に訴えていく、このことをまず徹底していきたいと思っています」
当然、後は実行あるのみとなる。蓮舫の民進党代表としての存在理由はこの実行性と実行したことの実効性にかかっていることになる。
何も実現できなければ、自らの存在理由を失う。
このような蓮舫の訴えを記者が質疑で取り上げた。
記者「『批判ではなく提案』と言ったが、野党にとっては言うは易く実践は難しい。それを実践して成功した人は誰か思い当たるか。また、提案へシフトするにあたり、具体的にどんなイメージを抱いているのか」
蓮舫「この夏の参院選の私の実感が全ての原点にあります。どうしても選挙の演説となると、やはり選んでもらいたいという部分では、野党の戦い方としては現政権の問題点を列挙して、それに対して批判して、それで皆様方と怒りを共有して、そして支持を広げていくというやり方が伝統的だと思う。
私は今回そうではなくて、その先に『我々はこういう正し方を持っている。どちらが皆様方に選んでいただけるか。私たちは選んでいただける政治家でありたいし政党でありたい』という、このことに関して、町で皆様方の反応はとてもよかったと実感しています。
これまで私も国会の中での質問、当初国会議員になったばかり(の頃)は、やはり批判とかはある意味、楽なんですよね。けれども、問題の指摘だけでは何の解決にもつながらない。国民の代表であるという、例え野党であろうと、問題があるんだったら解決することをしっかり提案していくことは、これは私は問題は全くないと思っています。あと、別に特段どなたかを意識しているものではなくて、つくっていきたいと思っています」――
聞こえのいい至極尤もなことを言っている。
「『我々はこういう正し方を持っている。どちらが皆様方に選んでいただけるか。私たちは選んでいただける政治家でありたいし政党でありたい』という、このことに関して、町で皆様方の反応はとてもよかったと実感しています」と発言していることは、街頭演説等で、どのくらい集まったか知らないが、聴衆にそのように訴えて反応が良かったというだけのことで、安倍政権のこの政策に関しては私はこういった提案なり対案なりを持っていますと自身の提案・対案を具体的に披露したことに対する好感触というわけではあるまい。
要するに民進党の今後のあるべき理想の姿を抽象的に語ったに過ぎない。にも関わらず好感触を受けた。
好感触を持った聴衆は具体的な実行性と実行したことの実効性ある姿を待ち構えていることになる。
ついでに2016年9月2日に民進党本部で行われた「民進党代表選3候補者記者会見」から、蓮舫の同じ趣旨の訴えを見てみることにする。
蓮舫「『蓮舫代表』になっただけで大きく変わります。それは玉木さんも前原さんも同じです。みんなその思いでここに立っています。やはり『新世代民進党をしっかりつくっていくんだ』、このメッセージをこれから15日まで打ち出していく、皆様方に報道していただく、それが届いてもらいたい。
その後、どうやって『変わった』感を維持するかが一番問題だと思っています。ここにおいては私は奇策はないと思っています。愚直なまでに、批判ではなく提案、批判ではなく創造、私たちはそれを示し続けていくことだと思います」――
「批判ではなく提案、批判ではなく(対案や提言等の)創造」が有権者の中にある民進党の姿を大きく変える契機となる、動機となると執拗なまでに訴えている。
これ程までに執拗に繰返しているのだから、このことに関する蓮舫の自覚は相当なものがあるはずである。
蓮舫は2016年9月17日放送の「ウェークアップ!ぷらす」に東京スタジオから出演した。そのときの普天間飛行場の辺野古移設に関する蓮舫の発言には自身が強く自覚しているはずの、民進党を新しい姿とする“批判ではない対案・提言・提案の創造”をどこにも窺うことはできなかった。
辛坊治郎「蓮舫さん、具体的な安全保障の話で言うと、蓮舫さんも野田さんも普天間基地の辺野古移設には賛成ですよね。とすると、自民党が進めているその方向性に乗るというのはあり得ますか」
蓮舫「ただこれは辛坊さん、今の政権の沖縄への、何て言うんでしょうか、手法というのは余りにも私は民意に、沖縄の県民の心に寄り添っていない遣り方だと思っています。
特に、特に看過できないのは、これは長い自民党政権のときでも、私たちの政権のときでも、沖縄の基地問題と沖縄振興の予算は必ず切り離していました。今の政権は来年度の概算要求で沖縄の振興予算切り下げました。
あるいは選挙が終わったら、訴訟に踏み切りました。
あまりにも乱暴な遣り方だと思っていますので、目標・目的という以前にその途中経過は到底賛成できません」
辛坊治郎「それは分かります。でも目指すところが同じならば、蓮舫さんなら沖縄を説得して辺野古移設をできるとお考えですか」
蓮舫「これはもう、あのー、自分たちが政権を担ったなら、やるべきことは主張していきます。
やはりただ、辛抱さんね、そのね、これは分かったと言って、途中経過を端折るものではありません。今の政府の遣り方は私は賛成できません。沖縄県民の心を蔑ろにしています」――
橋本五郎が野田佳彦の幹事長起用と共産党との連携についての質問に変える。
9月11日にさいたま市で開かれた候補者による討論会で辺野古移設に関して三者共に発言していることを「NHK NEWS WEB」伝えているから取り上げてみる
蓮舫「結論は基本軸として守るべきだ。どんなにアメリカと話をしても、選択肢はやはり限られてくる。ただ、今の政権の、沖縄に寄り添っていないやり方はあまりにもひどく、この手段においては考えるべきだ」
前原誠司「進め方に極めて違和感がある。沖縄の理解なくして日米安保は成り立たないという丁寧さが必要だ。日米安保が必要なら、辺野古以外で本当に日米で合意できる場所がないのかどうかを静かに議論すべきだ」
玉木雄一郎「鳩山政権でいろいろあり、結局、日米合意という形で現在の辺野古移設を決めたが、その後、さまざまな民意が沖縄で示されている。民進党になったので、沖縄政策については、アメリカ側としっかり対応すべきだ」
記事は発言をそのまま解説している。〈沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設計画について、蓮舫代表代行が、維持すべきだという考えを示した一方、前原元外務大臣と玉木国会対策副委員長は、見直しも含めた再検討が必要だという考えを示しました。〉――
このような辺野古移設に関わる蓮舫の姿勢が辛坊の質問となって現れたのだろう。
蓮舫の辛坊の質問に答えたここでの辺野古移設に関わる発言の全ては政府の批判で始まり、批判で終えている。「沖縄の県民の心に寄り添っていない」、「あまりにも乱暴な遣り方」で、「目標・目的という以前にその途中経過は到底賛成でき」ない。「今の政府の遣り方は私は賛成できません。沖縄県民の心を蔑ろにしています」
では、どういった遣り方が沖縄県民の心に寄り添うのか、“批判ではない対案・提言・提案”を何一つ提示していない。
「今の政権は(基地問題と沖縄振興予算と結びつけていて、沖縄が基地移設に応じないから)来年度の概算要求で沖縄の振興予算切り下げました」と言っていることも批判である。
確かに安倍政権は翁長沖縄県知事が辺野古移設に強硬に反対していることから、沖縄県運営の兵糧となる振興予算をどのくらいにするのか、安倍政権でどうにでもなるそのサジ加減で以て反対姿勢を切り崩す圧力の一つに利用しているが、だからと言って、増額したとしても、米軍基地に関して沖縄県民の心に寄り添う政策となるわけではない。
なぜなら、国家権力側が基地問題と沖縄振興予算を切り離すのは当然だが、沖縄の民意を背景とした沖縄県側にしても、基地問題と振興予算を切り離していて、目に見える増額があったからと言って、基地反対を基地賛成に転ずるワイロ紛いのプレゼントとするわけではないからだ。
蓮舫はこのことに留意して発言していない。
もし蓮舫が“批判ではない対案・提言・提案の創造”を言うなら、そして普天間飛行場の辺野古移設に賛成ならば、沖縄振興予算などを持ち出さずに辛坊治郎が「(安倍政権と)目指すところが同じならば、蓮舫さんなら沖縄を説得して辺野古移設をできるとお考えですか」という質問に対して、「説得してできますよ」と具体的対案を的確に示した答を口にしなければ、言っていることの“創造”は自身の訴えをウソにするマヤカシを犯していることになる。
少なくとも「説得できる対案を早急に用意します」と約束しなければならなかった。
大体が沖縄県民の多くが基地の移設に反対している。沖縄の県民の心に寄り添う基地の移設など存在するのだろうか。
日本国土の約7%しかない沖縄の土地に米軍基地が日本全体の米軍基地の約73%が存在するという。沖縄県民の多くが沖縄だけがなぜこうも負担を強いられなければならないのかと疑問を抱かざるを得ない理不尽そのものの過重な負担が沖縄県民が米軍基地との関わりに於いて沖縄に誇りを持つことができない理由となっているはずだ。
このことは本土のいずれかの自治体に取り替えて考えると容易に想像できる。
それとも米軍基地の負担に誇りを持っていると考えているのだろうか。持つことができないからこその基地反対であろう。
当然、「沖縄の県民の心に寄り添う」を言うなら、蓮舫は辺野古移設に反対しなければならない。
だが、賛成である以上、「沖縄の県民の心に寄り添わない」形で移設を進めることになる。
蓮舫代表のもと民進党が政権を獲得しても、安倍政権と同様にできることは沖縄県民の民意に反して、あるいは反対を無視して移設を強行することぐらいだろう。
蓮舫が代表選中、そして代表選後も言い続けるであろう“批判ではない対案・提言・提案の創造”は9月17日放送の「ウェークアップ!ぷらす」出演での発言で早くもメッキが剥がれたように見える。